サイトの更新中断のお知らせ

次世代の論客を応援するサイト「ジレンマ+」は、 この度、NHK出版Webサイトのリニューアルに伴い、 ひとまず、情報の更新を中断することになりました。 長いあいだご愛顧いただき、ありがとうございました。

2015.04.24
2013.04.03

縮小する日本社会で、あなたはどこに住みますか?:刈内一博

人口が減少して高齢化が進む「縮小する日本社会」で、私たちは“住まい”をどのように考えればよいのか? 大手不動産会社で新商品開発を担当しながら、1976~1985年生まれの「ポスト団塊ジュニア世代(PDJ世代)」の暮らしと住まいを考えるプロジェクトを仕掛ける刈内一博さんが、マクロの視点と自らの経験から“住まい”を考えます。

刈内 一博 (カリウチ・カズヒロ)

1978年生まれ。筑波大学大学院修了、野村不動産株式会社入社。分譲マンション「PROUD」の事業推進・建築部門を経て、商品開発部では「かやぶきの里プロジェクト」を起案、グッドデザイン賞3部門受賞。2014年4月より海外事業部に配属、海外市場の開拓に従事。業務外活動として「新宿360°大学」を立ち上げ、独立企業でも社畜でもないサラリーマンの働き方として、イントレプレナーシップの可能性を探る。共著に、『新世代トップランナーの戦いかた 僕たちはこうして仕事を面白くする』(NHK出版)。

神原 一光 (カンバラ・イッコウ)

1980年生まれ。NHK放送総局 大型企画開発センター ディレクター。主な担当番組に「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」「しあわせニュース」「おやすみ日本 眠いいね!」。著書に『ピアニスト辻井伸行 奇跡の音色 ~恩師・川上昌裕との12年間の物語~』(アスコム)、最新刊は『会社にいやがれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

PDJ世代とは?

神原  本日は、「ポスト団塊ジュニア世代(PDJ世代)」の暮らしと住まいを研究し、大手不動産会社で新商品開発を担当されている刈内一博さんをお招きしました。刈内さんは「PDJ-Lab」という“ポスト団塊ジュニア世代の暮らしと住まいを考える”活動をされています。この「PDJ-Lab」には、ジセダイ勉強会でも講師としてお越しいただいた安藤美冬さん(参照:「ボールペン1本から変える“働き方”:安藤美冬」)も参加されていますね。まずは「PDJ-Lab」について教えてください。

刈内  はい。「PDJ(ピー・ディー・ジェイ)」は「ポスト団塊ジュニア」の略語で、私が作った造語です。PDJは1976~1985年に生まれて、2013年には27~37歳になる世代です。この世代に注目したきっかけは、結婚や出産などライフステージの変化に伴い、この世代が今後の住宅市場のメインターゲットとなるからです。また、私自身もこのPDJ世代の当事者で、何よりも自分の身に置き換えて、肌感覚で研究開発が出来るのではないかと思いました。会社の先輩に「お前らの世代はよくわかんねぇなあ」と言われたりすることはありませんか?(笑)

神原  思い当たる節はあります。あとは、話題として「世代論」が持ち上がることは、よくありますね。

刈内  私も「何を考えているのかわからない」とよく先輩から言われたのですが、この世代の価値観を一言で説明することはとても難しいと感じています。私は大手のデベロッパー(大規模に商業施設や住宅などを開発する会社)に勤めていますが、この実体のつかみにくいPDJ世代にマンションなど住宅を提供していくことがミッションです。ターゲットを正確にとらえられない状態で市場に的を得たソリューションを提供することはできません。また、従来の商品開発のプロセスではPDJ世代の本質をとらえることが難しいと考えて、PDJプロジェクトを立ち上げました。

神原  まずは、自分たち「PDJ世代」のことを知ろう、ということから始めた訳ですね。

刈内  PDJ-Labでは、デベロッパーやメーカーなど企業に属する人たち、また先進的な建築家や安藤美冬さんのようなイノベーターの方々をお招きして、ポスト団塊ジュニア世代の暮らしと住まいを考える会議をつくり、Ustreamで会議そのものを生放送していました。さまざまな立場の人たちがアイデアを出し合うなかで化学反応を起こし、単独では得難い知見を共有するオープン・イノベーションという位置づけです。

神原  ちなみに「PDJ世代」の特徴みたいなものは、浮かび上がってきたのですか?

刈内  PDJ世代は戦後の経済成長やバブルの好景気をリアルに感じることなく育った世代です。小学生くらいのときにジュリアナ東京がテレビで盛り上がっているのを見ていたりするんじゃないでしょうか。会社の先輩から「俺らはお前ぐらいの時はさ、こうやって一万円札を握りしめて六本木でタクシーとめてさ」と言われても「だから何ですか」と思ってしまう感覚です。ちなみに先代は「団塊ジュニア世代」、次代は「ゆとり世代」と呼ばれています。私は今34歳でPDJ世代なのですが、ざっと振り返ってみると悪いニュースが多かった印象があります。たとえば今の30歳は、9歳でバブルが崩壊して、11歳から就職氷河期になって、13歳で阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件、19歳で米国の同時多発テロ事件が起きています。最近ではリーマンショックや東日本大震災もありました。比較的ネガティブな社会を生きてきたんじゃないかなと思います。

神原  「ロストジェネレーション(失われた世代)」という言葉も出ましたね。

刈内  世代として「損しているな」って思っている人が多いのが、この世代の特徴だと思います。その上の団塊ジュニア世代とは考え方や価値観がだいぶ違います。下のゆとり世代とも違うという意味で、過渡期ともいえます。PDJ世代はいろいろな価値観が混在していて、たとえば「やっぱり車はBMWっすよね」という人もいれば、「ゆるく生きたいです」という草食的な感覚を持った人もいます。流行語で言うとコギャル、ニート、草食系男子、家飲みなど、ポジティブなイメージが弱く、実際にどうかは別にして、世代全体としては内向きに見られているのだと思います。世代を一括りにするラベリングは仕方ないと思いますが、こうした状況を理解した上で自分たちなりに考えていることを発信していきたいと思っていますし、ビジネスとしてもこのPDJ世代に向けて住まいのソリューションを提供していきたいです。神原さんたちが、番組をつくるときもそうではないですか?

神原  自分たちと同じ世代に、本当に番組が届いているのかというのは、いつも考えています。この勉強会に参加しているみんなも、同じ気持ちを抱いたことがあると思います。

2050年には日本の人口が4000万人減る

刈内  ここからPDJ世代がこれからどんな社会を生きていくのかを少し深掘っていきます。キーワードの一つが今日のテーマでもある「縮小する日本社会」です。こちらのグラフをご覧ください。日本の人口の推移のグラフです。

引用元:「PDJ-Lab 統計資料」より(http://www.pdj-lab.jp/statistics/

刈内  日本の人口はだいたい50年単位で見るとわかりやすいです。1900年でざっくり4000万人、1950年になると倍の8000万人になって、2000年で1億2000万人。そこまでは50年刻みで4000万人ずつ増えています。でも、逆に2050年には4000万人減ります。大げさに言えばに日本史上初の大規模な人口減少局面を迎えるということです。すごいスピードで人口が減っていくなかで、どうやって生きていけばいいのだろうかということを、真剣に考えていかなくてはいけない時代が到来したのだと思います。大きくなることに対する幸福論はだいたいの人が持っていますよね。収入が増えました、大きな家に住みました、子どもがたくさん生まれました。みんな大きくなることはだいたいハッピーです。でも、これからは小さくなることをどうやってハッピーに変えていったらいいのか。たぶんそれがこの世代でいちばん大きな課題だと思います。当然ながら会社の売上だって小さくなっていくかもしれない。マクロに見ると日本が縮小していくのは確実で、この大きな流れを変えるのは到底無理です。縮小していく社会背景のなかでどうやって幸せをつくっていけるのか。これがPDJ世代のライフワークになっていくはずです。

神原  縮み行く日本で、どう幸福感をつくっていくのかということになるのでしょうけれども、刈内さんの不動産業界、たとえば住宅はどうなっていくと考えているのでしょうか?

刈内  住宅は都市とそれ以外では状況が異なると思います。一般的には社会がシュリンクしていくときに人口は集積されていく傾向にあると言われています。1か所に集まっていくんです。日本なら東京でしょうか。東京は日本の他の都市に比べて人口減少の影響は少ないです。一説では、30年後には今の人口の半分近くになる県もあると言われています。かんたんに言えば東京など大都市で起こるだろう問題と、他の町や村で起こる問題は当面は事情が異なるので、ひとくくりにこれからの日本の住宅を語るのはけっこう難しいと思います。

神原  たとえば東京で考えると、どうなっていきますか?

刈内  東京に関して言えば、短期的には人口が増えると言われています。家族形態もだいぶ変わり、ファミリーはどんどん減って1割ぐらいは減ります。その代わりに一人暮らしは増えます。核家族化だとか無縁社会とかいろいろなことが言われていますが、大きくはその方向に進みます。ただし、その先を見ると人口は減ります。人口が減少することは住宅ビジネスとしては、市場が小さくなることを意味するので、空き家も増えるかもしれません。でも、ポジティブに考えれば住宅の価格が下がり買いやすくなるので「広い家に住める!」など、先ほどの小さくなるなかでのハッピーの一つになるかもしれません。

「縮小する日本社会」で小さなハッピーをどう見つけるのか?

引用元:「PDJ-Lab 統計資料」より(http://www.pdj-lab.jp/statistics/

刈内  そしてこれが日本の人口ピラミッドです。左が2010年、右が40年後の2050年です。ちょっとドキッとしませんか?

神原  2050年になると、だいぶ逆三角形ですね。

刈内  その逆三角形のいちばん上にPDJ世代はくるわけです。人口分布でいちばん多い世代が80歳代になるぞ、みたいな。つまり、縮小だけではなく少子高齢化です。縮小と少子高齢化のなかで幸福論を探していかなければいけないと感じています。「唯物史観」という言葉があります。19世紀の思想家カール・マルクスの歴史観ですが、「下部構造が上部構造を規定する」という有名な言葉があります。その時代における経済や物質的な存在(下部構造)が人間の意識やそれに基づく制度(上部構造)をつくるってことです。たとえば、戦国時代で関西地域の木材が戦争の燃料でほとんど使われてしまった時代があるのですが、その時代は今まで立派な木でつくってきた家がどんどん細い木やよれよれの若い木でつくられるようになりました。千利休の茶室などの細い木材で建てられた数寄屋建築です。そうした小さな家に対して“わび”“さび”という新しい価値が与えられています。これも唯物史観の一つだと思うんですよ。

神原  先ほどの小さくなるなかでのハッピー探しみたいですね(笑)。

刈内  これからの時代、同じようなことが起きてくるんじゃないかと思います。上の世代は車はベンツだのBMWだの高級外車がいいというけど、私たちはカーシェアリングでいいんです、とか。すでに起こりつつあることです。下部構造が変われば上部構造も変わります。いつの間にか「高齢者って最高だね」と言っているかもしれません(笑)。そして、もう一つのポイントが所得の話だと思います。こちらのグラフをご覧ください。

引用元:「PDJ-Lab 統計資料」より(http://www.pdj-lab.jp/statistics/

刈内  ちょっと古いデータになりますが、 1997年と2007年の30歳から34歳の男性の日本全体の平均所得分布です。週5日フルタイムで働いている人の分布で正社員・契約社員といった区分けはしていません。ご覧のとおり中央のボリュームゾーンが10年で500万円台から300万円台へと、200万円も下がっています。ちょっとショッキングですよね。

神原  家も車も買わない、いわゆる「欲しがらない世代」ですね。刈内さんはそんな人たちにどうやって住宅を提供したいと思っているのでしょうか?

刈内  全体的な話をすれば、まず前提として、そもそも家長(お父さん)が家を持っているのが当たり前の時代ではなくなるのではないかと思います。 世帯主が自分の資力で自分の家族のための家を建てる、家を持つという時代は戦後、高度経済成長期の一部の時期でしかありません。「夢のマイホーム」とか「お父さんは自分の家を買わなくちゃ」とか、そんな常識は長い日本の歴史から見ればとても短い期間のものです。これからの時代は、誰かの家を借りて住む、あるいはシェアハウスでみんなで住むなど、かんたんに言えばお金をかけないで暮らすということがもっと現実的になってきます。ただし、人口が減って、価格が下がれば今まで買えなかった人が意外とかんたんに住宅を手に入れられるなんてこともあり得るので、多角的にとらえる必要はあるかなと思います。

神原  ありがとうございます。ここまでで、会場から質問はありますか?


Q&A

Q:こちらの資料にある写真の住宅はどんな住宅なのでしょうか?

「プラウド東京八丁堀」のコワーキングラウンジ

刈内  これはマンションに共同スペースをつくっています。東京でも渋谷を中心にコワーキング・スペースが流行っていますが、コワーキング・スペースはただ個人が自分ひとりで仕事を完結するためのものではありません。それだったらスタバでいいんです。わざわざ行く意味は、たとえば同じ場所で仕事をしていると「何をしているんですか?」という話になり、そこから新しいビジネスが生まれたりする。ファーストプレイスは家、セカンドプレイスは職場に対して、職場でも住宅でもないサードプレイスの在り方は”ノマド”という言葉が流行る以前から議論されていました。じゃあ、そのサードプレイスは職場の近くにあった方がいいのか、駅の近くがいいのか、もしかしたらマンションのなかにあってもいいのではないか。そうしたコンセプトで住宅内にコワーキング・スペースのようなサードプレイスをつくってみたものが写真の住宅です。

神原  ここでコワーキングするってことですか? マンション内に共同の仕事スペースを作るってことですよね?

刈内  仕事スペースというよりも多目的スペースに近いです。たとえば、個人事業者の方が多く住む場合、確定申告が近くなりましたので今日は税制について講師を招いて勉強しましょうというように、人が集まって触れ合って何かを学んだり、知識やノウハウなど無形のシェアから、新しい何かが生まれることを期待しています。コワーキングスペースのような仕事や学びの場でもありつながりの場でもあるスペースを、住宅のなかに取り入れてみたいと思いました。

神原  狙いとしては、マンションの住居者同士が仲良くなるようにしたいということですか?

刈内  もちろんあります。会社としても入居者同士のコミュニティ形成については、大学と5年ぐらい共同研究を進めています。

神原  何が起きるのでしょう。気になります。

刈内  マンション、家に対する愛着が深まります。「この家が好き」という。ただし、「みんなつながりましょう」と過度に働きかけると、排他的な考え方になるので注意が必要です。

神原  なるほど。一方で、もともとマンションや町内には自治会や町内会があって、夏祭りなどのイベントがあったりすると思うのですが、それとはどう違うのでしょうか。

刈内  そうした地域のコミュニティは徐々に廃れてきていますよね。なぜ廃れたかと言えば単純に「行きたいと思わないから」だと思います。インターネットがある今の時代には魅力的なコミュニティが他にたくさんあります。昔はもっと情報が少なかったし、選択肢が他になかったから町内会に参加していたのではないでしょうか。マンションのコミュニティもおそらく同じです。マンションには管理組合があって、マンションのリフォームなどをどうしようといった意思決定には関わるけど、積極的に関わるかどうかは魅力があるかどうかによると思います。価値観の合う者同士の小さな集まりや、地域コミュニティを、うまく住む場所でつくっていけたらいいなと考えています。

神原  これはおもしろい取り組みですね。ここで、少し話を変えようと思いますが、刈内さんは今やられている仕事と、自分がやりたいと思う仕事は一致していますか?

刈内  私は不動産会社で働く人間としてはやや特殊で、大学では芸術学部のようなところにいました。周りはアーティスト志望も多かったのですが、私はデザインをしたいと思っていました。いわゆるみんなが憧れるようなデザイナーの仕事ではありませんが、まさに今やっている仕事はデザインだと思っています。住む場所を事業主として主体的にで仕掛けていくポジションはデベロッパーの特権です。また、斬新で面白い住宅をつくりたいのならば建築家になればいいのだと思うのですが、マスマーケットやマジョリティ市場に携わりたいとの思いからデベロッパーで働いています。たった半歩でもマジョリティが変わるところに関わる方が楽しいです。なんでそんなこと聞いたんですか(笑)。

神原  いやいや、NHKの番組もたくさんの方に見ていただくものなのですが、個人的には「視聴率」や「視聴者からの反響」が非常に重要だとと言われるのが、けっこうプレッシャーだなと思うこともありまして。もちろん、仕事のやりがいや、使命や責任の重さを感じつつではあるんですけれども。

刈内  そうですね、私もジレンマはあります。会社という組織で評価されるポイントと、社会で評価されるポイントは、少しずれる部分もありますから。ただ、自己満足でよいのだろうかと思うこともあります。要は自分のやりたいように仕事をして、でも誰も評価してくれませんでしたということではダメです。純粋にビジネスにおいて評価されるということは企業が儲かったということですよね。儲かったということは社会に必要とされたということでもあり、人に喜ばれたということでもあります。そこでは目的は合致していると思います。

Q:刈内さんは現在シェアハウスに住まれているとのことでしたが、逆にシェアハウスに住んでいて嫌だと思う部分はあるのでしょうか?

刈内  私のシェアハウスは普通よりも大所帯で、64世帯が住むシェアハウスなのですが、例えば100人いたら100人の考え方があると思います。私の感覚だと「2:6:2の法則」なのですが、2割が「シェアハウス最高じゃん、みんなでやろうよ」という人たちで、逆の2割が「そんなに何かをみんなでしたくないです」という人たちです。残りの6割がその中間の人たちなのですが、その6割の人たちは四六時中みんなといっしょにいることをストレスに感じます。コミュニティが必要なのはたしかですが、無条件に「コミュニティ最高!」というわけではなく、コミュニティには良い面も悪い面もあると思うので、個人的には両面をきちんと伝えていきたいと考えています。

Q:刈内さんご自身もマンションを買う世代になっていくのだと思いますが、刈内さん個人としては一生活者としてどのように人生設計を考えていらっしゃるのでしょうか?

刈内  “住まい”はすごくレバレッジを効かせることができる「幸せ製造装置」だと私は考えています。せっかく“住まい”を仕事にしているのならば自分も幸せにならないと、と思っています(笑)。シェアハウスに住んでいると気付くのですが、シェアハウスは賃貸じゃないと難しいと感じます。いっしょにいるのは今だけだと思うから仲良くできるという面があります。「このメンバーで30年間いっしょにいるんだ」と思うと、けっこう重たいものです(笑)。理想はライフステージに合わせて家を移り住むことでしょうか。

神原  刈内さんは、マンションは買わないということですか?

刈内  購入も選択肢の一つです。マンションを買ったらずっと住まなくちゃいけないというものではないですし、売ることも人に貸すこともできますので、選択肢の一つです。ただ、実際の分譲住宅市場と向き合うと、 世の中はコンサバティブだと感じることが多いです。デベロッパーもいろいろと新しいコンセプトに挑戦するのですが、意外と反応が悪いケースも少なくありません。他の市場と比べて、住宅市場は消費者の住宅リテラシーが比較的低いんじゃないかと思います。たとえばケータイとかスマホなら2、3年で買い換えるのでどういう機種を買ったらいいか消費者側が情報を蓄積すると思うのですが、マンションや家は多くの人にとって一生に一回しか買わないものなので、判断がしづらいのではないでしょうか? よく中古のマンションなどを大規模に刷新しておしゃれにする“リノベーション”が雑誌で特集されているかと思いますが、市場調査をすると中古住宅に積極的に住みたいと答えた人はたった2%でした。 “住まい”に対する選択肢が少ない人が多いという意味で、 “住まい”に関する“学び”というか、リテラシーをどのように底上げしていくかが課題だと考えています。

Q:コンサバティブといえば、2012年12月の内閣府による「男女共同参画社会に関する世論調査」では、「夫は外、妻は家庭」という考え方に「賛成」「どちらかといえば賛成」と答えた賛成派が20代で急増したことがニュースとなりました。こうした新専業主婦志向のようなデータはどのように読み取っていらっしゃいますか?

刈内  おそらくステータスの問題だと思います。男女雇用機会均等法が整備されてから、90年代はバリキャリ(バリバリのキャリアウーマン)が一つのステータスでした。実際のボリュームはそれほどないにもかかわらず、社会に出て活躍するかっこいい女性に憧れる女性が多くいました。バリキャリが一部しかいなかったため、ある意味、特権階級化していたのだと思います。逆に、今は専業主婦が特権階級化しているということなのかなと思います。今のこの時代に「夫の給料だけで子どもといっしょに幸せな家庭を築いていけます」という方が少数派なのではないでしょうか。アルバイトをして家計を支えるという人も多いはずです。そういう時代を表したデータなのかなと思いました。

Q:今後の住宅市場はどうなっていくと考えていますか?

刈内  大きく変わっていくと思っています。そして、変化する起爆剤はやはりPDJ世代だと思います。この世代の価値観はちょうど端境期で、高度経済成長期の価値観が廃れつつあることを肌で理解している人がたくさんいます。今マンションを購入する平均年齢は年々高くなり、40歳前後で、まだこの世代は拡大社会の価値観を持っている世代が大半です。縮小社会では提供する商品が変わるはずです。それを先取りして挑戦していきたいというのが私の役割だと考えています。

神原  本日は“住まい”を通じて、日本という市場の行く末や、社会のあり方の変化まで、非常に大きな視野と視座で考えさせて頂きました。社会の変化を「住宅」という視点から見ていくのは、これまで実際、ドキュメンタリー番組やリポートなどで伝えられていますが、そういった「あり方」のみを伝えるだけでなく、別の企画にも応用できる部分があるのではないかと思います。例えば、どういう住まい、どういう暮らしをしているかによってテレビを見る気持ちも変わってくるでしょうし、そこに対応していく番組というアプローチがあるのではないか、とか思いました。長時間にわたりお話いただき、ありがとうございました!

刈内  こちらこそありがとうございました。



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