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2015.04.24
2014.02.17

スモールライフがハッピーな7つの理由――「さとり世代」の消費スタイル」:原田曜平

消費をしない、草食化、元気がない……ネガティブな印象で語られがちな昨今の若者たち。時代の先を行く若者たちと、彼らをターゲットとしたい企業やメディアが共に幸福になれる道はあるのでしょうか? 経済的に成熟した日本に生まれた堅実な消費者として、ポジティブに捉えるためのキーワードを、若者研究をけん引する原田曜平さんが解説します。

原田 曜平 (ハラダ・ヨウヘイ)

1977年東京生まれ。(株)博報堂ブランドデザイン若者研究所アナリスト。2003年JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著書に『10代のぜんぶ」』(ポプラ社)、『中国新人類・80后が日本経済の救世主になる!』(洋泉社)、『情報病 なぜ若者は情報を喪失したのか?』(角川書店)、『近頃の若者はなぜダメなのか? 携帯世代と「新村社会」』(光文社)、『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』(角川書店)、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)などがある。

神原 一光 (カンバラ・イッコウ)

1980年生まれ。NHK放送総局 大型企画開発センター ディレクター。主な担当番組に「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」「しあわせニュース」「おやすみ日本 眠いいね!」。著書に『ピアニスト辻井伸行 奇跡の音色 ~恩師・川上昌裕との12年間の物語~』(アスコム)、最新刊は『会社にいやがれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

若者の嗜好をつかむには

神原 今日は、著書『さとり世代 盗んだバイクで走り出さない若者たち』のタイトルにもある「さとり世代」が、2013年新語・流行語大賞候補50語にもノミネートされた、原田曜平さんにお越しいただきました。

原田 博報堂の原田です。よろしくお願いします。
 私の所属する博報堂ブランドデザイン若者研究所(以下、若者研)は、博報堂ブランドデザインという、企業のブランディングを専門とする会社内組織の傘下にあります。
 若者研の特徴として挙げられるのは、博報堂の企業スローガンである「生活者発想」「答えは生活者の中にある」を体現しているという点です。
 マーケティングの世界で今トレンドになっている考え方に「with C(ウィズ・シー)」というものがあります。Cというのは、consumer(消費者)。つまり、お客さんと一緒にマーケティングをするということです。

神原 若者研は、具体的にはどのような活動をしているのですか?

原田 若者研には約100人の若者が所属し、「現場研究員」と呼ばれています。
 活動は主に2つ。まず、月1回開催される全体ミーティング。大学のゼミのような活動で、100人が5人ずつぐらいのグループに分かれて、「若者と恋愛」「若者と消費」「親子関係」などそれぞれのテーマを研究し、まとめます。まとまったレポートは、私が持っている日経トレンディネットさんの連載コーナーに、自分の名前で書いてもらう。

 もう1つは、企業と一緒に新商品のコンセプトを考えるプロジェクトです。現場研究員たちはいわゆる普通の学生で、今若者が何を考えているのか、様々なタイプの友人にヒアリングを行います。それを持ち帰って意見をまとめて、商品リニューアルのコンセプトを考える、といったやり方をしています。
 基本的には、定量的なアンケート調査というよりは、質を深めていくことによって仮説を出していこうという考え方です。昔でいうと三浦展さんとか宮台真司さんとかがやられていたように、街頭声かけ調査といって、街で若者に声をかけて喫茶店で話を聞くスタイルです。最近では、例えばある大学生カップルのお祭デートに密着して、何をしゃべって何を買っているのかを調査をする、という方法とか。
 また、マーケティング調査ってほとんどが大都市圏で行われるのですが、地方で重点的に調査をしているのも私たちの特徴です。

神原 定量というよりかは、定性的な調査ですね。僕たちが番組を作る上で必ず行う取材とどこか似ているような気がします。その中で、今どうすれば若い層にリーチできるのか、番組作りも試行錯誤しています。どうすればいいと考えていますか?

原田 最近の若者論でよく言われているのは、まずは「元気がない」「消費しない」などですね。 流行語大賞では毎年若い世代にまつわるキーワードがノミネートされます。草食男子、乙女男子(オトメン)、弁当男子、日傘男子……キーワードは出てくるのだけど、実態がなんだかよくわからない。テレビ業界だけでなく、どの企業さんもみんな悩んでいます。

 若者は人口も少ないので、テレビなら中高年や高齢者を狙った方が視聴率もとれるし、企業もなんだかんだいってそっちに投資しています。若者のことがわからない上に調べないので、負のスパイラルです。バブルを味わった人からすると、不景気の時代しか生きていない若者の考え方がどうしてもわからない、ということがあります。

神原 確かに、僕たちの世代(1980年生まれ周辺)もバブルの恩恵は受けていないので「不景気」がデフォルト(初期設定)になってしまっていますね。

原田 2009年の時点で20歳から29歳の人たちは、どんな時代を生きてきたかを見てみましょう。バブルが終わったのが、2009年の時点で20歳の人は3歳、29歳の人は12歳。その後は言わずもがなの、「失われた10年」です。今や20年になりつつありますね。
 実感なき景気回復、デフレ、100年に一度の金融危機、東日本大震災……経済が上昇していくとか、世の中が良くなっていく、という感覚をどうしても持てない。だから、良かった時代を知っている人間とのジェネレーションギャップが生まれやすくなっている。上の世代の人が、休暇には海外旅行に行けと言っても、何で闇雲に海外行かなきゃいけないんだとか、ボーナス入ったらとにかく高いワインを飲めと言われても、なぜ高いワインを飲まなきゃいけないのかわからないとか、上昇を知っている世代と成熟ステージに入った世代のジェネレーションギャップが大きいんじゃないかと思います。

神原 やはり経済的な感覚のギャップが一番大きいのでしょうか。

原田 不景気になると親の懐も冷え込みますから、それが若者に影響するともいえます。
「私立大学新入生の家計負担調査」によると、地方から首都圏の私立大学に進学した人たちの一日あたりの生活費が約1000円です。これは1986年から毎年行われている調査ですが、過去最低を更新してしまった。
 今の学生は1日1000円で生活していて、かつ1986年時点で大学生だった人よりも貧しくなっている。今、大学生の約40パーセントが奨学金をもらっていますし、学費を自分で払っている人も多い。アルバイトに追われる学生が多いのもうなずけます。
 親からの仕送り額も、1994年は12万だったのが、今は9万円になっている。経済的な打撃は、弱者である若者たちにしわ寄せとして表れているのではないかと思います。

 博報堂の「生活定点」調査という、2年に1回の大調査では、「自分の将来イメージは明るい」「身の周りに楽しいこと・喜ばしいことが多い」の割合がじりじり下がっているということで、将来に対して明るいイメージを描けない状況になっている。きっと将来給料が上がるよ、きっと10年後の方が今より幸せだよ、と言っても彼らにとってはリアリティがない。だからこそ今が一番楽しいという感覚でいると言えると思います。

神原 将来が描けないとなると、若者はリスクをとらなくなりますね。

原田 若者のもうひとつの特徴として、安定志向が非常に高まっています。足元が揺らいでいるわけですから、当然の感覚です。安定した暮らしが欲しいという人も増えていますし、一時期学歴無用論なんてものもありましたが、今の若者は学歴こそ大事である、学歴は高ければ高いほどいいと考えるようになっています。大学進学率が50パーセントを超えているので、ただ大学に行っただけでは価値がないと考えるのかもしれません。

 さらに面白いのが、これだけ政府が男女共同参画をうたっているにもかかわらず、これは首都圏、阪神圏調査ですが20代女子の40パーセント以上が専業主婦になりたいと言っています。一般職志向も増えています。
 『負け犬の遠吠え』『働きマン』『ラストシンデレラ』といったものを見て、ああはなりたくない、バリキャリにはなりたくないと考える女の子たちが非常に多いという状況です。
 若い子たちにはもっと野心を持ってほしいし、これからは女性の時代なんだから女の子にもがんばって働いてほしい、という上の世代からすると、ここもわからないポイントでしょう。

携帯がもたらした新しい「村社会」

神原 自分たちが経験してきた感覚でいうと、いまは携帯やスマホを持ち始める年齢がかなり若返っていることだと思います。生まれたときからIT全盛の「デジタルネイティブ」世代だからこその特徴だと思いますが、そこで生まれてきたのが「mixi疲れ」、「LINE疲れ」などという現象。こういうことも若者の安定志向や保守化に関係していますか?情報を「知りすぎている」という意味で。

原田 そうですね、携帯電話やソーシャルメディアと子どもの頃から接してきた人と、ある年代から携帯電話を持った人たちとは、非常にジェネレーションギャップが生まれやすい。
 ここ5年か10年ぐらいずっと同じ傾向なのですが、全国平均でいうと、大体中学3年生でみんな携帯を持ち始めます
 中学生で携帯を持ったことによって今の若い人たちがどう変化したかというと、まず一つは、過剰な気遣いをするようになった。携帯を持ちいろいろな人と連絡先を交換してつながって、LINE、Facebook、Twitter、mixiに「とがった」ことを書くと、あいつウザイよとか、イタイよとか言われる。つまり、携帯によって村社会が生まれてしまう。悪い評判が立つとすぐみんなに回ってしまうから、過剰な気遣いをしていい顔をする。

神原 でも、上の世代は「若い人はもっとKYでもいい、無茶してもいい」と言いますよね。実際のところ、ここに大きなギャップがありますね。

原田 若者がなぜこんなに人の顔色を伺うのかわからないでしょう。携帯によって人間関係が変化したことがわからない、という感じです。
 Facebookで「いいね!」を押すのはもちろん、誕生日祝いもさかんですよね。大して親しくない人同士でも「誕生日おめでとう」と言い合っている。村社会において、誰かがお祝いしているのに自分はお祝いしない、なんてことはできませんから、みんなで一斉に祝うわけです。
 こういう過剰な気遣いが、ネットの世界とかソーシャルメディアの世界に生まれているわけですが、大人からするとわからない。嫌いなやつとはしゃべらなきゃいいじゃん、と思ってしまう。

 携帯がもたらした特徴の2つ目は、人間関係の面倒くささです。最初の過剰な気遣いというのはあくまで面倒くささにすぎないのですが、その結果拘束されたり、追い出されたり、監視されたりといった、村社会的な特徴が出てくる。
 例を挙げると、今、若い人たちは恋愛がしにくくなっているので恋人がいない人が増えているのですが、カップルを見ると、非常に束縛が増えているという話があります。
 たとえば、彼氏とデートをすることになっていたのに、Facebookで知らない女の子のページに彼がタグ付けされて写真が出てきたとか。個人の情報が多くなると、それだけ不信感も抱きやすくなるのです。それで疑心暗鬼になって束縛してしまう。渋谷は若者の象徴だと言われてきましたが、渋谷は誰かに目撃されるから嫌いだ、と答える高校生も増えている。これも、ソーシャルメディアによる監視社会になった結果だと思いますが、大人からすれば、大都会の渋谷で芸能人でもない一高校生が目撃されるからいやだとか、よくわからない現象です。

 携帯が引き起こしたことの3つ目が、既視感です。見てないものを見た気になる、体験してないものを体験した気になる、食べてもないのに食べたような気になる、ということ。
 例えば、旅行に行った友達のFacebookの書き込みを見ているだけで、もう自分が行った気になるような感覚です。口コミ情報が増えることで、簡単に言うと「耳年増」になってしまって、いろいろな意味で若い人の行動力や消費をそいでしまっている。

 もちろん、そういった情報がプラスに働く人もいますが、マジョリティはどちらかというとシュリンクする方向に行ってしまっている。
 ソーシャルメディアを作った人たちは、もっと人々の世界や関係を開く方向を想定していたであろうに、皮肉な話です。

神原 原田さんの2010年の著書『近頃の若者はなぜダメなのか 携帯世代と「新村社会」』のように、現代版の村社会が生まれている。「携帯」村社会、「ソーシャルメディア」村社会ということになりますね。

原田 そうですね、長引く不景気と携帯化の結果、スモールライフ—行動範囲も狭く、消費金額も小さい—を送るようになっている、ということです。

神原 いっぽう、「今が幸せだ」「今が楽しい」と考えている人の割合は若い人の間で伸びているといいますよね。社会学者の古市憲寿さんの言葉を借りれば『絶望の国の幸福な若者たち』現象ですね。

原田 はい。これは古市さんもおっしゃっていますが、1998年時点の10代、20代よりも、今の10代、20代の方がハッピーになっているのです。
 一見、スモールライフを送っている若者は不幸だろうと思いがちなのですが、結構みんなハッピーだと。もちろん全員ではないのですが、割合で見ると幸せになっている人が多いという不思議があります。

神原 スモールライフにもかかわらずハッピーになってきている理由を教えてください。

スモールライフがハッピーな7つの理由

原田 7つの側面から解説していきますね。

(1)「安かろう、そこそこ良かろう」がスタート地点
 不況だからこその節約志向ではないということです。高級ブランドの服が買えないから、安価なファストファッションで我慢しているというわけではありません。ファストファッションが好きなのです。極端な言い方をすると、年収1億円もらっていてもファストファッションを買いますけど何か? ということです。
 彼ら「さとり世代」が生きてきた時代、特にデフレになったこの15年に日本で何が起こったかというと、それまで日本にあった「安かろう悪かろう」というものがほとんど排除されて、「安かろう、そこそこ良かろう」が、日本中の消費を席巻したのです。
 日本人はすごいなと私が思う点でもありますが、値段が下がれば質が下がるというのが世界の常識ですが、日本はあらゆるジャンルで質はそんなに下げずに値段を下げていきました。その恩恵をこうむるのは、やはりお金がない若者ですよね。昔はお金がなかったらダサイ物しか買えなかったのですから、彼らからすると、日本がこのような商品に覆われていることにありがたいという気持ちを持っていると思います。少なくとも、お金のある上の世代よりはそう感じているはずです。我慢してここにいるのではなくて、ここがスタンダードな世代だということがわかれば、満足度が高い理由もわかるのではないでしょうか。

(2)モノに頼らず自分の実力を自慢したい
 彼らとしゃべっていると、「のに」が多いことに気が付きます。例えば、中古品「なのに」自分は目利きだから、傷の少ないブランド物の財布が手に入りました、僕の目利き力すごいでしょ?と自慢するのです。若者は直接的な自慢はせず、こういう婉曲表現を使うんです。
 バブルの頃までの日本は、高価なものや最新のものを自慢していました。ところが今の子供たちは、安く買えたら自慢するとか、あるいはネットワーク力のある自分を自慢するとか、目利きの自分を自慢します。それは自分の実力なので自慢にはあたらない、という感性に変わってきているんです。高いものが買えなくても自分の力を磨けば満足度が上がる、という構造になっているために、スモールライフでも満足できる。

(3)費用対効果が大事
 マーケティング上大事な点なのですが、長く付き合えるというのが今の若い子たちはとても大好きです。例えば、「30年使えますといわれたら、30万円のスーツでも買います」とか言うんです。
 費用対効果をきちんと考え、コスパ意識が高いとも言えるし、昔ほど「新しいものがいいもの」という感覚もない。自分の愛着、エコであること、サステイナブルであることが大事で、そういうモノにならお金を出してもいいと考えています。物をとっかえひっかえしない自分に対する誇り—そういう価値観に変わっているのかもしれません。
 抽象的な話ですが、戦後の日本のマーケティングは、人参をぶら下げてどんどん買い替えさせればよかったので楽だった。社会人になったらこの雑誌を読みましょう、このスーツを買いましょう、家族ができたらミニバンに買い替えましょう……と、ライフステージごとに全部取り替えさせればよかったのです。
 ところが、今の子たちはもうその手法にだまされません。新しいものをどんどん買わなくても満足度が高くなっていることが、これでわかるでしょう。

(4)母親と仲がいい
 いわゆる「マザコン」が増えています。この15年ほど、母娘消費とか母娘マーケティングと言われ始めて、団塊世代の親とその娘をターゲットとした商品が増えてきてはいたのですが、「さとり世代」になると、もう母と息子の時代になったのです。
 最近話を聞いた25歳の会社員は、母親と2人で旅行に行ったと言っていました。今の若い子たちは、母親との関係が良好です。女性に聞いても、「お母さんと仲のいい男子は好きです」という評価もある。身近にいる女の人に優しい男の子は私にも優しくしてくれるだろう、という感覚ですね。
 ですから、この世代に物を売りたい、この世代に番組を見せたいのであれば、将を射んと欲すればまずその母を射よということで、母親を動かすといい。
 特に、車や住宅といった高額商品はすでにそうなっています。ターゲットがさとり世代でも、そのお母さんを口説けば売れる。

(5)地元から出ない
 5つ目は、「土着民族」増殖中ということ。さっき半径5キロメートル生活と言いましたが、郊外から地方にかけての若者たちは地元から出ない、ということです。
 結婚しても親と同居して地元に残る人が多く、いまだに小学校、中学校時代の友達との付き合いが濃い。働き口がなくて都会に出てくる若者はいまだに多いのですが、あまり東京や大阪といった都会に憧れない、地元に残りたい。
 東京出身者でも、自分の地元である石神井に残りたいとか、地元指向が非常に強くなって、そこで満足できるようになった。
 ですから、地元エリアでどう消費させるかを考えなくてはいけない時代になっているのだな、というのがツボの5つ目です。お金がなくて、東京に出られなくて、たくさん買い物できなくても、彼らは不幸ではないのです。

(6)「憧れ」よりも「わかるわかる!」
 6つ目は、今の子たちは「憧れ」を持たないということ。「憧れ」<「共感・一体感」です。みんなで「わかるわかる!」と言うことを好むのです。誰かに憧れて努力したり背伸びすると「イタイ」、あるいは「意識高い系」とか言われてしまう。
 たとえば、カラオケで彼らが何を歌うかというと、懐かしのアニメソングなんです。自分たちが小さいころに聞いていたアニメソングをみんなで歌う。最新曲だとその曲を知らない人が盛り上がれないから、みんなの知っている歌で生じる一体感を大事にしているという例です。
 かつての若者は、とにかく新しいもの、流行の最先端を追い求めていた。ところが今の若者はノスタルジーを大事にしている。だから、新商品を手に入れられなくても満足度が高いんですね。

(7)ケ以上、ハレ未満
 最後、7つめです。ちょっと抽象的な言い方ですが、「ケ以上、ハレ未満」、つまり「日常以上、非日常未満」を好むということ。海外旅行に行く、スキーに行く、といったハレの行動は減り、かといって家にこもっているだけではつまらない。その中間あたりに答えがあるのではないか、ということです。
 今、全国の大学で増えているのが、実は散歩サークル。環境問題を扱うサークルやフリーペーパーを作るサークルなど、増えているジャンルはいくつかあるのですが、特に散歩サークルが非常に増えている。

 例えば、午前10時に浅草駅に集合し、浅草をブラブラして、雷門を通り過ぎて昼食をとり、午後2時40分に雷門で解散と。休日に若者が集まって、10時に集まって2時40分にお散歩して解散……まるで高齢者ですよね。
 これも、家にこもっているだけではつまらないけど遠出して旅行するほどでもないし、お金もかかるし面倒くさい。でも、たとえばタイフェスとかオクトーバーフェストとか、近場だったら気分転換に行ってみようと。行き先はどこでもよくて、友達とただ会話していたらネタが尽きてしまうけれど、浅草を歩いていれば何かツッコむものがあって会話は円滑にできる、つまり、彼らにとって一番大事なのは友達とのコミュニケーションを円滑に進めるということであって、たまたま散歩というツールを使っているだけなのです。浅草である必要もない。
 今の子たちはなぜハワイに憧れないんだろう、海外に行かないんだろう、と上の世代は言うのですが、とにかく友達オリエンテッドになっているんです。どこに行くか・何をするかではなく、誰といるか・誰とコミュニケーションをするか
 いつメン=いつものメンバーなんて言葉もあります。だから、お金がなくとも、海外に行けなくても、友達と近場で散歩していれば楽しいわけです。というのがツボの7つ目です。

神原 なるほど。将来不安があっても、今現在の満足度が上がっている背景には、こんな生活をしている若者の実情があるということですね。

原田 先ほど若者の「スモールライフ」と言いました。「スモール」はずっと悪いことだと考えられていましたが、肯定的に見れば、1973年にシューマッハーが著した『スモール イズ ビューティフル』というベストセラーのタイトルと同じ意味での「スモール」と捉えることができます。
 つまり、大量生産・大量消費するのではなく、身の丈に合っていて、持続可能性があり、物質至上主義ではない、ということ。シューマッハーの言った、スモールという感覚を今日本の若い人たちが実現・実践しているのではないか。最近では、NHKの『里山資本主義』が近いかもしれません。

神原 縮小社会の中で、いかに成長・発展を追い求めていくかということですね。

原田 マーケティングをやっている立場としては、非常に厳しい傾向ではありますが、ネガティブな意味ではなくポジティブな意味も見出していきたい。
 コストを抑えた効率的なモノ、身の丈に合った、持続可能性のある、血縁、戦後日本が捨ててしまった家族の縁、地元が大好きで、親と仲がいい。それからソーシャルネットワークが可能にした新しい地縁も大切にしている。身の丈以上に憧れるのではなく、共感や一体感に重きを置いた消費生活に満足度を感じられるようになってきたために、満足度が上がっている—堅実な消費者に変化しているという見方もできるのです。

 マーケティングの世界ではどうしても、人口も少なく消費もしない若者を「スモールコンシューマー」とみなしてしまうのですが、「スモールコンシューマー」ではなく「スマートコンシューマー」と見方を変えてあげる。彼らは、むしろ時代の先を行っているんだ、という考え方でマーケティング戦略を立てていきましょう、とまとめたいと思います。

若者にいま一番影響のあるメディアとは?

神原 若者とテレビという点についてお聞きしたいです。以前、取材で若者の何人かに聞いたところ、その多くが「情報は無料で取れて当たり前」と思っていると。「無料世代」だと。「なるほど」と思ったのですが、でも動画を無料で見ている世代の人たちが、なぜ同じ動画なのにテレビではなく「YouTube」や「ニコ動」にいってしまうのか。これは、テレビのディレクターとして切実なテーマです。

原田 まず、今の子たちにとってはソーシャルメディアが主であり、テレビが主というのはもうないなというのは正直考えています。これは時代的にしょうがないというか。

 彼らは友人との会話がメインですから、どういう情報なら彼らが会話しやすいかという発想で考えていくのが非常に重要です。特に中高生のスマホユーザーの9割ぐらいがLINEを使っているという広がり方をしているので、特にこの傾向は強くなってきている気がします。
 ソーシャルメディアのタイムラインは、要するにクラスでの会話みたいなもので、タイムラインがその番組の話題で埋まると、じゃあ今度その番組見てみようというふうになるという逆転現象が起きているんじゃないかなと思います。

 若者に一番今影響力があるメディアが何かというと、2ちゃんのまとめサイトやNAVERまとめサイトが実は一番強力という気がします。
 例えば、海外旅行に行く若者は減っているのですが、南米・ボリビアのウユニ塩湖に行く子は増えてきているらしい。なぜかというと、まとめサイトで「一生に一度は見たい絶景」みたいなまとめがたくさんあるからです。
 今の若い人って Facebookに写真を載せたい願望が強いですから、それで行ってみたりすると。テレビを見て行きたくなることは少なくなったけれど、2ちゃんまとめサイトを見て行ってみたいという。
 『さとり世代』の本も、テレビ番組で取り上げられても若者からあまり反応がなくて、ネイバーまとめサイトに取り上げられたらすぐに反応があって、驚いたんです。どっちが上だよ、と。

神原 話題性をどう作るか、その主軸がテレビからネット、その中でも、とりわけスマホに行っているということでしょうね。

原田 それから、当たり前の話なんですけど、若者目線になりましょうという話です。これはポイントで、若者は自覚しているかどうかはさておき、マイノリティ感覚を強く持っている気がするんですね。人口も少ないし、団塊ジュニアが子どもの頃は、夜7時台といえば「北斗の拳」とか「ドラゴンボール」などのアニメが放映されていたけれど、今は流れなくなってたりとか。選挙の時も、年金や介護保障の話が中心で、「やっぱり自分たちは社会全体から注目されていない」と感じている。

 実際、企業側も見ていないですね。若者は人口ボリューム少ないし、お金使わないし。かつての若者は良くも悪くも主役感を持っていたのですが、今の若者はマイノリティ感覚を持っている。だから、ちゃんと見てますよ、というメッセージを打ち出した企業や商品に対しては、ありがたいという気持ちを持つようになっています。
 若者を見てますよ、若者自身でやってますよ、という姿勢を出すということが若者たちに響いたりする。番組でも、そういうものがいいんじゃないかなと思います。

神原 今日は、若者研究の最前線から非常に現場感あふれる話をいただきました。思えば、僕自身が学生の時代のことを思い返すと、お金もなかったし、面白いものは効率的に探したかったし、面白いもの・流行はコンパクトに見たかったし、それを仲間と共有したかったよなと…という気持ちがあったことを思い出しました。「無料世代」とか「デジタルネイティブ」とかいっても、好きな嗜好は、実は変わっていないのかもしれないと思う面もありました。ライフスタイルはずいぶん変わりましたが。
 ともかく、スマホファーストの時代、テレビが息を吹き返すには、いかに話題を若者とつくりあげていくかが課題かなと思いました。本日は、ありがとうございました!


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