磨きすぎた女子力はもはや「妖刀」である — 女子が自由に生きるには ジレンマ女子会【後半戦】
都内某カフェ。女子を取り巻く状況を研究する荒ぶる3人が「女子会」を決行した。婚活の流行、専業主婦志向の高まりといった、若い女性の保守化傾向の裏にはどんな気持ちの変化があるのだろうか。「自分のお父さんのような大黒柱」を求め、「古い」幸福観に囚われて仕事と人生の帳尻合わせをする---「望ましさ」を捨てて、女子が軽やかに自由に生きるにはどうすればいいのか、男子1名をオブザーバーに迎え、本音で語る。いくつになっても「女子会」は楽しい。
千田 有紀 (センダ・ユキ)
1968年生まれ。社会学者。武蔵大学教授。専門は家族社会学、ジェンダー・セクシュアリティ研究。著書に『女性学/男性学』(岩波書店)、『上野千鶴子に挑む』(編著、勁草書房)『日本近代型家族』(勁草書房)などがある。
古市 憲寿 (フルイチ・ノリトシ)
1985年生まれ。社会学者。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)などがある。
水無田 気流 (ミナシタ・キリウ)
1970年生まれ。詩人、社会学者。東京工業大学世界文明センター・フェロー。著書に『無頼化する女たち』(洋泉社)、『平成幸福論ノート』(田中理恵子名義、光文社)、詩人として『音速平和』『Z境』(思潮社)など。
西森 路代 (ニシモリ・ミチヨ)
1972年生まれ。ライター。専門は香港、台湾、韓国などアジアのエンターテインメント、女性のカルチャー全般。著書に、『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)などがある。
男女逆転時代 つづき
古市 前回(ジレンマ女子会【前半戦】)、結婚と階層の話が出ました。今の未婚化の原因の一つには階層下降があると思うんです。未婚者の大体7割は親と同居していますよね。親と同居していた女性が、結婚して彼と住むとします。すると、お互いが共働きでも、もともとの生活水準を下げなくちゃいけない場合も多い。実家ではすべてお小遣いにできていた給料を生活費にあてなくちゃいけなくなったりとか。
千田 だからみんな結婚しないんじゃないですか。
古市 もちろん、それだけじゃないと思いますけど。
西森 いろんなものが目減りすると考えられますからね。
水無田 例えば酒井順子さんの『負け犬の遠吠え』を読んで思ったのが、都心の私立女子校上がりの人たちは、自分の所属集団の目が気になっちゃって、仲間内でうらやましがられるような結婚じゃないとできないっていう意識が、すごく強い。
千田 特に40代のバブル世代はそうですよね。「ここまで待ったんだから、周りにうらやましがられるような結婚しなきゃいけない」って思って、だんだんハードルが上がる。
水無田 友だちに自慢できないような人が見つからなければ、「いっそ外国人でもないと無理」とか。
千田 そうそう。外国人だったら、無職でも寺島しのぶパターンみたいなのがある。何やっている人かよくわかんないけど「でも、私の夫はフランス人だから」って言ったら“勝ち”みたいな。
水無田 私の友達は、類は友を呼ばずに優秀な女性ばっかりなんですけど、40歳過ぎて結婚したのは、みんな相手は外国人というパターンばかりで。どういうことよって思いました。
古市 僕も外国人と結婚したいですね。
水無田 だんだん固まってきましたよ、古市さんのお相手プロファイリングが。
古市 浜崎あゆみの結婚が、すごくいいなと思ったんです。日本で籍も入れなくて、ロサンゼルスで結婚して、しかも年3~4回しか会わないみたいな。まぁ、すぐに離婚しちゃいましたけど。
水無田 結婚の意味あるんですか?
古市 僕の妹が今年結婚したんです。結婚は別にうらやましくないんですけど、結婚式はすごい楽しそうだなと思って。
西森 やっぱり女子じゃないですか!
水無田 待ってください。古市さんがわかんなくなってきた(笑)
古市 結婚式って、自分たちが主役のパーティーじゃないですか。それを長い間準備して、当日にみんなからちやほやされるって、楽しそうだなぁ、って。
水無田 結婚式が楽しそうって言う男子、初めて見ました。
西森 昔はいなかったですよね。
水無田
いい世代ですね。考えたら、1990年代初頭ぐらいまでは、会社員にとって職場がまだまだお見合いの場だったから、仲人が上司だったりして。そうすると、お嫁さんのほうは、自分さえきれいに見えればいいんですけど、旦那さんのほうは、会社村の中での「さらし者」ですから。で、3つの袋とかですから(笑)。
そりゃ嫌ですよね。友達とか気の合った仲間しか呼ばなくて、会社の上司とか関係ないところで、自分のコミュニティの中で結婚式をするんだったら、楽しいでしょうね。
西森 男性の感覚が変わってきているというのもたぶんあって。昔は、着飾ったり、主役になったり、晴れがましいことをするのって男性にとっては「しゃらくせえ」ことだったと思うんですけど、今や、ひげを脱毛するような人たちがそういうことを思うわけないっていうか。
水無田 そういえば古市さん、永久脱毛してるんですよね?
古市 ひげだけですけどね。単純に便利なので。毎日剃るの面倒くさいじゃないですか。結構まわりに多いですよ。
水無田 なるほど。便利ならそれでいいんじゃないですかね。
千田 剃らないほうがお肌もきれいなままに保てますよね。
西森 昔は私、「ロマンティックラブ・イデオロギー」を信じていましたし、マッチョな思想に対して同調したい気持ちもあったから、女子化していると思われる古市さんを見て「こいつらが国を滅ぼすんだ!」とか勝手に思ってたんだけど(笑)
水無田 なんで「国を滅ぼす」なんですか。
西森 保守的だったんでしょうね。
古市 「こんな人がいたら国が滅びる」みたいな。
水無田 どこまで頭の中オヤジなんですか!(笑)
西森 私も、最近やっと「女子化した男性ってなんて楽なんだろう」って思い始めて、私自身も脱マッチョ化してきました。
水無田
私は編集者さんをはじめ、メディア関係の方とかとお仕事する機会が多いですけど、こういう業界で仕事ができる男の人って、フェミニンっていうか、端的に言っておばちゃんっぽい人が多いですよ。
だから、女子学生には「君たち、おばちゃんっぽい男がこれから出世するから。つかまえるなら、イケメンよりおばちゃん男子がお勧めよ!」と伝えています。もはや女子を通り越して「おばちゃん」。
千田 でも、20年前は、出世するタイプはやっぱりオヤジだったじゃないですか。それがもう全然違うと思う。
水無田 そうですね。
西森 自分の世代くらいが分かれ目な感じがします。
水無田 そうそう、分水嶺ですよね。
千田 私たちはコーホート的に損してますよね。今の若い子たち見てると。
「女子力アップ」の果てに
水無田 私たちの世代は、中学・高校とか、彼氏ができた女の子から勉強をセーブしだすっていう感覚があったような……。彼氏が言うわけじゃないんだけれども、彼女のほうからなんとなく一歩引いてしまうというか。今でもその傾向はあるかもしれませんが。
西森 自分の思い込みがあるんですよね。それが一番何に表れているかというと、日本の管理職の女性の割合にそういうところが出ていると思います。女性は、会社でうまくやっていくのに「能力が高すぎないほうがいい」という思い込みが、すごく大きいと思うんです。OLしていたから分かりますが、余計なことは言わないように悪目立ちしないようにという意識がすごく大きい……。
千田 そうですよ! 私も学会で風当たりが強くて……ある先生に理由を聞いたら、まず「君は大きいしさ」って。あと「声が低すぎる」(笑)
西森 “できる、でかい、声が低い!”は女性がこうありたくない要素ですよね。
千田 だから小柄な子が小さな声で「えっと、よくわかんなくて」と発表してたら、みんなすごく優しいのよ(笑)
水無田 千田さんは、まだ偉いおじさまの先生に声かけていただけるからいいんですよ。私、最近気が付いたんですけど、学会に行くたびに腐女友増えるなって。研究職系女子の腐女子率がすごく高いので、つい楽しくお話をしてしまって。考えたらこういう時って、偉いおじさまの先生に売り込むくらいの気概がないと、専任の職はゲットできないはずなんです。でも私は、偉いおじさまの先生どころか、男性研究者一般が、決して近付けない亜空間を生み出してるのに、やっと気が付いて。
西森
それって学会とかだけの話じゃなくて、一般社会だって絶対そうなっていますよね。行き場のなさが腐女子をはじめとした、おじさまの理解を超えた新しい女子像を生んでいるような。
古市さんぐらいになると、逆に「いじられて怒られたい」ぐらいの感じですか?
古市 別にいいっていうか、関係性としてはそのほうが楽ですよね。でも女子も、かつてはこうだったんじゃないですか?
西森 そうそう、だから古市さんを見ると、昔の女の子を思い出すんです(笑)
古市 今でもこういう女の子はいるんじゃないですか? たまたま「このあたり」にいないだけで(笑)
西森 男女差があまりないんですよね、古市さんの世代って。
古市 男女差というものは減ってきている気はするんですけど、そしたら上野千鶴子さんに「そんなことはない」って。
千田 男女差はわからないけど、“性欲の二極化”みたいなのは起こってませんか?
古市 ああ、二極化はそうですね。
千田 すごくやる気のある人とない人と。それは男女とも。だから、性欲のない学生同士は、旅行とか行って男女2人で同室で寝たりとかしてるんですよね。何かあると思うほうが変、みたいな。しかも、女子にアタックされると、今の男の子は引いてますよ。実際、ちょっといいなと思ってた子に積極的に来られて、怖くなって逃げたっていう話がありますよ。例えば一緒に泊まってて、彼のほうが何も手を出してこない。女の子は「なんで?」と思って、ちょっと積極的になったら「ドン引き」みたいな感じで。これから男の子がみんなそういう草食系ばっかりになっちゃって大丈夫なんですかね。
西森 それこそ、古市さんが国を滅ぼすんだろうな、みたいな(笑)
千田 そう。さっきからそのセリフが頭から離れないんだけど(笑)
古市 女子力っていうか、女子って何を頑張ればいいですか? そもそも女子力アップとかって言うけど、女子力アップの果てに何があるのか……。
水無田 男子がみんな古市さん型になった社会になって、女子がどう頑張ればいいかっていうことですね。
西森 古市さんは女子力というものをどう思ってますか?
古市 なんだろう……。女性誌とかで“30日コーデ”とかあるじゃないですか。それってもう別に明らかに男性のためのものでも、職場の人のためのものでもない。
西森 本当は古市さんをはじめとした男性に見てもらいたくてしてることかもしれないけど、そう思われちゃうわけですね。
古市 そう。結局それは誰のためなんだろうとか、すごく思っちゃう。「モテ」とかって書いてあるのを見ると、これは誰のために何のために頑張ってるんだろうみたいな。だから女子力というのは、誰のためか分からないような努力を黙々と続け、しかもその努力を人には見せない修行僧のような能力だと思います。
西森 昔はそうやってスカートを毎日変えたり、華やかにしてるだけでありがたがってくれる男性っていうものがいたんですけど。それこそ、さっき水無田さんが言ってたように、旧来の女子の価値観がいまだに変わらずに主流になっていて、スカートを毎日変えたほうがいいというのが残っている。
古市
でも、スカートを毎日変えて、16日目ぐらいにそれの存在意義を疑わないんですかね。このスカートは、果たして私にどんなポジティヴな影響を及ぼしてくれるんだとか。
今、若い女性にとって、憧れの女性とかタレントとかセレブリティーって誰なんでしょうね。
西森 ブロガーとかじゃないですかね。自分に近い存在を同一化するほうが楽しいっていうか。タレントとかに投影するんじゃなくて、普通の人が階層移動した形が、例えばブロガーみたいな感じがします。自分から離れた存在ではなくて、自己が投影しやすい人のほうが憧れられるのでは。
千田 やっぱり組織とかでバリバリやってる人みたいなのは目標にならないし。起業でもあまりにもガーンとやってると自分からは遠いから、それこそちょっと身近なところで……読モ(読者モデル)とか。読モの影響は考えるべきだと思いますよ。
水無田 ありますね。読モ的世界というか、読モが文化集団というか、レファレンスグループになっちゃってるところが大きいんですよね。
千田 ほんとのモデルのようなプロ意識もなく、なんとなく読モとして、おいしいところだけチョロチョロできるかもっていう幻想ですけど。
西森 女性のガツガツしたプロ意識みたいなものを忌避したい男性心理と、女子の中でイケてる成功者みたいなところがちょうどいいということなんだけど、そんな中途半端なのを目指してて、どうなるんだという気も……。
水無田 確かに「意識高い(笑)」になってしまったように、女子が特に人生に対して、アグレッシブであることに対する危機意識って強いですね。これはなんなんでしょうね。
西森 男性に選ばれないということが大きいですよね。
水無田 でも、実際問題として選ばれないですよね。
西森 でも、古市さん的には収入が高い人はいいんですよね?
古市 基本的にはそうですね。ただ難しいのは、意識と社会制度のギャップですよね。男性でもそういう「意識高い(笑)」とかあると思うんです。ただ、男性の場合は、意識高いまま総合商社とかに入ってキャリアアップしていくというルートがまだ残されている。だけど女性は同じような高い意識を持っていても、そこでルートがないから空転しちゃうのかなっていう。
千田 すごい、フェミニストみたい。
水無田 確かにそうなんですよね。例えば女子会の場で、ひたすら女子向けに“素敵な私”をアピールしていくんですが、自家中毒を起こしてしまっているような、ある種の切なさが……。
西森 そうなんですよ。自家中毒っていうと、女子会の中で素敵になるっていう方向性もあるんですけど、今や女子会の中では、自分たちのグループのみんなを出し抜かないように、自虐したりして、みんなが自縛し合うっていう状態があって。特に上昇志向っていうのが、女子の中では全然いいことに向かわない感じがします。
古市 でも、その中には、本当は上昇したいと思ってる人もいるんじゃないですか?
西森 無意識の状態でしょうけど、階層は上昇したいと考えますよね。でも、その上昇志向に一番向いてるのが読モかもしれないっていうことに、気付いてるのかもしれない。
千田 本当に階層上昇したいんだったら、実は中途半端に女子力を高めることではなくて……勉強したほうがいいですよね(笑)
西森 さっきも出てきましたが(ジレンマ女子会【前半戦】参照)、薬剤師よりも医師になれっていうことですよね。
千田 だって、女性医師って男性医師と結婚して辞めちゃうんだものね。それが医師不足に繋がって、問題になってるじゃないですか。でも、そういうのは見えなくて、「女子力高めればなんとかなるかも」って思っちゃうんだけど、実はそのアグレッシブな女子力っていうのは引かれてたりとかして。男子が相手に求めるものって「共稼ぎしてほしい」っていう……これだけ財力を期待されてるんですよっていうことを、国立社会保障・人口問題研究所の調査のあのグラフを見せるってことですかね。それでいいのかって問題はありますけど。
将来訪れる“友人格差”
編集S (31歳女子) そもそも結婚自体もしたほうがいいかどうかよくわからない時代に、家庭を持つ意味とか、今後の家族像がどう変わっていくのかなといったあたりをお聞きしたいんですが。
西森 私自身は結婚してませんけど、一般的には、離婚率は高まっているし、死別もあるから、未婚だった人も結婚してた人も離婚した人も、おばあちゃんになったときは結構フラットに同じような感じになるんじゃないかという気がしていて。
編集S 今は分断されていても……。
西森 そう。この前、友達がディズニーランドに行ったら中高年の女性同士のグループがすごく多かったらしくて、その話を聞いて結構いいなと思ったんです。古市さんの世代ぐらいだったら、男性も年をとってから友達とディズニーランドに行くかもしれない。昔のマッチョな人たちにはできなかったことが、たぶんできるようになっていくんだろうし、女性はもともとそういうことができていたから。友達は、その中高年女性4人組を見て「あれがサマンサで、あれがキャリーだ!」とかって言っていて。
水無田 年季の入った『セックス・アンド・ザ・シティ』ですか(笑)
西森 おばあちゃんになっても『セックス・アンド・ザ・シティ』的な友情があるなら希望だなと思って。
古市 そうなると、友人を作れる人と作れない人の格差っていう問題が出てくるんじゃないですか? 結婚できる・できないというのがかつての格差だったのが、今度はたぶん友人ができる・できないっていうものが新しい格差として出現している。今って、単身高齢世帯の増加が話題になっていますよね。だけど、今の高齢者たちって兄弟も多いし、子どもも1人、2人とかいることが多いから、世帯としては単身であっても、なんとかなることが多いと思うんです。だけど、今40代の一人っ子、それも子どももいない人たちがこれから60代とかになれば、本当の単身になるわけですよね。そこで、友人がいるかいないか、というのがものすごく大きな問題になってくる。
西森 そうか。社会保障的なことも少なくなっていくから。
古市 そうそう。社会保障が家族からも期待できない、国からも期待できない、友人もいないとなると……。そこでの友人格差っていうものがすごく重要かなっていう気がします。
水無田 確かにそれはありますね。
古市 最近では、クリスマスよりもハロウィンとかのほうがつらいなと思うんです。都市部だけかもしれませんけど、ハロウィンって恋人とかじゃなくて、仲間たちで盛り上がるイベントになってるから、誘われないとほんとに寂しいみたいな……。
水無田 それは、今までなかった文化ですね。逆にハロウィンが大変なんだ……。
千田 ただ、友達格差でいうと、例えば私立の一貫校に通う人は、それこそ幼稚園、小学校からずーっと一緒で。そういう人たちって、すごいネットワークを持ってるわけでしょ?
西森 それって、社会に出てからも結構関係あるんですか?
千田 ある。
水無田 相当ある!
西森 えー、もう完全な格差社会じゃないですか。
千田 そうですよ、社会的なネットワークの格差。そういうネットワークって、すごく無視できない強さがあるんですよね。
水無田 それが彼らのソーシャルキャピタル(社会関係資本)ですから。
千田 今の私たちの世代は、まだ親があんまり負の遺産を持ってない、子どもを援助できる立場であるからいいけれど、私たちの世代が親になった場合はものすごい格差ですよね。親から援助がもらえるか、親に仕送りしなきゃいけないかっていうのは、ものすごい差として表れてくる。
西森 なんか暗くなる感じ……。だって、そこで得られる人間関係って、階層でもう決まっちゃってるじゃないですか。生まれたときからの格差みたいなもので。例えば韓国とかだと、結構貧乏な人も学歴で一発逆転ができるかもっていう……学歴だけが階層を変えられるという夢を持っているっていうのがありますが、日本はもうそれもダメってことですか?
古市 一応、それはまだ夢としては残ってるんじゃないですか。いい学校を出たらいい会社に入れるっていうのが壊れていることは分かりつつも、でもそれにやっぱり乗るしかない人がまだまだいる。
千田 でもそれは、たぶん上の階層の話ですよね。そういう人は、階層戦略っていうのが見えるんですよね、こうすると階層が上がるんだということがわかる。
古市 努力できる・できないも階層差に規定されるのかっていう有名な研究がありましたね。階層が上の人は、本を読んだり、何かを調べたりという広い意味での「努力」が子どものころから当たり前だから、普通に勉強もできたりする。
千田 それはあるでしょうね。例えば「子どもをのびのびと育てたい」と言う親がいますよね。適切に親が水路づけて本人の自主性に任せるのは正解でも、本当にのびのびさせて何もしないのはまずいわけですよね。たぶん競争に負けちゃう。
水無田 階層上昇とか社会の中でうまく乗り切っていくための“武器の使い方”というか、そういうことがある程度わかっている親なら、のびのびでも別にいいんですけどね。「周りがやるからやらなきゃ」だと、うまくいかないでしょうね。
女子力はいらない
――古市さん、時間切れにて退場。本物の女子会になる。
編集S それではまとめとして、この記事を読んだ女性たちが自分の生き方を大事にして自由に生きていくために、アドバイスをお願いします。
水無田 自由になって、選択肢が増えたといっても、選べない選択肢だらけじゃないですか。選べない選択肢は選択肢とは言えません。それは、「絵に描いた餅」です。さらに、女子の人生にとって今なお大きな意味を持つ「結婚」について言えば、お見合いシステムが瓦解して自由市場化された後の恋愛結婚って、自分にも相手にもこれだけは譲れないという条件や、選択する権利があるわけです。そうすると、根本的に自分が選択した相手に選択されない可能性が高くなるという問題に直面する機会も増えます。選べるはずなのに、選ばれない確率が上がるという矛盾がそこにあるわけです。その分、相対的はく奪感は高まるんじゃないですかね。
西森 私より少し上の世代だと、お見合い制度がまだ残っていて、もうちょっと保守的だったじゃないですか。
千田 そうそう。まわりにお見合いおばさんとか、上司とか社内結婚とか、とにかくまとめられてしまう。自由には生きられないんだけど、でもある意味で、その枠中では生活保証がされてたんですよね。これからの下の世代はバブル世代ほどは高望みをしないで、ほんとに手軽に結婚するっていう説と、やっぱり生涯未婚率はどんどん上がるっていう説と、予想は両方あるんですが、この下の世代のことは意外に語られていない。先行き不透明で、今、結婚すること自体も難しいわけじゃないですか。「結婚してもしなくてもいいんだよ」って言われてるけど、それって本当に選べてるのかなって……。
西森 男性は、「別に結婚はいいです」と自分から降りても「かわいそう」と言われないし、以前のように結婚をしないと社会的に認められないという状況も少なくなってきている気もします。でも、逆に女性は、旧来の価値観をいまだにひきずっていて、男性に選ばれないと、いくら仕事ができても社会的に認められていないような、「かわいそう」な感覚がまだあるというか、逆に大きくなっている気がします。
千田 20代の結婚では、大きなきっかけは、子どもができたからですよ。20代前半で6割ぐらいかな? 10代だと8割以上ですよね。
西森 だから男性が相当警戒するということもありますね。
千田 結婚のメリットが思いつかないんですね。デートとか外泊とか自由じゃなかった時代だと、相手と自由に会いたいしセックスもしたいからみたいなのが、結婚へのインセンティブになるけど、今は自由に付き合えるし。
水無田 あまりにもフリーになってしまって、結婚に対して公的なプレッシャーが何もかからなくなって。
千田 というわけで、みんなが結婚するためには、外泊禁止にすればいいんですね(笑)
編集S じゃあ結婚したい女子にできることって……。
水無田 結局、その人に適した「女子力」を上げることなんですかね……。
西森 今、女子力の高い人はサッカーに行く人という感じがします。男の人の趣味にあわせることこそが女子力だと思います。どっちかというと、女子の慣れ合いに染まらないということのほうがモテるためには必要なんですよね。男性が多いところに入るのが、一番結婚できる確率が高くなるし。だから、意外と今まで考えられていたような女子力ってモテるためには必要ないかもしれないですね。
千田 知り合いの男性編集者は地元の卓球の会で相手を見つけました。逆にお見合いはことごとく駄目で。やっぱり趣味っていうか、競争相手のいないところで、自分の良さを生かせるところに行く。それがわかるっていうのが真の女子力。
西森 一番いけないのが、例えば手芸をやるのに女子だけで固まるとか。
千田 ワインの会とかね(笑)
水無田 私、理系の大学でも教えてるんですけど、女子学生はきれいなのに化粧っけがあんまりないようなタイプが多くて。だって、雨の日にガチなゴム長を履いてたりするんですよ!
千田 でも、それはモテますよ~。
西森 男性のほうは、作った魅力とか計算して近寄ってくるものに対しての知識が高くなっているので。
水無田 ハンパな女子力は駄目なんですね。
千田 完璧ならいいんですよ。隙がないぐらいの女子力だったら、それはそれでまたターゲットとしてあるんだけど、中途半端な女子力があるぐらいだったらゴム長を履いてる子のほうが理系の学生もきっと心がなごむんですよ。ハイヒールじゃなくてね。
水無田
私思うんですけど、消費メディアにあおられて自分磨きばかりしていると、むしろ磨きすぎて相手がいなくなる。よく磨きすぎた日本刀って、近寄るだけで、触ってないのに斬られるっていうじゃないですか。磨きすぎて、名刀どころか妖刀になってる可能性があるなと(笑)
西森さんが「女子力がほんとに高い人は男の趣味に入るのよ」って言われたんですけど、男の趣味の中でも、あまりにマニアなほうに行ってしまうと、かえって出会いはないんじゃないですかね。私の好きなFPSのオンラインゲームなんて、女性もいませんが、日本人もあんまりいないですし……。やはりメジャーな男子世界に入るべきだとアドバイスすべきでしょうか。
西森 いやいや、モテますよ。しかもマニアはマニアほど、「俺の趣味がわかってくれる人がいない」っていうことに悲しんでいるので、それをわかってくれる人っていうのは、神みたいに見えるんですよ。でも、気をつけなくちゃいけないのは、趣味で男性に勝っちゃいけない。理解してあげてもいいけど、勝ってはいけないんです。
千田 そこの加減は難しいですね。『30婚』って書いて「ミソコン」って読む漫画があるんです。主人公がどういうふうに男性をゲットするかというと、彼女がひたむきに仕事とかしていて、そういう姿にみんな「この子、裏表がなくて一生懸命なんだ」っていって惹かれていくっていう。やっぱり女子力が中途半端にあるっていうか、計算高い人が絶対駄目になるように漫画では描かれてるんですよ。打算じゃうまくいかないんだと。
西森 打算が見えるからいけないんですよね。
水無田 完璧に打算が見えないぐらい女子力高ければ、いいんですね。
千田 ほんとに女子力高い人って、自分も騙してますからね(笑)
編集S どうやったら結婚できるか、という以前に、みなさんは結婚はしたほうがいいと思いますか?
千田 一回はしたほうがいいんじゃないですかね。こんなもんかっていうことを思うために。私が周囲を見てて思うのは、一度結婚して離婚した人は、結婚願望とか結婚幻想とか全くなくなって、すごい身軽になって、そして一人を満喫してて。ここが一番の勝ち組だなと私は思うんですよね。
西森 私も今ごろ一回離婚とかしてたら、気持ち的にすごい楽だろうなと思います。
編集S 一回幻想を手に入れて、それを解き放った時が一番軽くなる……。
西森 偏見とかも少なくなるんじゃないですか。
水無田 解脱するのはそれからと。
千田
そうです。でも、現実にはシングルマザーは大変ですけどね。
子ども幻想っていうのもあって、それも経験しないと幻想が崩れないっていうのがある。もちろん、いない人はそれでとてもいいんですけど。やっぱり人生一回きりしかないのが惜しいですね。幻想がなくなったあとで、もう一回人生やり直してみるみたいなオプションがあるといいんだけれども。幻想みたいなものは、経験しないと崩れないっていう、人生の不条理みたいなものを感じますけどね。
水無田 経験は最大の教師である。ただし授業料が高すぎる。
千田 ほんとに高すぎる(笑)
編集S いいまとめになりました。
【了】