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2015.04.24
2012.12.26

「結婚」で幸せになれますか?—女子が自由に生きるには ジレンマ女子会【前半戦】

都内某カフェ。女子を取り巻く状況を研究する荒ぶる3人が「女子会」を決行した。婚活の流行、専業主婦志向の高まりといった、若い女性の保守化傾向の裏にはどんな気持ちの変化があるのだろうか。「自分のお父さんのような大黒柱」を求め、「古い」幸福観に囚われて仕事と人生の帳尻合わせをする---「望ましさ」を捨てて、女子が軽やかに自由に生きるにはどうすればいいのか、男子1名をオブザーバーに迎え(「女子会“観戦”記」参照) 、本音で語る。いくつになっても「女子会」は楽しい。

千田 有紀 (センダ・ユキ)

1968年生まれ。社会学者。武蔵大学教授。専門は家族社会学、ジェンダー・セクシュアリティ研究。著書に『女性学/男性学』(岩波書店)、『上野千鶴子に挑む』(編著、勁草書房)『日本近代型家族』(勁草書房)などがある。

古市 憲寿 (フルイチ・ノリトシ)

1985年生まれ。社会学者。著書に『希望難民ご一行様』(光文社新書)、『絶望の国の幸福な若者たち』(講談社)、『誰も戦争を教えてくれなかった』(講談社)などがある。

水無田 気流 (ミナシタ・キリウ)

1970年生まれ。詩人、社会学者。東京工業大学世界文明センター・フェロー。著書に『無頼化する女たち』(洋泉社)、『平成幸福論ノート』(田中理恵子名義、光文社)、詩人として『音速平和』『Z境』(思潮社)など。

西森 路代 (ニシモリ・ミチヨ)

1972年生まれ。ライター。専門は香港、台湾、韓国などアジアのエンターテインメント、女性のカルチャー全般。著書に、『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)などがある。

旧来の結婚観を捨てられない

編集S (31歳女子) 私の最初の問題意識から始めますね。昔は特権階級のみならず誰もが結婚できるようになったという「再生産の平等主義」(落合恵美子)があったけれど、今は特に仕事を選んだり結婚することで年収や人生が決まってしまうから逆に不平等が生まれるという「再生産の不平等」の話を、千田先生が本(『日本型近代家族』で書いていらっしゃった。
 今、大学も仕事も、恋愛相手、結婚相手も自由に選べるんだけど、自由に生きることで結果的には自由じゃない、窮屈になっていることがあるのかなと思ったんです。
 でも一方で、「女性は家庭、男性は仕事」という価値観が正しいかという調査(「男女共同参画社会に関する世論調査」 内閣府)では、女性の半分くらいが「そう思う」という結果が出ているのを見て……。

西森  すごくわかる! 女性がそう言いたがる感じが。

編集S  各国比較でも、日本が突出してるんですね。その考え方にもたぶん偏りがあって。結婚などの制度のみならず、私たちの価値観のほうにもそもそも問題があるのかなと……。女子学生が保守化している、という話もよく耳にしますが。

水無田  確かに、すごく保守化傾向といいますか、専業主婦志向が高まっているというふうな言われ方をします。ただ、この場合の専業主婦志向というのが単純に“保守化“なのか、つまり、文化的な望ましさの問題なのか、規範の問題なのか、ライフコース選択の問題なのか、安定志向の切断面なのか、いろいろな切り口があると思うんです。
 わかりやすく言えば、かつての昭和的、高度成長期的な安定した社会構造があってこそ、性別分業も成り立っていたわけですよね。企業は護送船団方式で、系列企業同士はスクラムを組んで極力つぶれないような形になっていて、被雇用者から見れば日本型雇用慣行がしっかり守られていて。女性は正規雇用の男性、つまり一家の大黒柱、ブレッドウィナーとなるような男性とくっついて専業主婦になり、「ブレッドウィナー・アンド・ハウスメーカーカップル」になるという……ある意味、そういう形への憧れが強くなってきています。

千田  私も日本型経営の終焉と家族の変化がリンクしている点については同感です。特に1990年代後半ぐらいに、正規雇用がかなり有期雇用に置き換わったわけじゃないですか。大きく割りを食ったのが、古市さんやもう少し上ぐらいの若者の世代なわけですよね。

古市  そうですね。

千田  つまり結婚相手が今までのブレッドウィナーになれないというか、日本型の雇用環境に守られてないわけですよね。そうすると、専業主婦になるというオプション自体が、初めから阻まれているというか、女性にとってあまりないと思うんです。配偶者の控除とかを見ると、明らかに右肩上がりのグラフになっていて、収入が高ければ高いほど適用割合が高い。専業主婦なわけです。
 つまり専業主婦になりたいということは、専業主婦をさせてくれるような男の人をつかまえたいという意見の表明であって、現実にできるかというと……実現可能性に関しては難しいなと思っているんじゃないかと思うんです。


西森  この間、大学で学生に話を聞いたときに、皆この事実はちゃんと知っていて、納得していて、実現可能性が高くないということも、ちゃんと理解している。なのに、いざ自分のこととして「どうですか?」と聞いたときは、自分だけは大丈夫だと思っているという傾向がすごく高くてビックリしました。

水無田  客観的に見れば難しいだろうというのは、分かってるんです。でも、自分がその“望ましさ”を捨てるっていうのがなかなかできない。北風と太陽じゃないですけど、逆風があればあるほど、古い幸福観にしがみついてしまうみたいな。
 この間、宇野常寛さんとの対談の中で、若い女の子たちに旧来の結婚観、幸福観を捨てさせるのは、反政府勢力に武装解除させるより難しい、ということを話していて。要するに、人間、嫌な事柄を改善したり捨てたりというのは、比較的前向きに取り組むことができるんです。でも、望ましいもの、譲れないと思っているものを自ら捨てるって、ものすごく難しいことなんですよね。
 今、専業主婦といっても、1997年以降サラリーマン世帯、被雇用者世帯でも、専業主婦のいる世帯を共働きの世帯が抜いて、もうどんどん差が開いている。

千田  そうですね。共稼ぎと片稼ぎの割合が、ちょっともたついてる時期もありましたけど、今は完全に差がつきましたね。

水無田  全体で見ても、就業している女性に関して言えば、中高年の40代以上、なおかつ非正規雇用という人のほうがマジョリティなんです。
 若い女の子たちは要するに、専業主婦というか“セレブ妻”になりたいわけですね。自分の生活観とか結婚観って、どうしても自分の生育環境に根差しますから、自分の生まれ育った、一家の大黒柱の父親が自分にしてくれたようなことをできそうな男性を求めてしまうわけです。

千田  それはたぶん高い階層の話かなっていう気がします。例えば、私が知っている女子大生、いわば中堅どころの大学生の話なんだけど、「理想のライフコースを書いてください」って言うと、なんかM字型雇用(*)みたいなことをはっきり書いてくるんですよ。結婚してしばらくしたら、パートに出たいというふうに。なぜパートなのかというと、彼女たちは最初からパートをやってるんですね、スーパーとかで。本当はマクドナルドとかスターバックスとかすごく憧れなんだけど、今は非正規雇用の人がたくさんいるからそれすらない。「君たち試験前とか休むでしょ。学生バイトはいらない」って言われるとかで。だから、男の子は魚にラップかけて、女の子はレジ打ちしてて……。慣れ親しんだ仕事に戻るっていうことだと知って、私は結構ショックを受けましたね。

水無田  東京の話ですか?

千田  東京近郊ですね。あまり上昇志向がなくて、なんか脱力系です。今の若い子って、バブル世代から見たら、びっくりするくらい、なんでそんなにやる気ないのって思いますよ。

西森  宝島社のOL向け雑誌『steady.』が意外と売れているそうですが、都市型じゃなくて田舎型で、どっちかっていうとバリバリ働く女性じゃなくて非正規雇用の女性が読んでるような感じなんですね。で、本当に皆さんがおっしゃっているように、高望み系じゃない。「怒られないファッション」とか、「会社でドジっ子やっちゃった」みたいな(笑)。ドジっ子なんだけど、最終的には会社の後輩に「そんなドジだから俺がそばにいないと」みたいな、そういう物語の1か月コーディネートページが毎号繰り広げられていて、なんかほんとに、高望みじゃないんです。

千田  ねぇ~(激しく同意)。やっぱり現在は産業構造が変わりましたからね。今はサービス業かアイデアとか形のないものにしか雇用がないわけじゃないですか。機械化によって人の手を使う産業は空洞化してきている。才能を使ってすごく上のほうに行けるような人は、それこそ一攫千金みたいなことを考えるかもしれないけれど、そこにも手が届かないと初めから思っている子たちは、「もし総理大臣になったら」みたいな話をしたって、「総理大臣って、みんなに怒られる係ですよね」とか、「文句ばっかり言われるんですよね」と……。「なりたいとか思ったこと一度もないですよ」みたいな子たちが、結構マジョリティじゃないですか?

西森  でも、古市さんとかもそういう考えはありますよね。「怒られるの嫌だし」みたいな。


古市  総理大臣は別にならなくていいですよね。ただ、大都市に住む若者への調査を見ていると、20代の3割ぐらいは有名になりたいと答えていますね。

千田  有名人にはなりたいんですか?

古市  あと、独立してお店を持ちたいとか、起業志向とかも、大体3割ぐらいですね。

千田  だから、組織の中で責任を持つ総理大臣にはなりたくなくいけど、セレブっていうか、著名人にはなりたい。

水無田  「テレビに出てる人になりたい」っていうのは、小学生の女の子に多い意見でもありますね。

西森  アイドルもね。

水無田  何か特定の職業じゃないんですね。「テレビに出てる人になりたい」って。

西森  ちやほやされたいっていうことですよね。アイドルやアナウンサーになるフックとして学歴とかつける人いますしね。

水無田  だから、地域社会などの人間関係が希薄になっている中で、遠くの隣人より近くの芸能人とでもいうような現象が起きているんじゃないでしょうか。ちやほや志向もある一方で、極端なリスク回避志向も目につきます。以前、すごく意識が高い女子学生に「どうしてもリスクを取りたくないんですけど、ベンチャーで起業するのと公務員目指すのと、どっちがリスクが高いんですか?」って聞かれたことがあるんですね。「それをいきなりはかりにかけるのか!?」と思っちゃった(笑)。
 低成長時代で、デフレ社会を生きてきて、とにかくリスクの低いものを……今あるものを放さずに生きていけることを考えてる。大企業でも安穏としてはいられないし、現状では女性はなかなか出世できない。究極の選択なんでしょうね。

千田  組織の中に入って幸せがあるとあんまり思ってないんです。一般職みたいなところって、今までラインがあったわけじゃないですか。例えば銀行の一般職。そこが女子の就職率を結構押し上げてるんですよね。今までだったら、何年か働いて社内結婚とかして専業主婦になって……というコースがすごくよく見えたんだけど、今、それすらよく見えなくなってきている。国立社会保障・人口問題研究所の調査(岩澤美穂)とかを見ても、結婚相手との出会いの形態として明らかに“社内結婚”というものがガツンと減っていて。今まで、「いい企業に入ると女としての就職も保証される」だったのが、それすらもなくなってきてるんだなということがわかります。

古市  でも、地方はまだそういうのが残ってるんじゃないですか。地銀とか。僕は、全然地方のことわからないので、勝手に「地方」を想像しちゃうと、東京とかのいい大学を出た人が地方に帰って地銀に入って、それで地元の一般職で入ってきたお嬢様と結婚して幸せ! みたいなルートが、まだまだありそうな気がするんですけど。

西森  まだ、あるのかなぁ。私が地方にいた15~16年前のときは、確実にそうだったんだけど。でも、私がいた会社も(女子は)全員派遣社員になったから、たぶん働いているだけで社内結婚というのは難しい。コンプライアンスみたいなのもあるし、階層差とか……、社内ではやっぱり男性側が気を遣わないといけないし……。

古市  実際恋人がいる割合とか結婚してる割合って、地方のほうが低いですよね。

水無田  そうなんです。「彼女いない歴全人生」っていう人も、地方のほうが多いですね。内閣府の「平成23年 結婚・家族形成に関する調査」では、20代・未婚男性のうち「交際経験なし」は都市部では3割ですが、地方だと4割にのぼります。地方は男性のモテ格差もすごく大きいんです。それは、地方在住の既婚者と未婚者の格差に如実に反映されています。生涯で付き合った人の数を調べると、地方の既婚男性は、今まで恋人として交際した人数が、20代・30代ともに未婚者の倍くらいです。

千田  地方はやっぱり二極化していて、結婚早い人は結構早いじゃないですか。それで、ワンボックスカーとか買って、子どもをたくさん連れて、いろいろな家族とバーベキューしたり……みたいな生活をする。ネットワークも高校のときのものが、まだずっと生きていて。それは大学のじゃないんですよね。

西森  地方でバーベキューできないと生きていけないんです。私、できないから東京に出てきたんですよ(笑)。

千田  東京はバーベキューがむしろないからね(笑)。ただ古市さんが言うような「地方にUターンする人」は一握りのエリートで、そういう人にはたぶん女子が群がりますよ。地方の雇用って、それこそインフラ系とマスコミ、それ以外ないですよね。

西森  あと、公務員と。でも、もしかしたら地方の人って、エリートとかあんまり考えない人のほうが多いかも。

古市  さっき千田さんが言っていた、「スーパーでバイト」してる女の子たちは、相手はやっぱりエリートがいいとかも別にないんじゃ……。

千田  思ってないと思いますけどね。ただ実際にちゃんと暮らしていけるだけの収入を得ることも、なかなか難しいんですよね。クオリティ・オブ・ライフは高いけど。

西森  っていうか、むしろ「エリートの人の話って意味わかんないし嫌だな」と思ってるかも。

千田  なんか面倒くさそうみたいなのもあるかもしれないですよね。

水無田  確かに昨今の結婚観は“水平婚”志向というか、要するに自分と同水準のトライブ(集団)に行きますよね。

千田  そう。分不相応の人と結婚したらやっぱり大変ですよね。スーパーでバイトしている子たちのなかにも、起業志向の子もやっぱりいる感じがしますね。で、何やりたいかというと、ネイル屋さんとかエステとか、雑貨屋さんとかを身内で起業したいとか、そういう感じですよね。バリバリ儲けたいとか思ってないんだけど、小さいお店とかをもって。それこそ今はネットショップもあるわけだし、つけまつげとかネイルとか、アクセサリー販売するとか、そういう身の丈に合ったところで食べていけるかも、みたいな志向の子もいるんですよね。

西森  私が最初に東京に来て派遣で働いたときの同僚も、美容系で独立するからと言って辞めていきましたね。その子は特に恋愛に対しての意識が高い、ちょっと上昇志向のある子だとは思う。

水無田  女子で上昇志向が強いっていうと、確かにバリバリ仕事で成功していこうっていうだけじゃなくて、むしろそっちの女子出世的な志向性が強い人が多数派かもしれません。

古市  たとえばギャルメイクの歯科衛生士とかですか?

西森  歯科衛生士とはどういう妄想で?

古市  そんなに勉強を頑張らないで、専門学校とか卒業して働き始めたら、自分よりも階層の高い歯科医師がたくさんいたりする。歯学部って学費が年間1000万円くらいはしますよね。だから、上昇婚を狙ってて、勉強したくない場合は歯科衛生士がいいんじゃないかなぁ。

西森  歯科医師と歯科衛生士は結婚してるんですか?

古市  歯科医師と結婚できなくても、歯科衛生士って合コンとかでイメージもいいじゃないですか。その立場を獲得するための投資に比べて、リターンが大きいと思うんです。

千田  でも歯科医師って初期投資も必要だし、今はワーキング・プアも多いですよね。それよりも薬剤師ですよ、薬剤師。病院に入ってお医者さんをつかまえるために薬剤師になるというコース。

古市  でも、薬剤師まで行ったら、もうちょっと頑張って医者まで頑張ればいい。

千田  自分が?

古市  自分が。だって、薬剤師の資格取るのって6年かかるじゃないですか。だったらもうちょっと頑張って医者になったほうが……。

千田  いやいや、そうはならないんですよ。

西森  今、男性のほうも、自分の持ってる資産を結婚によって減らしたくないから。

古市  わかる、わかる。

西森  古市さん、そんな階層の違う人と結婚する気、全くないでしょ? 古市さんと結婚する人は、古市さんと同じぐらい年収がないとやっていけないなって思ってるんだけど。

古市  いや、逆に僕より上がいいです。

西森  だろうね。

水無田  サラッと言っちゃいますね。

西森  そういう男性も多くなってると思いますね。

古市  結婚によって階層上昇を図りたい!(キリッ)

水無田  出ました、この宣言。


男女逆転時代

千田  女性のほうが年収が多いという「男女逆転カップル」に関する研究を見たことがありますが、顕著に2つのパターンがあることに気づいたんです。1つのパターンは、もともと“逆転”するつもりはなくて、自分(男性)が稼ぎ手になろうと思って結婚したのに、リストラなどによって妻に養われることになった「専業主夫」。彼らはどちらかというと卑屈なんですよ。やっぱり、男らしさの規範みたいなものがあるから、「こんなはずじゃなかった」とか「周りに言えない」とか思ってる。でも、もう1つのパターンは逆で、ものすごく楽しそうな男性たちなんです。「よかったー」って。本人がミュージシャンだったり大学院生だったりする場合です。

西森  好きなことができている人たちですね。

千田  そう。で、相手の女性は社長とかキャリア官僚とかでガッツリ稼いでいて、年の差もあって、「俺、彼女のおかげで好きなことさせてもらって、幸せっす」みたいな。

水無田  私、ポスドクのたまり場みたいな専門学校で10年ぐらいアルバイトしていたんですけど、学生と結婚した人が一人いた以外は、男性講師全員が年上女房をもらっていました。相手の女性は、高校の教員とか新聞記者とか、大学の専任講師とか、要するに自分より年収が高い専門職ばかり。ガンガン稼いでいる女房をつかまえて、自分は研究に打ち込んで、まさに「幸せっす」でしたね……。

古市  でも、実際男性側の「男は外で働いて女は家で」みたいな価値観の若者の増加が最近も話題になっていましたよね。特に20代男性に関しては55.7%。3年前の調査よりもだいぶ増えています。

千田  とはいえ、国立社会保障・人口問題研究所の調査を見ると、「専業主婦を望む」という層が雪崩を打つように減っていて、「妻に稼いでもらいたい」みたいな打算が見えませんか?

西森  あるアンケートでは、相手に「自分と同程度の年収」を希望する男性が多くて、「自分より多い」がその次で、「自分より少ない」が3番目でしたね。

水無田  でも、学生の意識調査をとると、確かに共働き志向ではあるんですけど、男子学生は、「働きたいなら働くのを許可してあげてもいい」とか、「好きな仕事なら、続けさせてあげてもいい」といったような、上から目線なんですよね。若年男性の昇給ベースがこれからどんどん鈍化していくことを考えると、「働くのを許可してやってもいい」どころの騒ぎではなくなっていくことは必至なんですけど。そこのところの「上から目線の平等志向」は、感覚の問題として根強いんですかね。

西森  男女平等っていうか、女子化したがっている男子が多いのでは。女子だけ定時に帰れる状況とかをすごく意識してるっていうか。「女子並み」に働きたいと。

古市  一般職になりたい男の子たち、今いますよね。

千田  実際にもういますよ。学生で。

水無田  でも、昨今では一般職女性自体の採用も減って、どんどん派遣にすげ替えられていっています。かつてよりずっと「狭き門」ではないんでしょうか。確かに産休や育休などの制度を、額面上フル活用できて身分も保証されているので、「寿退社」慣行が弛緩したら、結婚してもある程度年齢を重ねても、容易には辞めない人が増加しているとも聞きます。


千田  だから、総合職と一般職とどっちが得かっていうことを現実的に考えると、実際の答えは難しいですよね。私の世代の総合職って結構辞めているんですけど、働き続けたかったのに辞める人だけではなくて、初めから“腰掛け”のつもりで入った人がいたのは面白かったですね……例えばテレビ局で3、4年ガンガン働いて、「わー、楽しかった。いい思い出ができたわ」っていうところで、取材先の人に気に入られて、息子を紹介されて、それで結婚して退職するとかいう人もいます。
 どうせ少しの間だから、忙しくても楽しくてエキサイティングに仕事をしたいっていう女の子って、東大とかにもいるわけですよ。その一方で、やっぱり見ていて思うんだけれど、総合職で太く長く働き続けている人って、体力・気力ともに凄い人たちなわけじゃないですか。私は、そういう人たちが好きですけど。でもそうすると、そこそこでいいから一般職でずーっと働き続けるっていうのは、悪い働き方じゃない。
 某大手の商社では、社内結婚して退職する慣行があった。だから従来は女性をお嫁さん候補として採用していたんだけど、社内結婚じゃなかったら辞めなくていいんですって。となると、社内結婚しなければ高い給料をもらい続けられるわけじゃないですか。そうすると、皆が社内結婚をしなくなって、高給一般職っていうのがたくさんいたんだそうです。だから一時期景気の悪いときには、一般職は採用できなかったという。

水無田  短期間で辞めてくれるサイクルであるからこそ可能だった制度が、建前と実態の乖離というんでしょうか、建前をそのままちゃっかり利用する人たちが増えてきていると思うんです。総合職じゃなくて最初から一般職狙いとか。
 私、大学のキャリア支援の経験が結構長くて、女子の就職、特に公務員試験にはちょっと詳しいんですけど、例えば国Ⅰと国Ⅱ両方に受かっても、あえて国Ⅰを蹴って国Ⅱに行く女子の多いこと! いい大学出ていて、留学もして、資格もいろいろ取ったうえで公務員試験勉強もやって、それだけコストをかけて国Ⅰ・国Ⅱ両方受かったら、普通男の子だったらどう考えても国Ⅰでキャリア官僚への道を選択するんですけど、あっさり国Ⅱを選ぶわけです。

千田  働きやすいからですかね。

水無田  はい。産休・育休も取りやすいですし。国Ⅰになって本当に責任ある職に就いてしまうと、やっぱり女子は働き続けられないので、賢く選択しているんです。総合的に見て、この人はなんと女子力が高いんだろうと。

千田  それがわかる人は女子力が高い人ですよね。低い人は東大で博士号とか取って、生きづらくなるんですよ。私のことですけど(笑)。

西森  女子は能力が低いほうが幸せになれると思っている人もいると思うんですよ。旧来型の考え方として。

水無田  女子の社会的地位が高くなりすぎてしまうと、能力の種類にもよりますけど、恋愛・結婚市場では弱者になってしまうんですね……。

西森  そう思いこんできたけど、古市さんみたいな人が出てきてるっていうことは、もしかしたらそうとも言い切れないのかもしれない。

水無田  ああ。古市さんみたいな人が出てきたのは、日本の女子の希望なんですかね。

西森  私は希望だと思いますよ。


【後半戦】へ続く…

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