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2015.04.24
2013.09.27

「二枚目の名刺」を持とう:廣優樹

「あなたは本業以外に名刺を持っていますか?」。今、社会人が本業以外にも社会活動を行い、“2枚目の名刺”を持つというスタイルが注目されています。社会貢献への意識が高まる社会人と、課題解決に取り組みたいNPO法人。その両者を引き合わせるNPO法人「二枚目の名刺」の共同代表・廣優樹さんと、「二枚目の名刺」を持つ意味について考えました。

廣 優樹 (ヒロ・ユウキ)

1979年生まれ。金融機関勤務。慶応義塾大学経済学部卒業、英国オックスフォード大学経営学修士課程(MBA)修了。09年に「二枚目の名刺」(11年よりNPO法人)を立ち上げる。社会人が本業以外に社会をデザインする“2枚目の名刺”を持つスタイルを提唱。社会人が、NPO事業運営のコンサルティングを行う“サポートプロジェクト”を手がける。

神原 一光 (カンバラ・イッコウ)

1980年生まれ。NHK放送総局 大型企画開発センター ディレクター。主な担当番組に「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」「しあわせニュース」「おやすみ日本 眠いいね!」。著書に『ピアニスト辻井伸行 奇跡の音色 ~恩師・川上昌裕との12年間の物語~』(アスコム)、最新刊は『会社にいやがれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

「二枚目の名刺」とは?

神原  本日の勉強会は、NPO法人「二枚目の名刺」の共同代表をつとめる廣優樹さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。

 皆さん、はじめまして。「二枚目の名刺」とは何かの話の前に、私の1枚目の名刺をご紹介させてください(笑)。本業は金融機関勤務です。その中でNPOを立ち上げました。私たちが提唱する「2枚目の名刺」というのは、「本業・本職で持つ1枚目の名刺のほかに、社会をデザインする“二枚目”な社会人が持つ名刺」と考えています。


神原  名刺の2枚目と、かっこいい・素敵なという意味での二枚目を引っ掛けているわけですね。

 その通りです。本業以外に社会活動をしたい社会人を支援し、様々な課題を抱えたNPOと結びつけようというのが、私たちの活動です。ちなみに神原さんも「2枚目の名刺」をお持ちだとお聞きしたのですが…。

神原  僕はこの4月から、テニスをもっと日本に普及させる活動を、仕事の合間を縫って始めました。学生時代まで、テニスに打ち込んできたことと、現在メディアで働いているということから、「普及に関するアイディアをもらえないか」ということでお声がかかったんです。名刺の肩書きとしては「(公財)日本テニス協会・普及常任委員」です。なんだか堅いのですが(笑)もちろん局内で許可を頂き、ボランティアで携っています。

 素敵ですね。私たちは、ぜひそのような本業以外の社会活動を広めたいと思っています。

まず私が「2枚目の名刺」を持つスタイルを提案し始めた2009年の話から始めさせてください。当時、ちょうど私はイギリス留学から帰ってきた頃でした。きっかけとなった原体験は、イギリス留学中にあります。オックスフォード大学ビジネス・スクールに留学していたのですが、プログラムの中にストラテジック・コンサルティング・プロジェクトという、いわゆる戦略コンサルに実際に取り組むプロジェクトが組み込まれていたんです。

学校がいくつかのコンサルティング・プロジェクトを用意するのですが、たとえばカリフォルニアのワイナリー(ワイン醸造所)に行ってブランディングのコンサルティングを行うプロジェクトもありましたし、スーパーマーケットのオペレーションを改善するプロジェクトもありました。私は農業・食糧分野に興味があったのですが、学校のオファーのなかにそうした分野のプロジェクトがありませんでした。それではということで、自分でプロジェクトを見つけるところからやってみることにしました。そして、アジア圏の農業・食糧プロジェクトにしようと考え、いくつかの機関に打診してみたところ、そのうち、ベトナム商工会議所(VCCI)の方から「ベトナム農作物の対日輸出促進策」の検討ならば協力できると話があり、プロジェクト資金も提供頂けることになったんです。

神原  いきなり目がテンなのですが、金融機関からオックスフォードのMBAに留学されて、そこでの勉強が、座学の勉強だけでなくて、実際にプロジェクトに関わるという非常に実践的なものだと。しかも、イギリスの学校のイギリス国内ではなく、ベトナムという海外にも行ってもいいというのが驚きです!

 プロジェクトは全世界で展開されています。ですから、イギリスだけでなく、欧州地域、アメリカ、そしてアフリカに行く同級生もいました。同級生は、50か国以上から集まっており、それぞれがチームを組み全世界に飛ぶわけですから、グローバルプロジェクトそのものですね。

さて、ベトナムのプロジェクトですが、プロジェクトのテーマが決まり、資金も確保したものの、私はベトナム語がしゃべれません。そこで資金を確保したその日に、クラスに唯一いたベトナム人の女性をスカウトするところからプロジェクトがはじまりました。農業の知識も当然ないので、同じように人材を探します。奇跡的に日本の東京農業大学に留学したことがあるベトナム人とつながり、その方も興味があるということで外部からもチームに入ってもらいました。こうやって仲間を集めていきました。たとえるならばドラクエ(ドラゴンクエスト)のゲームの世界のようなものといいますか、仲間を探して、村で聞いた情報をもとに、次の場所でまた情報を仕入れて、最終的にベトナムの農場や農業、貿易の所管官庁にもたどりつきました。ただこういうと、順調に進んだように聞こえますが、途中でベトナム人メンバーの妊娠がわかり、ベトナム語の通訳を現地で雇ってみたり、日本の政府機関がベトナム農作物の輸入強化に乗り出したといった誤報が新聞に掲載され、事後対応に追われたり、本当に色んなことがありました。自分にとってはこれまで経験したことのないことばかりでしたので、本当にエキサイティングな時間でした。

神原  繰り返しますけど、MBAの学生としての活動ですよね? 1枚目の金融機関の名刺は使っていないんですよね?

 はい。当然のことながら、日本での金融機関の名刺はまったく使いません。でも、ベトナムでも日本でも多くの人がプロジェクトに興味を持ち対応してくれましたし、最初は半信半疑だったベトナム農業関係者も途中から真剣になっていくことを感じ、「本業の外でも自分ができることがある」と実感しました。そしてもう一つ、プロジェクトのマネジメント経験は、自分にとって大きな経験でした。

神原  これは、大きな経験ですね。自分の存在意義や、仕事のやりがいをものすごく感じたでしょう?

 この話にはまだ続きがありまして、さらに印象的な出来事が2つもあったんです。 1つ目は、ベトナムを離れる直前、プロジェクトで関わりのあったあるベトナム人から「この社長に会ってくれ」といわれました。どういう方なのかわからなかったのですが、どこにチャンスが潜んでいるかわからないですし、とりあえず行ってみることにしたんです。そこで出会った社長は、プロジェクトについてコメントをくれた後、自分の会社の工場を長時間にわたって案内してくれました。そして、「ベトナムは若い力であふれている。日本はどうなんだ?」「君は日本の会社に戻るのかもしれないけど、それだけで本当にいいのか?」なんてことをいうわけです。その方は、実は世界銀行に勤務されていた方で、日本にも留学経験がある方だったんですね。地元に戻って、若い力を育てるため、雇用を創出するために、自ら起業されたのです。ベトナムで、思いもよらないところで、考える機会をいただいたなと思いました。

もう1つは、日本のある農業系の金融機関に勤める役員の方と話をしたときのことです。話の流れで「テレビ番組でやっていた“DASH村”(昔ながらの山村を再現するテレビの企画)のようなものを、いつかつくってみたい」ということを私が言うと、その方が「実は私はもう1枚名刺を持っているんですよ」と名刺を差し出されたんです。その方は、都会の子どもたちに田舎でのびのびと遊ぶ経験をしてほしいと、古民家を改装して宿泊施設とし、10年くらいかけて田畑も耕し、年に何度も地域の子どもたちをそこに連れて行く活動をされていたんです。私はその名刺を見たときに、本業以外にも活躍の場を持っていることって「カッコいいなぁ」と理屈抜きに思ったんですね。

社会における課題解決の“サステナビリティ(持続可能性)”に取り組む

 留学時代のプロジェクトとともに、この2つの出来事が自分の中では大きかったと思います。留学の帰国直前、日本人の留学生の同期たちと、それぞれが取り組んだプロジェクトをふり返りながら、こういう機会が日本でもあれば……という話で盛り上がりました。同時に、せっかく貴重な経験をしたのに、日本に帰ってただ会社員として働くだけではもの足りないね、という空気があって「じゃあ何かやろうぜ!」という勢いではじまったのが「二枚目の名刺」というプロジェクトだったんです。

神原  日本に戻ってきて、また同じようにただ会社員として働いているだけでは、日本社会に貢献できないのではないかと思ったわけですね。でも一方で、会社員の中には、そもそも本業でも十分「世のため」「人のため」に働いていると考える人もいますよね。会社員として働く=日本社会に貢献している、という考えです。

 もちろん、金融機関での仕事はやりがいがある仕事で、プライドを持って取り組んでいます。でも、さらにもっと自分にできることがあるような気がしたんですね。

神原  なるほど……。では、実際に「二枚目の名刺」の活動について教えて頂けますか?

 はい。私たちが、実際に行っているのは「SPOサポートプロジェクト」という、社会人による「SPO向けのコンサルティング・プロジェクト」です。SPOとは「Social Purpose Organization」のことで、社会の課題解決を最上位のミッション(使命)にかかげる団体のことを指します。一般的には、NPO(Not-for-Profit Organization, 非営利団体)や、NGO(Non-Governmental Organization, 非政府組織)といった団体を指しますが、株式会社だからといって必ずしも排除しないという考え方をもっているので「SPO」と呼んでいます。

神原  どうして社会人が「SPO」をサポートしないといけないんですか?何かサポートしてほしい理由が「SPO」側にあるんですか?

 背景をかんたんに説明します。「SPO」はパブリック・セクター(公的機関)だけでは対応しきれない社会の課題に対し、ソーシャル・サービスを提供しています。そのため、社会課題を発見する力は「SPO」の方が高いと私は考えています。既存のやり方にとらわれないユニークな手法で、社会課題を解決していこうとする組織やチームが「SPO」です。ところが「SPO」は、必ずしも自律的に持続可能性を持って活動できているわけではないんです。たとえば、活動資金は助成金に依存しているが故に、助成金を獲得するために、本業である課題解決に力を注げないという問題が少なくないんですね。「SPO」の活動がサスティナブル(持続可能)でなかったら、ソーシャル・サービスとして本当に価値のある活動といえなくなってしまいますよね。たとえば、学生に学費を援助する活動をしている教育系NPOの人は「私たちは絶対にサスティナブルでなければならない。なぜなら、援助している学生が2年生まで学んで援助がストップしたらどうなるか。彼らの3年目はどうなるのか? 私たちはそうしたことに責任を負っている」と話してくれました。「SPO」は立ち上げることも大変ですが、実際は始めることより、続けることの方が一段と難しいんです。特に「SPO」は、立ち上げの動機が、「目の前の困った人たちを助けたい」と思って始めること多いため、事業の持続可能性をあまり考えていないような形になっていることをよく見かけるんです。

神原  なるほど。「思い」が先行してしまって「経営」という視点が欠けているという訳ですね。組織を持続させるノウハウがあまりない、ということがSPO側の課題にあるんですね。

 一方で、私たち社会人の側を話しますと、最近、私たちの周辺でも社会課題への問題意識は確実に高まっているなと感じることが多いんですね。特に、単なる寄付やボランティアではなく、自分の強みを活かした自分らしい形で社会活動に取り組みたいという人たちが増えています。そして、貧困、子育て、教育などの課題は待っていても解決しないのではないか、自分たちにもできることがあるのではないかと感じている人が増えているんです。

社会活動への参加に対する感覚も変わってきていて、ひと昔前は「活動に見返りを求めるなんて……」というように、もっとボランティアは奉仕型だった印象なのですが、今は「楽しかった」「勉強になった」というように、自分に対してポジティブなフィードバックがあることを期待して、そうしたことがモチベーションになっている人も増えています。私たちが調査したアンケートでも、社会活動やボランティア活動では、「活動を通じて成長ができる」と考えている人が6割近くいました。さらに、コミュニティでの人との出会いや、経験したことのない分野で活動することが勉強になるという人が多く出てきている点は、とても興味深いことです。

神原  確かにボランティアへの参加意識は高まっているように思います。でも、どうしたら「NPO」や「NGO」に参加できるのだろうかと考えている人はいるでしょうね。こちら側には、参加するノウハウがないんですね。それをマッチングさせようというのが廣さんたちの取り組みなんですね。

二枚目の名刺は会社人の名刺ではなく、社会人としての名刺

 これが私たちの仕組みです。左にある「サポートプロジェクト」は5〜6人の社会人がチームを作り、SPOの経営課題に取り組みます。1つのプロジェクトは、およそ3か月で区切ります。取り組む分野に制約はありません。広報、ブランディング、ファンドレイジングなどチームとして手伝えることと、SPO側が必要としていることがうまくマッチすればよいわけです。NPO法人「二枚目の名刺」はそこをつなぐ役割を果たしています。

流れを追って説明すると、まず「二枚目の名刺」内のメンバーが、サポートしたいSPOを提案します。その上でメンバーが“コモン・ルーム”と呼んでいる社会人とSPOのマッチングイベントで、参加者にSPOを紹介します。イベントでは、SPO側からも活動内容や今後に向けたプランやサポートプロジェクトを通じて何を解決したいかを説明してもらいます。そのプレゼンを通じて、参加した社会人は、自分が携わりたいプロジェクトに手を挙げるという仕組みです。

神原  “コモン・ルーム”とは、NPO版の「会社説明会」みたいなものなんですね。わかりました。これまで、どんなプロジェクトが行われたんですか?

 これまでで紹介すると、たとえば「助産院のサービスの拡大」をテーマにしたものがありました。助産師さんが個人で赤ちゃんを取り上げることが減る中、産前・産後のママのケアをしてあげたいと思う助産師さんたちが集まって立ち上げた助産院があるんですね。その助産院の活動をどう広げ、より多くのママたちをサポートするには、どうしたらいいのか、ということを一緒に考えました。このプロジェクトに手を挙げたのは、コンサル、会計士、官公庁、生保、損保、メディアなど様々なバックグラウンドの社会人たち。普段は決して一緒に仕事をしない異業種の人たちが、ひとつの組織を形成したという、サポートプロジェクトの中でもとてもユニークな取り組みになりました。

神原  なるほど。こうしたサポートプロジェクトに参加した社会人からは、どんな感想や手ごたえがありましたか?

 ある30代・生命保険会社勤務・人事担当の方は、「社会課題に取り組むSPOといっしょに考えることで、会社にいて見過ごしていた社会の変化に気づくことができた」といっています。また、30代・コンサルティング会社勤務の方は、「いろいろなバックグラウンドの人とプロジェクトに取り組むことが新鮮で、考え方やアプローチが違うと新しいアイディアが出てくる、イノベーションが生まれる場だということを実感した」といいます。さらに、20代・メーカー営業の方は、プロジェクトを通じて、自分のライフワークともいうべきやりたいテーマが見つかり、自分の所属する会社で人事やCSR部門を巻き込んで、“コモン・ルーム”の会社版を立ち上げたそうです。本業への相乗効果が「二枚目の名刺」にはあるのかも知れないという可能性を感じさせてくれました。

神原  本業への効果があるというのは、魅力的ですね。

 活動を通じて、企業側の意識も変わってきたと感じています。これまで、企業がSPOと関わるときは、CSR(Corporate Social Responsibility)の観点で関わることが大半でした。すなわち、慈善事業の延長だったわけです。09年に私達が「二枚目の名刺」を立ち上げた時も、まだそういう雰囲気が強くて、サポートプロジェクトの話も、基本的にはCSRの一環として興味を持たれる企業さんがほとんどでした。でも一方、最近は、CSV(Creating Shared Value)という観点から、企業と(地域)社会が連携し、共有価値を創出することへの関心が徐々に高まってきました。企業も事業戦略の一環として、SPOとの連携に取り組もうとしているわけです。サポートプロジェクトについては、人材系会社からはサポートプロジェクトを人材育成事業の一環で取り入れたい、製造業のある会社からは、イノベーション創出の場として興味があるというお話がありました。さらに「お堅い」といわれる銀行からも、単なるCSRにとどめず、地域密着の活動から将来的な貸出実行に向けた施策として検討を進める事例が出てきました。

神原  「慈善事業」から「事業戦略の一環」に変化しつつある、というのは今後を占う上で大きな流れですね。廣さんたちは、サポートプロジェクトを通じて、何を目指しているんですか?

 本業以外の活動を経験することで、豊かでもっと活力のある社会を生み出したいと考えています。本業以外の場でどんなことに取り組むかは、ひとそれぞれです。ただ、本業以外の場で、社会を創ることに本気で取り組むことが、本人にとっても、社会にとっても、そしてその社会人が所属する企業にとっても利となるような形となれば、日本社会はもっと活力のあるものになると考えています。イメージとしては、以下の図のような形で、主役である社会人が「2枚目の名刺」を持つことをきっかけに、1枚目(本業)でも、2枚目でもポジティブな成果に結び付くスパイラルを生み出せたらと考えています。

神原  本業以外での経験が本業に生きたり、本業ではできない経験を通して、本業では出会えない人や仕事のつながりが持てるというのは、社会人の幅を広げますよね。企業も、ビジネスにイノベーションを求めているのであれば、こういう取り組みをもっと支援してもいいと思いますね。

 そうですね。活動を通じて、社会人の成長や気づきなどの変化を生み出すことにフォーカスしたいとも考えています。プロジェクトを経験した後、参加者が次にどんなアクションをできるのか、ということにも注目しています。NPO法人「二枚目の名刺」を“人材を輩出するNPOと考えてもらって、「2枚目の名刺」を持つことが、人材育成やイノベーション創出につながることを企業側にも知って頂き、もっと企業と連携して、社会にアクションできる人たちを輩出していきたいと思っています。

少し話はそれますが、最近では、社会人が本業で培ったスキルを活かしてボランティアをすることを「プロボノ」というキーワードで呼ぶようになっています。大きく見れば、ボランティアであることには変わりはないのですが、強いて言えば、より成果を意識した、コミットメントのレベルが高い取り組みである点が特徴です。日本にもいくつかの中間支援団体があり、こうした「プロボノ」と呼ばれるボランティアと「SPO」をつなげています。私たち「二枚目の名刺」の“コモン・ルーム”に参加している人たちにも、こうした「プロボノ」に興味があるといって参加される方も多いんですね。

最後になりますが、みなさんも、ぜひ一度「2枚目の名刺」を持ってみてほしいと思っています。この活動をしていて私が思うのは、「2枚目の名刺」というのは、“会社人としての名刺”ではなく、“社会人としての名刺”だということです。自分の価値観をダイレクトに表現できると思いますし、この「2枚目の名刺」を配るアクションが自分の意識を変え、それを繰り返すことによって、人は変わる可能性があると思います。本気になってアクションをした人が賞賛されるような、心地よいピア・プレッシャーの中で、本業の枠を越えて試行錯誤を繰り返すプロセスが、きっと本業にも還元されると思うんです。会社の名前ではなく、自分の名前で、やろうと思えばもっといろんなことを社会に仕掛けられるんじゃないか、すごく青くさいですけど本気でそう思っています。本日はありがとうございました。

Q&A

神原  ありがとうございました。では、ここで参加者からの質問を受けたいと思います。

Q:「二枚目の名刺」には、どのぐらいの年代の人が参加してきているのでしょうか?

 私が33歳だということもあり、もともと30代が多くいます。その後20代が増え、最近になって40代の人が増えてきたという感じでしょうか。新聞などのマスメディアに取り上げていただいてからは、40代、50代の方々からの問い合わせが入るようになったという印象です。

神原  なるほど。30代の人たちは入社10年を超えてきて、仕事の繰り返し感がでてきて飽きるというか、新しい刺激を求めるのは僕にもわかる気がします。そこで、あえてお聞きしたいのですが、20代の人たち、つまり2年目、3年目の若い社会人ならば、「まずは本業をしっかりやれよ」という声もあると思うのですが、 この点は、廣さんはどのように考えていらっしゃるのですか?

 なぜ20代の人たちがこういう活動に参加するのか。その理由の1つに、会社での仕事の与えられ方が影響しているように思います。すなわち、25〜30歳ぐらいの人たちは、会社では下働き的な仕事をしていることが多いわけですが、採用が細り後輩が入ってこないから、ずっと同じような下請けをやることになるケースがある。あるいはマネジメントが短期的な業績を優先するあまり、これまでであれば経験・育成の観点から若手に回ってきていたような仕事が回ってこなくなっている。言い換えれば、クリエイティブでチャレンジングな仕事にアプローチできない。一方で、会社の外ではこうしたチャレンジが自由にできるわけです。そしてやってみると「自分でもこんなことができるのか」という発見があるわけです。そんな体験をしたいのではないかと思います。

付け加えると、大企業で働いていると、お客さんと直接触れるような機会が少なくて、自分が会社というパーツの一部にしか感じられないということ面もあります。外に出ると何か自分のしたことに対して反応がじかにあるので、その経験も面白さの1つにあるようです。こうしたことが会社の外で経験した上で、1枚目をしっかりやれば、むしろ、前向きな挑戦として会社で評価されてもいいように思います。

神原  「隣の芝生は青い」とか言っている場合ではなくて、実際に「隣の芝生に行ってみる」という感じですね。「プチ社外派遣」みたいな経験ができるように思います。会社にとっても、人材育成する上で役に立つことは多いように思います。

Q:きょう参加している人の多くは、番組をつくるディレクターです。私たちのようにテレビ番組をつくるスキルは、会社の外でどう役に立ちますか?

 「自分のスキルが何に役立つのか」という質問は、本当に多くの人からいただきますね。皆さん「デザイナーや弁護士ならわかりやすいけど…」とおっしゃいます。ひとつ言えるのは、自分ができることやスキルというのは、ある意味「会社の外の人たちと触れ合うことによってわかる」ということです。

「あっ、自分にはこんなことができるのか!」というようなことをサポートプロジェクトに参加した人の多くの人が口にします。スキルというのは相対的なものなので、プロジェクトを進める中で「SPO」の方や他のメンバーから言われて気づいていくこともあります。

例えば、TVディレクターのケースであれば、情景を切り取ることであったり、わかりやすく伝えることだったり、僕なんかから見ると、すごいなと思うわけです。過去に、TVのディレクターの方と一緒にプロジェクトに取り組んだことがあって、初めて気付いたのは、カメラを回すときズームを使うことで、引き込まれる映像に変わったとか。これ、皆さんからしたらとても基本的なことかもしれませんが、私にとっては驚きだったんです(笑)。他にも皆さんは日々「プレスリリース」をご覧になっていると思います。ですので、やはり目に留まる、取材したくなる「プレスリリース」の書き方についてのアドバイスだって十分にできると思うんです。言われてみて、気付く面が結構あるんじゃないでしょうか。

神原  たしかに会社の中だけにいたり、自分の仕事だけに専念してしまうと、自分のスキルを自覚する機会や時間はないですよね。ちょっと言い方は違うのかもしれませんが、「二枚目の名刺」の活動をすると、仕事の手ごたえをきちんと実感するという意味で、「ここは会社の名刺で通用していた部分なんだ」とか「これは個人の力でもできるんだ」というような、自分のスキルを自覚することができる気がしました。そうすることで、自分を客観視でき、仕事にも謙虚になれたり、逆に自信や成長も実感できることがあるのではないかと思いましたね。「二枚目の名刺」は、スキルの「見える化」としても魅力的な場ですね。本日は長時間にわたりお話いただき、本当にありがとうございました!

 こちらこそ、ありがとうございました。

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