「枠組み思考」から「文脈思考」への転換を。 高木 新平
9月1日 0:00~放送予定のニッポンのジレンマ「僕らの楽しい資本主義」収録後、出演者のみなさんにインタビューを行いました。
高木 新平 (タカギ・シンペイ)
コンテクストデザイナー。1987年生まれ。「トーキョーよるヒルズ」というシェアハウスによる生活実験から執筆・メディア企画・政治活動まで、独自の発想を活かし幅広く活動中。またネット選挙解禁に貢献した「One Voice Campaign」を主導したことをきっかけに、選挙候補者のキャンペーンも手掛けるように。2014年の東京都知事選では、家入かずま陣営でネットをフル活用した選挙戦を仕掛けた。
個人で解決できること、社会で解決しなければならないこと
―「僕らの楽しい資本主義」、収録後の率直な感想は?
高木
今回のテーマ、難しいですよね。というのは正論で進めるところとそうでないところがあるので。たとえば、日頃から問題意識を持って活動している人たちには、比較的通じます。僕ら自身がプロトタイプとして新たなモデルを示していけば、少しずつでもイメージが拓けて、周りを巻き込むカタチで、これまでの「資本主義」の枠組みとは少し異なる道をそれぞれが歩むことができるかもしれない。
しかし、今回はTHEマスメディア、NHKの全国放送じゃないですか。その視聴者である人たちにどう伝えていけば良いのかは迷いました。たとえば、僕の故郷である富山の友人たちはその枠組みに気づいていないし、興味もないし、それに依存せざるを得ない状況があります。これは差別ではなく事実として。彼らにどのように伝えていけば、変化につながるのか。本当は僕自身、これから社会をどう変えていくべきかという一般論に強い関心は無いのです。一人一人がそれぞれやっていくしかないと思っていますから。しかし、今回はあえて、そうしたところを意識しながら話をしようとしたので、歯切れが悪くなってしまいました。
―故郷(富山)の友人たちには伝わったと思いますか?
高木 友人が番組を観るかは大変あやしいですが…(笑)、自分は大学で東京に出てきた時点で、もはや異星人みたいになってしまっているんですよね。「お前は違うからな」って。思い出などの「共有体験」で盛り上がることはできるけれど、いまや見ていることも考えることも、やれることさえも、まったく違います。彼らは彼らで幸せなのだろうけれど、それは、まだ日本が豊かさを保っていることを前提したものかもしれなくて、これから資本主義の限界みたいなことや、グローバリゼーションの影響が表面化してきた場合、最初に苦しくなるのは彼らだと思います。だから、僕自身の「自由」といったものを自己本位的に考える一方で、彼らとともに考えていかなければと思っています。日本という国単位で考える以上、僕自身としてもどうしても逃れられないのです。
―今回、これだけは言い切ったと思うところは?
高木
意識したことは、視点が偏らないようにすること。たとえば「ノマド」なんてような、新しい働き方みたいに言われているようなことに関しては、現実的な視点を忘れてはいけないし、個人で解決できることと社会で解決しなければならないこと、つまり個人ベースと全体ベースの2つの側面を意識したつもりです。
そして、僕が特に言っておきたかったことは、「枠組み思考」からの脱却ということです。
これまで日本を支えてきた幻想、モデル、あるいは共同体といった「枠組み」が、いまはまだギリギリ通用しているかもしれないけれど、これからは崩壊していかざるをえない。そういった時代のなかで、歴史にヒントを得ながら考えていけば、例えば「家」というもの一つとっても、家の中で「個」や「プライバシー」というものがこれほど重視されたのはつい最近のことだということがわかります。にもかかわらず、僕たちは、「家」とは他人とのプライバシーを保つ場所だという観念にしばられている。
こういう「枠組み思考」から、社会背景などの「文脈」を自分なりに考えて切り拓いていく「文脈思考」にきりかえ、新しい「枠組み」を状況に応じて、用意していくことが必要になっていく。僕自身の「コンテクストデザイナー」という肩書きが意味することでもあります。そのことは、精神論として曖昧にせず、なるべく具体的に述べたつもりです。
―今、欲しいものはありますか?
高木 所有欲はないですが、いま都内の古い一軒家を探しています。「よるヒルズ」など、マンションの一室でやれる生活実験・コミュニティづくりを次のステージにもっていきたいという想いがあります。資本主義をリードしてきた都市において、地域などの共同体をベースにした、人やモノ、自然の関係性をどのように再構築していくかということを実験してみたいと思っています。まだまだ構想段階ではありますが、3.11被災地域のコミュニティ解体などの現状を目の当たりにすると、ネットだけではなく都市のリアルにおけるパブリックを意識してモデルをつくっていくことが、今後においてとても大事な気がしているので。もし、いい一軒家があれば、ご連絡ください(笑)