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2015.04.24
2014.12.24

「ニッポンの大転換2015」番組収録後インタビュー:先崎彰容

2015年1月1日(木)23:00~01:30[1月2日(金)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「ニッポンの大転換2015」収録後、先崎彰容さんにインタビューを行いました。

先崎 彰容 (センザキ・アキナカ)

1975年生まれ。東日本国際大学准教授。専門は近代日本思想・文学史。東京大学文学部卒業。東北大学大学院博士課程単位取得終了。著書に『ナショナリズムの復権』(ちくま新書)、『アフター・モダニティ― 近代日本の思想と批評』(共著、北樹出版)。

――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。

先崎 事前に「これからいかに日本に大転換を起こしていくか」と聞いていたので、その時点でスタッフの方に少し釘を刺していました。逆に私たちはしばしば「大転換」はすでに起きていると言って来たのではないか、と。たとえば、東日本大震災です。東日本大震災によって私たちの生活は大きく変わる、変わるべきだとしきりに言われたのではなかったか。それをふまえて、なお2015年に「大転換が起きる」もしくは「大転換を起こす」というならば、「転換」とはいったい何なのか。そのイメージを問うことから出発するのが、今回の私の立場です。
 具体的なビジョンを提案することは企業の方であるとか、他の出演者がしてくれると考えていました。ただ今回は、それがなかなかうまく出てこないところがあったので、きっかけとして地方における「短大」という場の持つ役割や、幼稚園の保育士の方の労働環境について話をしてみました。しかし本来は、社会の見方を「俯瞰して」伝えるのが私の役割だと思っているので、今回もそれを行ったつもりです。

――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。

先崎 仲暁子さんがおっしゃった「勇気」という言葉、私自身もずっと問題意識として考えている概念でしたので、強く印象に残りました。「勇気」というのは、必ずしも「野蛮な行動をする」ということでもないし、あるスローガンのもとに演説をして、人々を同じ方向に引っ張っていくということでもない。むしろ、多くの人が同じ方向を向いてしまったときに、そこに追随しないということこそが「勇気」だと思うのです。
 人は何か危機的な状況が起きたとき、みんな同じ方向に雪崩を打つのです。ドストエフスキーは『悪霊』の中で、たくさんの豚が湖に飛び込んで死ぬという一節を引いています。私たちは状況に流されやすい存在なのです。人々が同じ方向に進まんとしているときに、その場に踏み止まること。言ってみれば、激的に変化する状況で、「最も凡庸であること」こそが、「勇気」だと考えます。率先して、人を陽動することが、知識人の仕事だと認識されている節もあるのですが、私はそれに絶対に与しません。

――収録中、「資本主義が行き詰まっているのでは?」という話題が出ました。

先崎 資本主義社会では、「未来にこれだけのお金や利潤を受け取ることができるだろう」というビジョンのもとに、投資活動が行われます。それを支えているのが「信用」であり、その「信用」を物質化したものが貨幣です。たとえば、1万円札というものはたかだか数十円ほどで印刷することができる紙にすぎません。 しかし、買い物や食事に使えて、「1万円」という価値を保持しているのは、人々がこの紙切れを信じているからです。「信用」によって成り立っている。その「信用」が成り立たなくなったときに起こることが、「恐慌」なんです。今日の私の話で言えば、「恐慌」の瞬間こそが「大転換」ということになります。「大転換」というのは、今まで人々が信じていたものの「底が抜ける」ということですから。
 そのように「大転換」を、資本主義を軸としてネガティブに捉えたときに、かつて先人が取った対策、処方箋が大いに参考になると思うのです。具体的にはケインズ主義、共産主義、ファシズムの3つです。失敗や成功をふくんだ示唆に富んだ参照すべき事例を、私たちはすでに知っているわけです。「歴史をしっかり復習しておかないと、議論が浮き足立ちますよ」というのは、今回の番組の中で言いたかったことでもあるし、それが自分の役割だと任じて収録に臨みました。
 近視眼的に起きているさまざまな事件は、けして現代に特有のものではなく過去にもあった。 さらには過去を参照することで立体的に物事を見ていかなければいけません。1つ1つの細かなイシューで「いい/わるい」を反射神経的に決めることはナンセンスです。

――最後に視聴者へのメッセージをお願いします。

先崎 目の前には、さまざまな問題が常に起きています。それにどれだけ巻き込まれないで自分自身で考えられるかということが肝要ですし、この番組のコンセプトではないかと推察します。出演者の言っていることを「いい/わるい」と決め付けるのではなく、自分が考えるきっかけとしてください。

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