「僕らの新資本主義」番組収録後インタビュー:木暮太一
2013年7月28日(日)0:30~1:30〔土曜深夜〕放送予定のニッポンのジレンマ「僕らの新資本主義」収録後、出演者のみなさんにインタビューを行いました。
木暮 太一 (コグレ・タイチ)
1977年生まれ。作家、出版社経営。富士フィルム、サイバーエージェント、リクルートなど10年の会社員生活を経て独立。経済を専門領域とする。著書に『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社新書)、『伝え方の教科書』(WAVE出版)など。
――今回の番組「僕らの新資本主義」に参加された感想をお聞かせください。
木暮
非常にテーマが大きいので、なかなか答えは見つからない……そもそも、答えがない話ですから、議論の道筋を見つけるのも結構難しかったなと感じています。
それから、収録スタジオが思ったよりも大きかったですね(笑)。前回、収録に参加したとき(「格差を越えて 僕らの新たな働き方」2013年1月放送)よりも小さなスタジオに移ると聞いていたのですが、それでもすごく大きかった。最初は場の空気に圧倒されてしまいまして……本論とは関係ありませんが(苦笑)。
――今回の番組で興味を持った話題、あるいは他の方の発言で印象に残ったものはありましたか。
木暮
Hub Tokyoの槌屋さんのおっしゃっていたことが、これからの社会には必要なのかなと感じました。これからは大きい企業が市場を動かしていくような時代ではないだろうとぼくは考えています。大きい企業は残り続けますけれども、そこから外れていく人が非常に多くなるので、小さい組織をどうつくっていくか、ということが大事ですよね。ですから、Hub Tokyoのような存在は非常に重要だと思います。
一方で、今回は議論できませんでしたが、「(起業後)継続して事業ができる」ということも重要なテーマだと思います。起業することは誰でもできるんですよね。登記すれば企業になるわけですし、起業して社長になったり、このビジネスをやると宣言したりすることは、ある程度の勇気があればできる。でも難しいのは「継続」なんですね。ベンチャー企業を立ち上げても、3年で結構な割合でつぶれてしまうという現状もあります。自分がやりたいと思ったことを、後々までどう引き継いでいくかというところまでサポートするような組織ができるのだとしたら、社会的に非常に意味があるなと思っています。
――「資本主義とはどういうことか、学校にいる間に子どもたちに教えることが大事」という発言をされていました。そのために、何か具体的に考えていることなどはありますか。
木暮
ぼくは、一般社団法人「教育コミュニケーション協会」を立ち上げて、“「わかりやすい!」は社会を変える!”というキャッチコピーを掲げて活動しています。
そもそも、子どもたちは「資本主義」とか言われても、まだ体験していないのだからわからないですよね。学校でわかりやすく伝えてあげなければ、子どもたちはわからないわけです。でも、今の教育現場を見ていると、わかりやすく伝えられる教師がどれだけいるのかな? と思うんです。あくまでぼくの実体験の話で、世の中のすべての先生に当てはまるわけではありません。ぼく自身の体験として考えると、わかりやすく説明してくれる先生があまりいなかったので、それではいけないだろうと……。わかりやすく伝えるためにはどうしたらいいのか、その「わかりやすく説明する」方法自体を世の中に広めていくという活動を行っているわけです。それが先生に伝わり、会社の中では上司に伝わり部下に伝わることで、コミュニケーションストレスがどんどん低下していって、お互いに言いたいことがスムーズに伝わる社会がやがてやってくるのではないかと思っています。
今回の議論でも、最終的には「個人」がどうするのかという話で、その個人がどうつくられるかというと、一番手前のところは教育だと思うんですね。教育を受けたうえで世の中に出て、あるいは実践してみて、その結果自分で学んでいくこともありますけれども、そのスタートラインをできるだけ引き上げていく、これからの世代が自分たちに一番いい位置からスタートできるようにするために、教育が重要なんだと思います。
――「独立するまでの4年間、準備をしていた」と発言されていましたが、具体的にはどのようなことをされていたのでしょうか。また、今アイデアを持っている若者がいたとして、何をやればいいのでしょうか。
木暮
ぼくは今、ほぼひとりでビジネスをしているので、4年間やっていたことというのは、ぼく自身がお金を稼げる能力を身につけるための準備です。仲間を集めるとか起業するという感じよりは、フリーランスとしてお金を稼ぐ力をつけるという意味合いが強かったです。
でも、「必要な準備」は必ずしもそれだけではありません。アイデアはあるんだけどどうしたらいいかわからないという人たちは、これから一緒にやっていく仲間を見つけるのが最初だと思います。ビジネスでは「リソース」という言い方をしますが、一緒にやってお金を出してくれる人だったり、一緒にWebを制作してくれる人だったり、一緒に営業してくれる人だったり、そういう自分以外の仲間を巻き込むことがビジネスでは一番大事だと思います。しかも、それが一番難しいところでもあるんですね。まずそこをクリアすることを一生懸命考えるべきだと思います。
やっぱり一人でできることって限られていて、一人のお金も、一人の労力も限られている。一人でできるビジネスであればそれでかまわないのですが、もう少し大きいビジネスをやろうとするならば、いくら自分の能力だけ高めても難しいですよね。「エースで4番」の力がついても、仲間がいなければ野球はできません。でも仮に自分が補欠でも、1番から9番までレギュラーを連れてくることができればチームとして成立します。そういう「仲間を引き連れて一緒にやっていく」という考え方が一番大事だと思います。
――これからの資本主義を考える中で、山口揚平さんから「信用」というキーワードが出されて議論が盛り上がりました。例えばその「信用」が、お金に代わるものになりうると思われますか。
木暮
経済の中で「信用」というと二つの意味があります。一つは、国家のような、すでに存在しているある程度大きなものを信用するということです。銀行に行ったらいつでもお金を引き出せる、これって信用ですよね。国が発行しているお金を信用するというのもそうです。ですから、「信用」は経済のベースにあるものであって、イコール貨幣、つまりお金と結びついている話なんです。
でも今回議論になった、山口さんがおっしゃる「信用」は、もっと主観的なもので、ぼくは「信頼」に近い言葉かなと受け取りました。マンツーマンの関係性の中で、友達だからやるんだとか、SNSでよく知っている間柄だからお金を介さずにいろいろやってあげるとか、そういうことですよね。それは人間のパーソナルな部分、お互い知っていますよというのがないと成立しない話なんですね。
収録では「食べログ」の話も出ていましたが、パーソナルなところから一歩抜け出た信頼というものを獲得しようとすると、まさに「食べログ」になってしまう。それって、個人にレーティングするという話になりますよね。かなり窮屈なことになって、逆に「何でもいいから、お金払うからやってよ!」ということになる。ですから、信頼をベースにしたものはもちろん友達どうしなりコミュニティの中では存在していくと思いますし、お金を介さなくてもお互いやろうよという動きも出てくるとは思いますが、やっぱり生活の基本は、山口さんもおっしゃってる“摩擦がない”貨幣で行われるべきなんですよね。
お金というと、あたかも下劣なものというイメージがあって、お金のことは抜きにして考えようという風潮がありますが、実際にはお金は物と物をスムーズに交換するための純粋なメディア、仲介でしかないので、それに代わるものはないとぼくは思っています。
でも、じゃあこれから自分たちが目指すものはやっぱりお金なのかというと、ほかにも人間関係とかいろいろあるよね、将来的にはお金ではなくてこっちのほうを大切にしようよ、ということもある。視聴者にそこが伝われば、とてもうれしいです。