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2015.04.24
2013.06.26

未来の働き方は、“学校”では学べない?: 伊賀泰代×大竹智也【第2回】

 著書『採用基準』が10万部を超え、ジレンマ世代を中心に注目を集めている、キャリア形成コンサルタントの伊賀泰代さん。高校卒業後にフリーターを経て、現在はベンチャー企業の代表を務める大竹智也さんを、伊賀さんは「大竹さんは高卒で、色覚障害もあって、そういう点だけをみれば“かわいそうな若者”に分類してしまう人もいるかもしれない。でも実際には海外で起業したり、本を出せるだけの専門性を身につけていたりと、すごく前向き。こういう若者を見ていると、就職活動の厳しさなどをことさらに取り上げて“今の若い人は大変”と言う世の中の風潮や、“やっぱり学歴は重要”という考え方には違和感を持ちます」と語ります。
 そんな伊賀さんと大竹さんの対談は、「元気ー?」「まさか、こういう場でお会いすることになるなんて(笑)」と、にぎやかに始まりました。既存のしくみや価値観がジレンマ世代に与える影響から、未来の働き方のヒントまで、痛快きわまりなく展開していきます。

伊賀 泰代 (イガ・ヤスヨ)

1963年、兵庫県生まれ。キャリア形成コンサルタント。日興證券引受本部(当時)での勤務、米国へのMBA留学を経て、McKinsey and Company, Japanに入社。コンサルタント、採用・育成マネージャーとして17年間勤務した後、2011年に独立。キャリアインタビューサイト「MY CHOICE」(http://igayasuyo.com/)を運営。著書に『採用基準』(ダイヤモンド社)。

大竹 智也 (オオタケ・トモヤ)

1983年、兵庫県生まれ。株式会社ラングリッチ代表。兵庫県立明石高等学校卒業後、フリーターとして働きながら、自身のブログを通じてさまざまな人にWebの技術を教わり、フリーのWeb制作者として活動を開始。2010年に2名の友人とフィリピンへ渡り、オンライン英会話サービスの事業を立ち上げ、今に至る。著書に『Emacs実践入門』(技術評論社)。

卒業するころにはもう、ニーズがない

大竹 僕がまだ飲食店でアルバイトをしていた2002年、19歳で初めてパソコンを買って、そこからウェブ関係のことを勉強し始めたんですね。
 当時はネットが普及し始めた頃とはいえ、ウェブサービスという業種はまだそこまで多くなかったんです。ちょうどそのころに、ブログサービスを運営するベンチャー企業を知って、ああ、ウェブのほうに進みたいなって思いました。
   そうすると当然、プログラムを勉強しないといけなかったり、技術的に要求されるレベルはそれなりに高いものだった。だから自分で学んでいくのは大変だったんですけれども、そんなときに便利だったのは、やっぱりインターネットでした。本当にいろんな人からの情報を得ることができますし、そこで交流も生まれる。実際に第一線で開発をしている人とコミュニケーションをとりながら、いろいろ教えてもらったりして。運がよかったですね。ただ、雲の上の存在という人たちがいくらでもいて、その人たちとネットを通じて常に接しながら勉強していると、いつまで経っても追いつけないような感覚にもなっていました。

伊賀 トップとの距離は縮まらないんだ。

大竹 全然縮まらないんですよ。だから、もしもウェブ系のベンチャー企業に入りたいと思ったときに、自分、果たして今の実力で入れるのだろうか、っていうのはずっと不安でしたね。いつまでたっても実力不足なんじゃないかって。

伊賀 でも、だからといって学校で勉強しようとは思わなかったんですね? 足りない分はインターネットとかを使って、自分で勉強しようと思ったわけですよね。

大竹 そうですね。大学で言うと、例えばプログラム専門のコースって当時あったのかなあ……うーん、なかったと思う。専門学校だと、僕にとってはちょっと学費が高いというのもありましたし。

伊賀 ウェブサービスが出始めた頃に、大竹さんは「プログラムを勉強して、この世界で働いていこう」と思われたわけですが、これからも新しい仕事ってどんどん出てくるし、増えていくと思うんですよ。
 香川大学の講演(※)で大竹さんが紹介されていた話ですけど、昔はユーザーインターフェース(以下UI)のデザイナーは、アプリケーションUIさえできればよかった。次にウェブサービスが盛り上がったら、ウェブデザインさえできれば、いくらでも職が見つかる時代がきた。さらにそのあとウェブ上で動くアプリケーションが人気になって、デザイナーといっても、アプリケーションUIしかできない、ウェブのデザインしかできない人だと雇ってもらえない。ウェブ上で動くアプリケーションUIに詳しい人のニーズが高くなる、と流れがすごく早い。これってたぶん、全体で10年もかかってないですよね?

大竹 かかっていないです。

伊賀 だからもしも大学や専門学校が“アプリケーションUIを学ぶ授業”みたいなのをつくっても、すぐに時代遅れになっちゃう。卒業するころにはニーズが変わっていて、もうまったくついていけない、みたいになる。つまり、新しい仕事、需要のある仕事というのは、数年ごとにどんどんどんどん変わっていくわけですよ。そのスピードに、学校はまったくついていけない。

大竹 そうですね。それは絶対そうだと思います。

伊賀 特に大学の変わらなさには驚きます。私が卒業した大学も、法学部、経済学部、商学部、社会学部っていう学部が4つあるんですけど、これって1950年代から変わってないんです。ほんとに過去60年以上、教えるべきことがこの4つの区切りでいいと思ってるんですかね? もしかして教えてる内容も変わってないんじゃないかっていうのは、怖くて想像したくもないことなんですけど(笑)、下手すると次の50年もその4つを教えてればいいと思ってるのかもしれないし(笑)。
 さっきの話のように、社会では新しい仕事がまだいくらでも出てくると思うんです。医療だって、医者、看護師、薬剤師という伝統的な職業に就きたければ、今でも大学で学べます。でも、今すごくニーズが出てきているのは、癌の治療に入ったときのメンタルケアとか、不妊治療中の人にカウンセリングする人など、医療関係のメンタルなサポートができる専門家です。じゃあ、そういう人を育てる学校があるかというと、もちろん一部の学校にはできてきてるんだとは思いますが、やっぱり正規の大学はなかなかそういう流れについていけない。
 今の社会では、学校に行った上で職業に就くべきと思ってる人は、古い時代に合わせて作られた学校の枠組みの中で学ぶから、よけい就職できないんじゃないのって思うんですよね。むしろ大竹さんのように、どんな職業が出てきつつあるのかをマーケットで直接、自分で見て、そこから学んだほうが就職しやすくなると思いますね。

大竹 それに結局のところ、自分が何をしたいのかということも、年々変わっていくと思うんです。まずはやりたいことありきで、じゃあ自分が今、何をするのかを考えることが自然な順序ですよね。やりたいことがわかったり、これだというのが決まったときに、すぐ動けるようにしておくこと。動くために身軽にしておくというのは、大前提だと思います。
 僕自身、自分が本格的に何をやりたいのかというのがまだ正確に定まってない段階で、なんとなく自分の行く方向を固めてしまうのは避けたいと思ってきました。例えば大学の文学部に行ってしまって、でも、ITで起業したいとなったら、卒業するのを待つか、いっそやめるかという、けっこうめんどくさい選択に迫られますよね。そういうことにはできるだけならないように、常に心掛けていますね。

(※)2011年10月に香川大学で行われた、大竹智也さんの講演会。
「ソーシャル・スキル~時代変化の考察と対応」と題し、これからの時代のキャリア形成をテーマに話をされたもの。

大学生活=遊ぶための時間?

伊賀 最近、もう大学がひどいなと思っていて。価値がなくなってきてるというか。大学院に進む人も増えてるんですけど、20代にあんなところに6年間もいて大丈夫なのかなって思うほどです。

 

大竹 6年……ということは、そこから就職が始まるわけですよね?

伊賀 6年あれば、起業して上場できるよね(笑)。

大竹 個人的には、大学が4年というだけでもけっこう長いなと思うんですよね。

伊賀 ほんとにその価値があるのかなって感じです。

大竹 そう。あとは4年後の自分が進みたい方向と合っている学科を、高校生の時点で選べたのかなというと、ちょっと自信ないですね。

伊賀 大竹さんって、大学に進学するかどうか考えた上で、進学しないと決めたんですよね?マッキンゼーで採用を担当していたころ、いい大学を出ている子ばかりに会ってましたが、一流大学でさえこんなんなのねって思ってました。というのも、成長している子、学んでいる人はみんな、その学びを大学の外の世界から得てるんです。長期インターンで事実上働いてたり、世界の山に登ってましたとか、アルバイトで営業を担当して何千万円も売り上げていましたとか。

大竹 僕、大学へ行こうかどうしようか考えていたときに、父親から「大学に行ったら4年間遊び放題だぞ」みたいなことを言われて。大学生活=遊べる時間、っていうイメージを持つ年配の方って、けっこう多いと思うんです。自分は大学時代がすごく楽しかったから、だからぜひ行くべき!というような発想。うーん、何ていうんでしょうね……。

伊賀 大学は楽しいから行っとけと言われても、遊びに4年間も使うのはどうだろうかと思ったんですね。

大竹 そうそうそう。そんなのお金がもったいない、って思いますし(笑)。大学へ行ったほうが、就職は楽だろうなというのは当然ありましたけれども、不安があるとか云々よりも、あんまり深く考えてなかったというのが適切かもしれませんね、今、思うと。
 あとはですね、これはもう僕の根本的な性格だと思うんですけども、人と違うことをしたほうがおもしろいじゃん、という考え方がまず基本にあって。たとえばみんなで飲食店に行って注文するときに、人と違うものを頼むとか、もうほんとにそういう些細なところからですね。だから大学に行くかどうかについても、みんなが大学へ行くんだったら、自分は別の方向に進んで、何かを実現したほうがおもしろいんじゃないかなくらいの、軽い気持ちだったと思いますね。

伊賀 まわりに「そんなことしてちゃダメだよ」って言う人はいなかったんですか? 私がもしそういう決断をしてたら、反対する人がたくさんいた気がする。

大竹 親はやっぱり、「大学に行ったほうがいいんじゃない?」って言っていました。

伊賀 やっぱり。

大竹 高校卒業してフリーですからね。家族だけじゃなくて、いろいろな人に「これからどうするの?」って聞かれました。僕自身、とくに勉強ができなかったというわけでもないから、「大竹君、ちょっと落ちぶれたんじゃないの?」くらいの見られ方はされていたと思いますよ。「どうするのかな」、「心配だな」みたいな。

伊賀 先生には何も言われなかった?

大竹 高校時代の担任の先生とは今でもすごく仲が良くてですね。理系の先生なんですけど、高校卒業してから、自分はコンピュータに興味があるということを話したら、親身に相談に乗ってくれて。それがきっかけで、20歳のころに1年間高校で働かせてもらったんです。ちょうど情報の授業が始まって、民間から情報の授業をサポートするIT教育指導補助員というのを募集していて。おもしろい経験でした。

伊賀 教壇に立って教えていたんですか? 

大竹 そうです。先生をサポートするという形で教えていました。実は学校で働きたいなと思っていたこともあったんですよ。教師として。ただ、そのためには大学へ行って、教育課程に進まなくちゃいけない。教育実習で初めて、ようやく学校で教えることを経験できるわけだから、僕はたまたま運がよかったですね。それでけっこう、学校で働くということについては満足した感じがあって。

伊賀 ちょっとやってみると、一生やりたいことかどうかわかりますよね(笑)。

大竹 30年とか学校で働かなくても、もういいやって。十分楽しかったんで。

アルバイトこそ、究極の就職活動

伊賀 その前後は飲食店のアルバイトをやってたんですよね。

大竹 そうですね。仕事という意味では、高校2年生のときに初めてミスタードーナツでアルバイトを始めて、そのあとも飲食店のアルバイトを、25歳ぐらいまでですかね、ずっと続けていました。おもしろかったんですよね。店舗を1年ごとぐらいに変えて、いろんな職場で楽しみながら、学びながら働くという感じでした。

伊賀 飲食店のアルバイトって、私も大学時代にいろいろやったんですけど、学びはすごく大きいと思いました。私の場合、まず海外旅行が好きだったから旅費を貯める必要があったのと、あとは大学の授業が全然おもしろくなかったので、大学にはほとんど行かずにバイトをしていました。最初は効率よく稼げる家庭教師をしたんですけれど、仕事としてはまったくおもしろくなかったんです。それで、時給はいいけど、これはちょっとやってられないなと。
 やっぱりお金よりも、自分の人生の時間の1時間、2時間がおもしろいかどうかのほうが、圧倒的に重要でしょ。20代のときの時間って、ほんとに貴重。だから家庭教師はすぐやめてしまったんです。そうすると、学生にとっていちばん手っ取り早いのはコンビニか飲食店のアルバイトで。飲食店ってすごくおもしろいよね。オペレーションもすごいし、お客さんも「おお、こんな人がいるのか」みたいな感じでびっくりする。

大竹 わかります。

伊賀 赤ちょうちんのカウンターだけの居酒屋でもバイトしたんですけど、ほんとにわけわかんない人がいっぱい来る。大学より圧倒的に世界が広がりました。それにチェーン店だと労務管理、発注の仕組み、棚作り、マーケティングまで総合的に学べて、もう授業よりアルバイトのほうがよっぽど役に立つ。

大竹 たしかにそうですね。飲食店って、チェーンであろうとなかろうと、日々の営みはすべて、その店の中で行われているじゃないですか。やる気さえあれば、その店舗にあるすべての仕事にアクセスできるという醍醐味がありますよね。人の入れ替わりもそれなりに速いので、入って半年くらいすると後輩を指導したりもしますし、シフトの管理を任されたりとか、発注をしたりとか。

伊賀 アルバイトでも経営が丸ごと学べる感じですよね。

大竹 はい。ありとあらゆる。

伊賀 私はアルバイトって究極の、ほぼベストな就職活動だと思ってるんです。いろんなバイトをすると、自分が社会のどの面に興味があるのか、すごくビビッドにわかる。接客なのか、経営なのか、マーケティングなのか、労務管理なのか。システムに興味を持つ子もいるし。

大竹 たしかに。僕の場合は厨房機器とか業務機器のメーカーにすごく興味があって、それこそ高校生でバイトしていた頃から観察していたんですね。それぞれのシェアが気になったり。そういう部分を見ていると、ああ、世の中って、ひとつのことをするにしても、いろんな役割があって、こうしてまわっているんだなということを感じられました。

圧倒的に採用したくなる人

伊賀 高校生のときにバイトを通じて、世の中がどうまわっているかを感じていたというのは、すごく大きい経験だと思います。私が大学生だったころって大学がレジャーランド化してて、ほとんど誰も授業に出てない状況でした。その点、今の学生は違っていて、授業にはちゃんと出ているみたいなんです。
 でも採用面接のときに、授業だけきっちり出てましたっていう子と、バイトばっかりしていましたって子とを比べると、後者のほうが、圧倒的に採用したくさせる何かを持ってるんです。それはやっぱり、リアルな社会から学びを得ているからですよね。
 あと、私がとくに重要だと思ってるのは、お金を稼ぐという行為を体験することです。最近、ボランティア活動に参加する学生もたくさんいるんです。それもすごくいいと思います。けれどもそれにプラスして、やっぱりお金を稼ぐという経験を、自分の職業を決めてしまう前に、最低1年か2年はやっておいてほしい。
 私が経営者だったら、稼いだ経験のない人は雇いたくないです。働くということの意味がわかっているかどうかというのは、非常に大きい気がする。

大竹 僕がもし今、会社で採用するならば、やっぱりベンチャーで実務経験がない人というのは、基本的に雇うことはないのかなと思いますね。正直なところ。
 それは単純に仕事がすでにできる、できない、という点もあるんですけれども、それだけじゃなくて。なんでしょうね……言葉を選ばずに言うと、勉強しかしてない人は基本的に受け身だと思うんです。教えてもらうことが当たり前、という姿勢になってしまっているような気がする。なので、教えれば教えるほど吸収するんですけれども、業務の中で、能動的にどんどん学んでいけるのかどうかというところを考えると、僕にはちょっとまだ判断できないです。

伊賀 おっしゃるとおりで、学生しかやったことがない人って、教えてもらうのが当然だと思っているところがあります。だから、「研修システムがしっかりしてるから」とかいう理由で大企業に行きたがるんです。でも元採用担当の立場から言うと、「研修制度が整ってないと成長できません」なんて人や、「教えてもらえたら頑張ります」みたいな人はもう雇いたくないです。
 今は、一年で10人雇えばいいっていう規模の会社だったら、働いた経験がある学生だけで、採用は終わっちゃうぐらいじゃないかな。「ああ、いいな」と思う子は、だいたいみんな働いた経験がありますから。
 あと、就職が厳しいから、親に「必要な額はぜんぶ仕送りするから、バイトなんかせずに授業に出なさい」とか、「お金を出すから留学してきなさい」とか言われて、万全のサポートを受けて就活に臨む人もいるんですけど、そういう「親が言うからこれをやりました」みたいな人って、就職しやすいのかどうか、それも微妙なところです。

「20代なのに、石の上に三年座ってどうするの?」

伊賀 働くことを怖がってる人もいるんですよね。学生時代は自由で楽しいけど、社会人になると残業はあるわ、休みは取れないわ、ブラック企業がどうのこうのと。でもどう考えても、学校より仕事のほうがおもしろいって思いますよね?

大竹 いや、もう僕、そもそも働くことが怖いという人がいること自体が、ちょっと新鮮で。

伊賀 ビックリ(笑)?

大竹 そんなこと、まったく想像したことなかったですけど。学生の方って、そう思うんですかね?

伊賀 学部から直接、大学院に行く人の多くって、ほんとに勉強が続けたいのかどうか、私には疑問です。むしろ働くのを避けてるんじゃないかなと思える人が多い。多いのは周りがいくから自分も行くというパターンと、大学4年生になったときに、まだ未熟すぎて社会で通用しないから、もっと十分に学んでから就職に備えたいって思う人かな。

大竹 そうなんですか。でもやっぱり、いろんなことを試した上で、これがいちばんいいと思って決めたもののほうが満足度が高いですよね。人から「はい、これいいよ」って勧められたものを、比較も何もせずにそのまま受け入れたりしたら、それが自分にとって本当にいいかどうか、わかんないと思うんですよね。

伊賀 そう、思考錯誤をしながら見つけていくというプロセスのほうが、絶対いいものが見つかりますよね。例えば天ぷらはこんな感じの食べ物ですっていう説明の本を読んで、どんな粉を使ったのがいいのか、何度で揚げてあるのがおいしいのか、とか、4年も6年もかけて研究して、「よしわかった、あの店の天ぷらだ!」みたいな、そんな決め方しないでしょう? そんな何年も脳内だけで考えて、ようやく口にして、実は天ぷらアレルギーだったらどうすんのって感じ。
 職業も食べ物も同じですよ。まずはいろいろちょこちょこ食べてみて、「あ、俺は天ぷらが好きなのかも」とか、「天ぷらもいいけどハンバーガーも旨い」とか、仕事もそうやって決めるべき。時代の流れも、変わり方もすごく速くなっている中で、すっごく考えて研究してエイヤとひとつの職業を選ぶんじゃなくて、いろいろやってみながら、「どれにしようかな」という身軽な姿勢で決めていくほうが、いい感じのものが手に入ると思う。

大竹 そうそう。何でもかんでも取りあえず経験して、自分にとってそれがいいと思えるのかどうか、ちゃんと実感を持って選ぶということをしていかないと、あとになって「やっぱりこれじゃなかったかも」、「どうして自分はこんなことをしてるんだろう」っていう不幸な事態に陥りやすいと思います。

伊賀 ほんとにそう。とくに20代って、誰にとっても10年しかない超貴重な時間なんです。その貴重な時間の2年とか3年を、今の瞬間「これだ!」と感じられないことに費やすなんて無駄すぎます。私、「石の上にも三年」って、最悪な言葉だなと思ってるんです(笑)。石の上に3年も座ってどうするのって。それ、2か月ぐらいで気がついて立ち上がったほうがいいよって思います(笑)。 
 これも大竹さんの香川大学での講演(※)で聞いた話ですが、「自分が好きな自分になる」っていう言葉、すごくいいなと思ったんです。少なくとも、「これが今、いちばんやりたいことだからやってる」と言える状態で、最低でも20代はそういう状態で過ごしたほうがいい。


【最終回】へ続く

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