「数理のチカラ、僕らの未来」番組収録後インタビュー:猪子寿之
2013年6月30日(日)0:00~1:30〔土曜深夜〕放送予定のニッポンのジレンマ「数理のチカラ、僕らの未来」収録後、出演者のみなさんにインタビューを行いました。
猪子 寿之 (イノコ・トシユキ)
1977年生まれ。ウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表。大学卒業と同時にチームラボを創業。チームラボは、プログラマ・エンジニア、数学者、建築家、グラフィックデザイナー、CGアニメーター、編集者など、情報社会の様々なものづくりのスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。
――今回の収録にあたって、どのような問題意識がありましたか。
猪子 例えば、子どもの学力が低い問題があるとします。調査すると、ケータイの使用時間が長ければ長いほど、学力が低いという結果が出ました。そこで、子どものケータイの使用を禁止する条例を作りました。問題を解決したつもりになって酔いしれています。これは、実際最近あった話だし、同じようなことはよくある話です。でも、実際に子どもの学力が上がらないですよね。何か禁止されても、勉強をするわけではないので。本当は、勉強そのものをよりもっとおもしろいものにしたら、学力の問題は少しだけ改善するでしょう。そして、そのおもしろくするというものは、些細だけれども、とてもじゃないけど思いつかないようなことの連続で、おもしろくなっていくんだと思うのです。例えば、『えいご漬け』というDSのゲームソフトは、みんな、好んで英語の勉強をするわけです。それは、英語を勉強することが、「インターフェイスが気持いい」と理由だけで、ゲームをやるくらい楽しいものになったのです。インターフェイスが気持よくなったら、勉強が楽しくなる!ってことは、本当に些細かもしれないけれど、体験するまで、全く思いつかないようなことです。それは、まさにイノベーションですし、そして、それは、多くの試行錯誤の上に成り立っているような気がするのです。
――現代の社会で、イノベーションはどのようなかたちでありうると思いますか。
猪子 高度に複雑化された現代は、一見、問題の原因に思えるようなことを、禁止しても、実際は、全く問題は改善されません。もしくは、別の多くの問題を生むことになります。なぜなら、社会は人間ごときの理解をはるかに超えて、高度に複雑で、相互に関係しあっているからです。
何か新しいものを創ることによって、みんな、そっちが「便利だから、楽しいから、気持いいから」、結果として、問題が改善されている、もしくは問題そのものの意味が根本的になくなっている、という解決方法でしか、本質的には前にすすまないのです。そして、何か新しいものを創って改善する、もしくは、イノベーションを起こして結果的に解決する、ってことは、とうてい論理的には思いつかないようなことだし、成功することを前もって言語で説明できないようなものだったりするわけです。そして、それは、多くの果敢なチャレンジとおびただしい失敗の上のみにあるのです。
――今回の番組のテーマである「数理のチカラ」と新しいものを創ることの間にはどのような関係があると思いますか。また、その上で、どのような未来を思い描いていますか。
猪子 新しいものを創る、もしくは、イノベーションの多くの裏側には、数理的なものが利用されています。特に、情報社会となって、デジタル領域が社会の多くの部分と切っても切り離せない存在になっている現在は、みんなが想像するよりもはるかに、新しいものを創ったり表現したりすることと、数理は切っても切り離せないものになっています。
僕は、できれば、複雑な問題の短絡的な原因を禁止したり、複雑な問題を倫理的な理由で個人の責任にすりかえ個人を攻撃し駆逐したりして、酔いしれるより、何か新しいものを創ることによって、少しでも、未来がワクワクするものになったらいいと思うし、そして、みんなが少しでもそうすることによって、とにかく、自分が一番、ワクワクしたいと思っているのです。