サイトの更新中断のお知らせ

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2015.04.24
2012.11.14

TVを消して行動せよ!:瀧本哲史×藤川大祐

「藤川さんでなければ対談は引き受けなかった」とは、NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演し、現在はNHK「NEWS WEB 24」の火曜日ネットナビゲーターも務める京都大学客員准教授の瀧本哲史さんの言葉です。千葉大学教育学部教授の藤川大祐先生と瀧本さんは、ともに「ディベート甲子園」を運営する仲間。17年来の付き合いになる二人の対談は、いつしか若者への強烈なメッセージに……。

瀧本 哲史 (タキモト・テツフミ)

京都大学客員准教授。大学では「意思決定論」「起業論」などを担当。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事。エンジェル投資家。著書に『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』(ともに星海社新書)。

藤川 大祐 (フジカワ・ダイスケ)

千葉大学教育学部教授。メディアリテラシー、ディベート、企業との連携授業など、新しい授業づくりに取り組む。近著に『学校・家庭でできるメディアリテラシー教育』(金子書房)『いじめで子どもが壊れる前に』(角川oneテーマ21)。

権威なんてたいしたことない

瀧本 元々、藤川さんとの付き合いというのは、「ディベート甲子園」をつくるっていうときに始まったんですけど、実はその前からつながっていて……。

藤川 中高が一緒なんですよね。

瀧本 そう、これが僕、結構重要なんじゃないかと思っていて。変な学校だったんですよ。教員のことは「さん」付けするのが基本。あと、職員室が廊下になっている。

藤川 3階や4階の渡り廊下になっているところが職員室。

瀧本 そう。職員室が通路として使われるのが当たり前のようになっているので、教員と生徒の壁が非常に低くて。アーキテクチャとして“教員という権威は別にたいしたことない”ってメッセージがあった。入学試験もすごく変な試験なんですよね。

藤川 私が見たのは、瀧本さんも本(『僕は君たちに武器を配りたい』)に引用していた……コペル君の話。

瀧本 そうそう、吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』ですね。中学校受験だから小学6年生対象なんだけど、ちょっと早熟な少年じゃないとわからないような細かい心情を読ませる国語の試験とか、限りなくパズルに近い算数の問題とか。

藤川 稲の花の絵を描け、っていうのもありました。

瀧本 そういう問題を出すので、するとどういう人が集まってくるかというと、自分たちは特殊じゃないかって誤解する。すごい才能があって、他のやつらとは違うっていう大いなる誤解。ただ怖いのは、皆がそうなんですよ。だから入学してすぐ、実はもっとすごいやつがたくさんいるってことがわかる。そういう環境の中だと、勉強ができるという軸で競争して勝っても自慢にもならない。むしろ負け組だみたいな観念が植え付けられるんですね。で、教員がね、まったく当てにならないんですよ。非常にばらつきが激しくて。

藤川 私にも同じような感覚がありまして。教科書に載っているから正しいとか、教員が言っているから正しいなんて思えないわけです。たとえ結論としては正しくても、その背後にあるものを理解しなければならない。権威ではなく自分で考えるっていうのは、まぁ、中高のころからそういう感覚はあったのかもしれないですね。


偉そうな人から学んでもダメ

藤川 きっかけはディベートというか、元々はパソコン通信ですよね。

瀧本 そうそう、NIFTY-Serve。

藤川 NIFTY-Serveに「教育実践フォーラム」というのがあって、私はそこのスタッフだったんです。

瀧本 そこでディベートの話をしていて……。僕は大学でディベートをやっていたので、これじゃダメでしょ、って乱入したんですよ。あー、これ全然ダメですって感じで。

藤川 (瀧本さんとは)違う方とつながってディベートを教わるようになって、そのことを書いていたんですが、瀧本さんが乱入してきて(笑)。まぁ、我々は元々よくわかっていなくて、いろんな人から教えてもらおうと思っていたので、誰かだけに教わるつもりはなかったんです。元々の方もネットつながりなんですね。

瀧本 えっと、1995年かな……。

藤川 そうです、1995年。インターネットというものはあったんだと思いますけど、それを使ってコミュニケーションっていうのがあまりなかった。異業種交流がすごくしづらくて……だから、パソコン通信は貴重でしたね。で、教わろうとするとき、ちょっと偉そうな人から学んでもダメだっていうのがあって。元というか本物というか、もっと詳しい人を求めたいというのがありましたね。

瀧本 僕はわりと、小さく張って、失敗したものは消して、成功したものに大きく張る。満足したものは売ってしまう。……ってやっていくんですけど、結果として残ったのが、NPO関係では「ディベート甲子園」なんですよ。

藤川 これ、もう17年くらいやってますからね。奇跡的に続いてるんですよ。瀧本さん、こんなに長くやったことないでしょ?

瀧本 そうですね、僕がやっていることで一番長い。それは、成果が出るのが遅いからですよ、一つには。僕が大満足する成果が出ていない。

藤川 やめることもできなかったけれども、満足できる状況でもなくて。最初の10年くらいは私が背負っているほうだったんですけど、瀧本さんが横から見てて、いろいろおっしゃるので、瀧本さんがむしろ担うっていうふうに変えさせてもらったんですね。

瀧本 なんだかんだね(笑)。私が少なからずナルシスティックでエゴイストなことはこの際自認しますが(笑)。そのくせ、自分のために頑張るのって意外にできなくて。他の人を巻き込んでしまったので、その人を成功させないとまずいな、っていうのは頑張るんですよ。

藤川 瀧本さんは、人情にあついですからね。



「ニッポンのジレンマ」にまさかのダメ出し!?

藤川 瀧本さんは、本やTVの雰囲気と、リアルに活動しているときの雰囲気が結構違うのかもしれない。言葉遣いとか怖いじゃないですか。遠慮なく発言して、たたくのが趣味みたいに思われるかもしれないですけど、やるとなったらきちんと支えるというか応援するというか。

瀧本 僕は成果が出ないのが嫌いなんですよ。結論が出ない議論も嫌いだし、盛り上がって結局何もしないっていうのも嫌い。「だから日本人はダメなんです」とか、意識だけ高くなって、それで終わっちゃうから。

藤川 アクションもない。

瀧本 まさに「ニッポンのジレンマ」に出たときに何が言いたかったかというと、運動論とか政策論とか死ぬほど出ていて、皆知ってるんだったら早くやったら? という話なんですよ。早くアクションを起こして変えましょう、意外と答えは簡単ですよってこと。中身はどうでもよくて……何が正しい行為かわからないし、自分の正しいと思うことをやればいいんですよ。Just do it.となって、Do your homework. それだけ。あとは何も言うことはないので、(番組にも)もう出る必要はないんですよ。

藤川 いや、でもあの番組は結構価値があると思うんですけど。数年前からTwitterが流行って、今までだったらつながれない人たちが、わりとよくつながるようになってきましたよね。何かやろうってことで始めている人はたくさんいると思うんです。だけど、そういう動きとマスメディアは全然違う世界というか……TVとか、若い人が動いているのを無視するかのようですし。でも、そんな若い人たちの動きを見えるようにしてくれたのが「ニッポンのジレンマ」だと思うんです。名前は聞いたことがあったけど、初めてTVで見て、あぁこの人はこんな感じなのかと……関心がある人には見えるようにしてくれた。それは一歩前進なんですが、ただそれはもう、今年の正月で終わったという話ですね。

瀧本 ところが、だんだん若者のための「朝生」(朝まで生テレビ)になってしまっていると思うんですね。「朝生」って要するに、評論家たちのダメな議論を聞いて、視聴者がひどいひどいと言いながらも結局見るっていう番組で。つまり「上から目線でダメな評論家を批判することで自分が偉くなったような気がする」エンタメを消費しているってことなんですよ。

藤川 そうですね。「ニッポンのジレンマ」も、例えば次の3か月でこれだけやりますって言って、本当にやったかというのを放送していけばいいんですよ。それぞれの場で、こんだけやりました、こういう部分が変わったじゃないですかってことなら面白いですよね。これまでの番組全部拝見しましたけど抽象論や大所高所の話が多くて、あんまり変わりそうな感じがしなくて、面白さがなくなってきているのかなぁ。

瀧本 普通の人が大所高所の話をしてもしょうがないんですよ。

藤川 正月の放送でたしか、小さいところで、小さい奇跡を起こしていくことを重ねるしかないんだっていう話を皆さんがしていて。一見絶望的なんだけど、ちょっといいことはたくさん起きていて、それが大事なんだと言われて共感したんですけれど。じゃあそのあと、小さい奇跡はいつどこで、どんなことが起きたのかを知りたいですよね。

瀧本 つまり、TVを消して行動せよ、なんですよ。Do your homework.なわけで、それぞれの場で、それぞれの宿題を見つけてやれ、ということ。

藤川 TVを消して行動せよ、アリですね、こういうコピー。

瀧本 とことん討論番組やって、盛り上がって、それで終わりじゃ意味ないんですよ。リーダーシップとか語って、次の日に1人でも実際にリーダーシップとって何か変えるやつがいて初めて意味があることなんです。そのためには色々な人と組まないといけないので、『武器としての交渉思考』を書いたんです。


【続く】

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