就職も人生も自分から合わせにいくな:瀧本哲史×藤川大祐
「藤川さんでなければ対談は引き受けなかった」とは、NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演し、現在はNHK「NEWS WEB 24」の火曜日ネットナビゲーターも務める京都大学客員准教授の瀧本哲史さんの言葉です。千葉大学教育学部教授の藤川大祐先生と瀧本さんは、ともに「ディベート甲子園」を運営する仲間。17年来の付き合いになる二人の対談は、いつしか若者への強烈なメッセージに……。
瀧本 哲史 (タキモト・テツフミ)
京都大学客員准教授。大学では「意思決定論」「起業論」などを担当。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事。エンジェル投資家。著書に『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』(ともに星海社新書)。
社会を変えるために必要な二つのもの―「実績」と「外圧」
瀧本 藤川さんはNPOの活動もしていますよね。
藤川 私たちの研究室を基盤に作ったNPOは、「企業教育研究会」といって、民間企業の方の協力を得て、学生を中心としたスタッフたちの力で、今までできなかった授業をやろうというものです。授業実施に必要な費用は、原則として企業に、社会貢献として負担してもらっています。そこからスタッフに給料を支給しています。
瀧本 ちゃんとお金がまわるようになっているわけだ。ダメNPOじゃなくて。
藤川 今、年間250~300校くらいで授業をやっています。全国で小中高の学校は数万校ありますからけっして多いとは言えないんですが、学校の空気を少しでも変えようとやっています。質を維持して向上させていくためには、私たち自身が研究をしなくてはいけないので、企業からいただくお金の一部は研究予算にまわせるようにしています。研究会を開催したり、学校教育以外の方から学ぶ機会をつくったり。1万校でやろうと思ったら、今のシステムではもちろん無理ですけど、一つの地域で一度授業をやれば、それを見に来る人もいて波及効果もあるので、学校を変えていく一つのステップとしては意味があると思っています。日本全国の学校を一気に変えることは難しいので、まずどの辺を狙うのか、それがどう次につながるのかっていうのは考えなくちゃいけない。
瀧本 僕も藤川さんも、たぶんいわゆるトップダウン的なものはダメで、群雄割拠的なリーダーシップモデルしかないと考えてますよね。意外に小さなきっかけで、ネットワークがつながっているなんてことはよく起きますし。ネットワークといえば、僕、いろいろと忙しく動き回っているように見えて、実は自分自身の稼働時間は少ないんですよ。余計な仕事はしたくないから、忙しい雰囲気を醸し出しているだけで。要するに、どういうネットワークになっているかを全体から考えて、どこを引っ張れば世の中の全体が動くかを常に探すように意識しているんですね。
藤川 同感ですね。たぶん学校教育全体を変えるのはすごく大変なんです。文科省自体を変えようとすればおそらく失敗するし、地方の教育委員会とか学校は伝統的なものを背負ってしまっていて一気には変わりません。変えていくために必要な要素の一つは「実績」をつくることで、もう一つは「外圧」かなと思ってます。企業の方と活動をしていいのは、そこで働く人たちが保護者であることも多くて「こういう授業いいよね、こういう取り組みいいよね」って共感してくれて、いろんなところで情報を発信してくれる。それがかなり大きな力になっていると思います。文科省は……一気に動くと間違えそうなんですよね。
瀧本 僕は正直、あんまり政府には期待してないです。だって何が正解か、何が望ましいことかなんてわからないし。そもそも人の才能って平等じゃないじゃないですか、残念ながら。学校の勉強を頑張ってもダメな人はほかのことで頑張ってもらうしかなくて。全員同じカリキュラムで競争させれば、必ず勝者と敗者が出てしまう。それはまさにコモディティ(*)の世界なので、勝ったとしてもそのゲームが同じ方向であるかぎり、いつかは限界に達するんですよ。今必要なのは、いろんな方向のゲームを作るっていう部分で。
藤川 自分で考えて、社会の課題をうまく掴んだ人がそこそこ成功しますよね。世の中にはニッチなところってたくさんありますし。もちろんリスクヘッジは必要だけど、「企業教育研究会」も考えています。専業職員は最小限しかいなくて。業績がかなり落ちても、しばらくはスタッフに給料が払えるように資金を運用しています。
瀧本 NPOって言うと聞こえがいいですけど、一種のベンチャーなんですよ。期間を決めてファンディング(資金調達)して、成果を出して、またファンディングするというサイクル。それができなければゲームオーバー。
藤川 NPOは助成金などに頼りすぎると不安定になるので、うちはほとんどが企業からの事業収入。景気はいろいろと動きますけど、低コストの運営で教育への社会貢献ができるということで、企業の理解もあり、いきなり活動をやめようということにはなりません。もちろん、いくつかの企業が撤退しても、すぐにNPOの経営が危なくなるということもありません。
瀧本 NPOにも競争があって、マーケティングがあるわけですよ。藤川さんは、なんだかんだ上手な方だとおもいます(笑)。
「社会にいいことしている感じ」じゃ全然ダメ
瀧本 例えば街頭募金ひとつとっても、ちゃんとやれば結構集まるんですよ。昔、渋谷駅の近くで募金やったことがあって、むちゃくちゃ募金が集まって「やばい、これで暮らせる!」とか言っているメンバーもいたんだけど(笑)。なぜたくさん募金が集まったかといえば、コピーとかもしっかり作って、どういう人に声をかけたらいちばん来るのか、どういったテーマを選ぶのかなどをしっかり考えてやったからです。渋谷の反対側で別の団体が募金やっていたみたいだったけど、そっちは全然集まってない。せっかくいいことやるんなら、頭を使わないと。
藤川 まぁ、お金のことで頭使っちゃいけないみたいな感覚って、わりと多くの人にあるじゃないですか。「金儲けは悪だ」みたいな。
瀧本 お金を集めることは極めて重要で、僕の本(『武器としての交渉思考』)にも書いてあるんですけど。だって、活動を大きくしようと思ったら、人と金を集めて、自分が狙ったターゲットに成果を伝えないと意味がないじゃないですか。皆、自己満足でやっているからダメなんですよ。目的を達成しようと思えば中途半端なことはできないはずで。「やっているつもり」が多すぎます。
藤川 活動を頑張るってことは楽しいですからね。ちょっと何かいいことがあると舞い上がっちゃうし。瀧本さんも言っていたと思うけど、ちょっと年配な人が支えればいいんですよ。うちもスタッフは皆若いですけど、私がいて、あと60歳代の元小学校の教員だった女性がいます。学校の文化をよく知っているわけで、こんなことを学校でやってもダメじゃないの、みたいなことを言ってくれる。スタッフの学生たちは教師になりたい人も多いから、そういうことも学びながら動いていく。やっぱり少し経験がある人がいてくれて、支えてくれて……。
瀧本 ダメな大人も多いので、経験があるというよりも端的に言うと「成果を上げた」経験がある人がいいんですよ。だいたい40歳くらいまでにわかりやすい成功経験がないと難しいと思います。
藤川 瀧本さんがダメ人間って言うような人はきっと多いんですけど(笑)、そうした人たちともうまく一緒にやる方法を常に考えたいなと私は思っています。きれいごとかもしれないけど。
瀧本 「ディベート甲子園」でちょっと感動したのは、どんな人たちでもなんとかなるってことなんです。たくさんの人が集まれば、その中には、当然、残念ながら、本当にどうしようもないように見える人が結構いたんですけど、ちゃんとした目標があって皆で考えると、それぞれ文化が違う人たちが集まるチームができて、それなりに成果が出るっていうことを僕は経験して。
藤川 チームですからね。チームでやるときに、この人にこれは任せておけるっていうことがあるじゃないですか。何もまとめないんだけど、すごくコミュニケーション能力があって、いろんなところでしゃべって回るっていう人は、宣伝役みたいなことをやってくれたほうがいいとかね。
瀧本 そうそう。接遇担当とかね、一見閑職にみえて、実はとても大事なハブになってたり。あと、ミッションがむちゃくちゃ高くて要求水準が高いと、人は成長するんですよ。もちろん中には、壊れてしまう人もいるわけで、そういうときはお疲れって言ってはずすんですけど、その中でも何人かは跳ねる、非連続的な成長をするやつがいるんですよ。
藤川 特に若い人は成長しますから。必要なことを知らないだけだったりするので。
瀧本 だから僕がよく言うのは、「光あるうちに光のなかを歩め」、ですよ。もうね、40歳くらいになったら、光なんかないので。
藤川 そこはしょうがないですよね。その立場でできることをやりつつ、若い人が動きやすいようにしてあげなきゃいけないんでね。それで、「ダメ人間」って言われてしまう人が何なのか、整理したほうがいいですね。お金のことをちゃんと考えない人はそうですね。
瀧本 要は、成果を出さない人ですよ。やってるつもり、知ってるつもりになってる人。
藤川 結果よりもプロセスが大事とか言っちゃってる人。そりゃあプロセスも大事だけど、結果出さなくちゃならないでしょって話です。
瀧本 NPOに仲良くしに来ている人もダメです。
藤川 社会にいいことを皆でやっている感じ、それ自体楽しいですから。自己目的化しやすいんですよ、ボランティア活動的なものって。
瀧本 リーダーの姿勢にもよりますね。リーダーが結果に固執することですよ。「ルーム・トゥ・リード」(発展途上国の子どもたちに教育の機会を与える活動をしているNGO)を立ち上げたジョン・ウッドという人は、一番好きな言葉が「振り込まれています!」ですから(笑)。
東大に入るのと就職活動に勝つのは全然違う
瀧本 就職活動でも、何もしてない意識の低い人は会社に入れないんですよ、残念ながら。意識も高いし、頭もいいやつが大企業のいいところに行くんです。ああ、意識「だけ」高い人もダメですけど。
藤川 倍率すごいですからね。
瀧本 だから全部持っているやつとなにも持っていないやつが、実は二極化している。
藤川 内定をたくさんとっちゃう人と全然とれない人がいる。
瀧本 例えば東大生は賢いし、金がある人も多いし、何でも持っているやつが結構いるんですよ、実際に。さらに言えば、もうね、この時期(注:この対談の行われた10月初旬)優秀な人は内定を得ているわけ。冬に内定をだすというのは企業のデモンストレーションなわけですよ。もう終わってるところはおわっているんです。去年、ある雑誌が就職活動特集で11月とかにやって来たけど、いや、すみません、もう就活終わってるんですけど、どうします? みたいな話で。
藤川 もちろん、3年生が今から動き始めて大学卒業までに就職できる可能性は十分ありますけど。ただ、いわゆる大企業の採用に応募しようと今から就職活動を始めるという意識ではもう無理でしょうね。応募はできますけどね。だって、それは宝くじ買うようなものだもん。
瀧本 もう今の世の中、大学生でも何か実績がある人じゃないと通んないですよ。だから、11月スタートでも、一斉スタートに見えて、ある種勝負がついてしまっているところもある。
藤川 何をやりたいかじゃなくて、何をやったかじゃないと。だって大学に入って2年半とか経っているんだから、皆、何かいろんなことしているわけですよ。
瀧本 そうですよ、何か結果が出てるはずです。でも、本人が気づいていないってことはありますね。「ディベート甲子園」で関わりのある人の話なんですけど、その人、全然エントリーシートが通らない人だったんですよ。で、そもそも「どんなエントリーシート書いたの?」って見てみたら「えーっ」て感じだったので、実績をちゃんと書かなきゃダメだよって言って。彼は実は、ある奨学金の学生の幹事みたいなのをやっていたし、プラス「ディベート甲子園」のこともあったから、両方書いたらエントリーシートが通るようになりましたって。「当たり前だ!」みたいな(笑)。
藤川 たしかに、いいことやっているのに、企業の人が読んでわかるように書けない人って多い。大人に説明したことがないっていうか。NPOでも何でもそうですが、頑張って活動をしていると大人との接点は大抵あるものなんですけどね。あらためて自分の業績を説明する機会というのがないってことが多いみたい。OB・OGがうまくアドバイスしてくれるといいんですけどね。
瀧本 いや、OB・OGっていったって、たまたま入ったやつかもしれないし。
藤川 いろんな人に聞いた方がいいってことでね。就職したいから教えてねっていうスタンスだと、騙されるかもしれないし。そんなに共感もされないから、成功しにくい。
瀧本 僕ね、今年のはじめに話題になった岩波書店のコネ入社って実はすごくいいと思うんですよ。つまりね、コネを作れるくらいの人じゃなきゃダメなんだってことでしょ。そうじゃなきゃ本の編集者として成功する可能性ないですよ。結果的には、コネを作るのとかが得意なやつは内定取りやすいと思う。
藤川 適当に就職したいんだったら、そうすればいいと思うんです。でも、どっかの会社に入って何かやりたいってことがあるんだろうと思いますから、それに繋がることをやったらいいんですよ。
瀧本 なんかね、最近よくわかったんですけど……世の中でこういうことが求められているんだなって自分から合わせにいっている人って、結構人生つまんなくって辛そうですよ。
藤川 人はこうだけど私はこう!みたいなほうが楽しいでしょ。今の時代、無茶しちゃったほうがたぶん就職しやすいんだと思う。大多数と同じだと差別化できないから、高倍率の中で上のほうに行くって難しい。たくさん受かる試験だったらいいけど。
瀧本 そう。今、東大に入るのなんて昔にくらべれば、ずっと簡単なんですよ。入試がずっと簡単になっている。昔は、かなり勉強しないと大学に入れなかったから、皆むちゃくちゃに勉強して。でも今はそこそこ勉強して、多少の運があれば受かってしまう。定員があまり変わらず人口が減っているんだから、簡単になるのは決まってるじゃないですか。これは受験産業の方から、聞きました。
藤川 日本の大学入試は、人に合わせていると受かるってことになっちゃってるので。就職とはまったく違う方向になっていて……。
瀧本 就職活動ゲームが大学受験ゲームと違うのは、自分でルールを全部選択できて、かつ差別化しなくちゃいけないということなんですよ。でも、皆間違ってて、同じゲームとしてとらえているわけで。
藤川 10年くらい前の就活なら、例えば、何もやってなくても可能性を見せればいいとかでよかったかもしれないけど。
瀧本 それって可能性がある人を採って、はずれがあってもいいって時代だったからじゃないですか。でも今は企業が採る人数も少ないから、可能性がすでに発現してる人しか興味はないんですよ。で、発現してる人が結構たくさんいるから、その中で競争があるんです。
藤川 若くてもやれることって、たくさんあるわけで。要は、何であれ何かやれってことなんですよね。
【続く】