「ニッポンの大転換2015」番組収録後インタビュー:ドミニク・チェン
2015年1月1日(木)23:00~01:30[1月2日(金)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「ニッポンの大転換2015」収録後、ドミニク・チェンさんにインタビューを行いました。
ドミニク チェン
1981年生まれ。フランス国籍。株式会社ディヴィデュアル共同創業者/取締役。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。NPO法人コモンスフィア理事として、新しい著作権の仕組みの普及に努めてきた他、「いきるためのメディア」の創造をモットーに、ビジュアルコミュニケーションアプリ「Picsee」などの様々なソフトウェアやサービスの開発に携わる。また、様々な媒体でメディア論を中心とした論考を執筆。主な著書に『インターネットを生命化する プロクロニズムの思想と実践』(青土社)、『フリーカルチャーをつくるためのガイドブック クリエイティブ・コモンズによる創造の循環』(フィルムアート社)。近刊の監訳書に『みんなのビッグデータ リアリティ・マイニングから見える世界』(NTT出版)。
――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
ドミニク 番組の中でも「ビジョン」が氾濫しているというという話がありました。今後の世界で有効となるビジョンは、ただ話したり書いたりするものではなく、システムとして具現化して、つまり「つくりながら」提案するものだと考えています。今回の番組では自分自身ただ話すことに終始してしまい、「つくる」ことの議論を展開できなかったことを猛省しています。その上で一番伝えたかったことは、今後の社会で必要となるのは有識者の意見を聞いたり、短いコメントを発信したりして溜飲を下げることではなく、個々人が相互にインスピレーションやヒントを受けてなにかを作り出すきっかけを作ることだというメッセージです。
――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。
ドミニク 一番最後に村上さんがビッグデータと政治・社会の関係について言及されていましたが、いま情報技術にますます影響を受けている私たちの社会において、人間と機械の関係を、人間側の視点を重視して議論し、必要な統制や規制、もしくは代替的な価値観を生み出すシステムのデザインと設計についてこそもっと掘り下げて話したかったと思います。
――情報テクノロジーは、「政治」を身近にする上で何ができるでしょうか。
ドミニク 情報テクノロジーはコミュニケーションのコストを限りなくゼロに近づけることで、一瞬で多くの情報を発信することができます。しかし、人間は情報をただ飲み込む存在ではありません。大量の情報がどのように解釈されているか、そのプロセスに注視しなければ、情報テクノロジーは従来のポピュリズムに拍車をかけるだけの危険な装置ともなります。古代ギリシャの哲学者たちはフィロ・ソフィア=philo-sophia、つまり深く考えることへの愛の重要性を説きましたが、同時にフィロ・ドクサ=philo-doxa、雄弁な人間の耳に心地よい意見を愛することの危険性も説きました。バランスが重要です。
これまでインターネットは反射神経的なコミュニケーションを可能にすることでたくさんの新しい連帯の機会を生み出してきましたが、同時に多くの不毛な対立も生んでいます。瞬間的な評価だけではなく、時間的な蓄積も踏まえてお互いのことを深く知るための道具として情報テクノロジーを活用することは可能なはずで、そのことを通して政治をより公正で、個々人にとって参加するに値する領域へと転化させることができるのではないでしょうか。
――最後に視聴者へのメッセージをお願いします。
ドミニク 情報テクノロジーの利点のひとつは、お互いの考えや作品に瞬時にアクセスできることです。その意味において、私たちはみなネットを介して協働していると考えることができます。言葉には他者に働きかける大きな力がありますが、その射程範囲には限りがあることも事実です。いま私たちが必要としているのは、まだ言葉になっていない価値が具現化する状況だと思います。ぜひ一緒に新しい制度、活動、システムを作って、新しい言葉が生まれる場所を作っていきましょう。