「情報って何だ? WEB2.0は今」番組収録後インタビュー:佐々木紀彦
2014年11月30日(日)0:00~01:00[11月29日(土)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「情報って何だ? WEB2.0は今」収録後、佐々木紀彦さんにインタビューを行いました。
佐々木 紀彦 (ササキ・ノリヒコ)
1979年生まれ。「News Picks」編集長。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2009年にスタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長を経て、2014年7月より現職。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』など。
――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
佐々木 梅田望夫氏の『ウェブ進化論』で語られたことが、10年経って、ついに日本でも実現しようとしていて、とても面白い時代になってきた、ということです。
――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。
佐々木 米重さんが何度か仰っていた、「衣食足りて礼節を知る」はその通りだと思っています。私がビジネスメディアに身を置いているということもあるんですけれども、経済原理、すなわちお金とかビジネスの論理で考えていくということはすごく重要だな、と思いました。
それから、古市さんのように若者の旗手のような方が、「紙を信用していて、ウェブには抵抗がある」と仰っていたのはまずい状況だな、と。それぐらいウェブというのは不安な場所、落ち着かない場所、という印象を持たれています。シニアの方がそう言うならわかりますが、古市さんのような若手論客でもそういう印象であるというのは、ウェブメディア全体の課題だなと思いましたね。もっと社会的な信頼を高めていかなくてはいけないと感じました。
――「良いジャーナリスト」とは何か、そしてどうすれば「良いジャーナリスト」が育ちますか。
佐々木 「良いジャーナリスト」とは、プロフェッショナルになるということなので、会社とか自分のためというより、「社会のため」とか公共のために尽くすという倫理観を持っていることがまずひとつです。
ふたつめは、圧倒的な能力です。良い企画を立てたり、良い記事や映像を作成できる能力、またみんなをチームワークでまとめ上げるマネジメント能力が必要とされます。ですから、プロとしての倫理観と能力、このふたつに尽きると思います。
どうすればそういった人が増えていくかですが、これはプロであることが評価されるような市場というか、成功例をひとつ作ることが必要になってくると思います。私が番組でまだそうした人材が育っていないと申し上げたのは、決して能力が劣っているということではなく、それが評価されるシステムができていないということなんです。大友啓史さんのように企業から独立して輝く方がいらっしゃる一方で、日本では、個として輝くことが評価される組織文化やシステムがまだ未成熟なので、そういう能力を伸ばすことが難しい。
ですから、企業をもっと移れるような「外部マーケット」、人材市場ができたらいいし、もっと人材が流動化していってほしいと思います。そのためにも、いい人材を引きつけることができ、そうした人材が生き生きと輝けるメディア企業が出てきてほしいです。それがすべての始まりではないでしょうか。
――理想的な「メディア」とはどのようなものでしょうか。
佐々木 これまでは一流のコンテンツ職人さえいれば何とかなりましたが、ネットの時代になって、メディアの価値の半分くらいはテクノロジーで決まるようになってきました。ですので、一流のエンジニアというか、テクノロジーによってサービスを生み出せる人と、一流のコンテンツを作れるジャーナリストの両方が必要です。さらにもうひとつ付け加えるならば、一流の経営者も必要です。ビジネスの視点が欠けると儲からないので、結局書きたいことも書けなくなってしまいますから。この3つがあってはじめてメディアの使命が果たせるし、新時代を切り拓くメディアになれるのではないでしょうか。
コンテンツ、テクノロジー、ビジネスと三拍子揃ったメディアが生まれれば、報道、歴史・教養、ドラマなど多様な分野でハイクオリティーなコンテンツを提供できるはずです。また、個人が立った、面白いコンテンツが増えてくると思います。
私自身は、最先端の経済メディアを作ることが目標です。行く行くは海外に進出し、世界一の経済メディアを作りたいんです。それには多様性がますます重要になってきます。本を作る人もいれば、映像を作る人もいれば、イベント担当の人もいる。国籍や言語もいろんな人がいて、世界に発信していく――そんなメディアを作れればと思っています。