「ネットの“みんな”は今どこに?~参加とポピュリズムのジレンマ~」番組収録後インタビュー:村上裕一
2014年10月26日(日)0時~[10月25日(土)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「ネットの“みんな”は今どこに?」収録後、村上裕一さんにインタビューを行いました。
村上 裕一 (ムラカミ・ユウイチ)
批評家、株式会社梵天代表。1984年生まれ。ライトノベル・マンガ・アニメ・ゲームといったサブカルチャーから、文学・現代思想・政治まで縦横無尽に論じる。著書に『ゴーストの条件 クラウドを巡礼する想像力』(講談社)、『ネトウヨ化する日本 暴走する共感とネット時代の「新中間大衆」』(KADOKAWA)。
——今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
村上 インターネットは社会をよく反映しているところがあるので、ネットが駄目ならネットをやめればいいという問題ではありません。だからネットで起きている問題を解決したり、乗り越えていったりする発想を持つことが重要だと思っています。その一つの方法として、「待ってみる」という態度は重要です。
たとえば出演者の春名風花さんは13歳ですけど、彼女よりネット歴が短い50代だっているのです。そうしたフラットな世界では、大人だから子どもだからという常識すら通じません。
まだまだネットは過渡期であり、これからルールや必要な所作などが整理されていく段階だと思います。「やり過ごす知」を持って、長い目でネットの行く末を観察していくという態度が大切になります。
——今回の番組で“興味を持った、あるいは印象に残った発言や話題”はありましたか。
村上 高木新平さんが運営しているシェアハウスの話は興味深く聞きました。ネットでしかアクセスできない層がSNSを発している場合、ネットとリアルの場の双方を用意している高木さんのやり方はとても有効的ですよね。もっと、地方にも広がるとより素晴らしいと思いました。
また、高木さんがお寺からアドバイスを求められたというエピソードがありましたが、お寺の歴史を踏まえてネットを使う新しい方法を模索するのは、とても刺激的な取り組みになると思います。お寺が蓄積してきた互助サービスのノウハウをネット上で再生産できれば、新しい形のセーフティーネットが築けるかもしれません。
——今のインターネットが抱える一番の問題はなんだと思いますか。
村上 やはり「スピードが速すぎる」ということだと思います。ネットで選挙活動することが可能になりましたが、今後ネットで投票できるようになると、どういうことになるか。今まで気象や地政学に縛られていた投票行為が、家でカップラーメンをすすりながらできるようになります。そのタメのないスピードが政治に及ぼす影響は大きい。意思決定の過程にバッファがなくなると、よりポピュリズムに左右される状況になると思います。
—インターネットの未来はどのようになると思いますか。
村上 ネットは世界中の人とコミュニケーションを取れるという点ではものすごく広い射程があるのですが、逆に隣の人には届かないこともあるアンバランスなメディアです。このアンバランスさによって、ネットの持つ力を正確にとらえるのが難しくなっていく部分があります。
「どうせそんなに力が出ないはずだ」と思っていたのに自分では責任が取れないことにうっかり手を下してしまうこともあるし、無意識に誰かを傷つけてしまうこともある。
しかし重要なのは、そういう危険性も含めて、インターネットという仕組みが必需的になるという流れが、加速することはあっても止まることはなさそうだということです。これを法律で規制する方向にいくのか、正しい方向をユーザー同士で決めていく方向にいくのか、テクノロジーがコントロールする方向にいくのか。注意して観察していく必要があると思っています。