「今そこにある 無業社会」番組収録後インタビュー:伊藤洋志
2014年9月28日(日)0:00~01:00[9月27日(土)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「今そこにある 無業社会」収録後、伊藤洋志さんにインタビューを行いました。
伊藤 洋志 (イトウ・ヒロシ)
1979年生まれ。仕事づくりレーベル「ナリワイ」代表。大学院卒業後、人材会社で就職サイトの立ち上げ、取材、編集をしたあと、 肌荒れで退職。2007年より、生活の中から生み出す頭と体が鍛えられる仕事をテーマにナリワイづくりを開始。現在、シェアオフィスの運営や、「モンゴル武者修行ツアー」「熊野暮らし方デザインスクール」の企画、「全国床張り協会」などサークル的ギルド団体の設立等の活動も行う。著書に『小商いのはじめかた』『ナリワイをつくる』、共著に『フルサトをつくる』(すべて東京書籍)。
——今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
伊藤 「生活の質を向上して、どう楽しく暮らせるようにするか」を考えることが大事だと思っています。そこに寄与する形の仕事とはどのようなものなのか、をしっかり考えてほしい。単に収入があるだけでは、ほとんどの人は満足できません。生活の充実度に貢献しているかどうか、という基準を持って、仕事をしていったほうが幸せになると僕は考えています。そこを大事にしないと、儲けていても体を壊して無業化してしまう可能性がありますよね。僕は空き家の床を張り替えてリノベーションする取り組みを行っています。余っている家を自力で直せる力を身につければ、無業になっても高額の家賃が払えなくなることを恐れないでよくなるかもしれない。それを職業にすることもできるし、衣食住の“住”の文化を通したセーフティーネットを持つことにも繋がる取り組みだと思っています。
——今回の番組で“興味を持った、あるいは印象に残った発言や話題”はありましたか。
伊藤 僕のアプローチは、小さな部分から大きな部分を変えていく方法ですが、皆さんのお話を聞き、大きな部分からスタートして小さい所を考えていくのも大事だなと。もちろん無業社会をいっぺんに解決する術はないので、いろいろな方向からいろいろな策を打つ必要がある。身の回りのことから変えていくことも大切ですし、国の制度設計から変えていくことも大切だろうと。それが上手い具合に連動した時に、社会は良くなっていくのだろうと思いました。要するに草の根活動と制度設計側のよい相互作用が必要です。
——無業社会を解決するために、どのようなことが必要だと思いますか?
伊藤 椅子取りゲームになってはいけないと思います。「私は無業ではないから安心だ」という発想では、根本的な不安をぬぐい去ることはできません。無業の人も、自分が無業でなくなったら解決、という発想を持ってはいけません。全体の問題として無業社会の環境ができあがっているので、その環境をどうよくしていくかを考える必要があります。たとえば、買い物する時に、「ここで買い物することが社会にとって優しいか」を考えてみる。そういう心掛けを持つ文化が根付くだけでも、社会の雰囲気が変わると思っています。
—視聴者にメッセージをお願いします。
伊藤 間違いない事実として、収入の有無では人間の価値は決まらない、ということです。そう考えるのは難しいとは思いますが、僕はことあるごとにそう表明していきたい。また、職業の話題になると稼ぎ方の話ばかりになってしまいますが、お金の「使い方」を学ぶというアプローチも大切になってくると思います。「こういう使い方をすると、自分の生活が持続的に向上する」という術を身につけないと、稼ぐ気力も沸かないですし、お金がすぐになくなってしまう。その、「無駄に使ってしまった」という経験が、生活の不安を煽っている側面があると思うのです。「この出費は自分の長い人生においてプラスになる」という使い方ができれば、お金がなくなったとしてもそこまで不安にはなりませんよね。また、お皿がほしいときは陶芸が得意な友達から買うようにすれば、友人間のセーフティーネットを強めることになるかもしれません。お金の稼ぎ方だけではなく、使い方、使わないで楽しく過ごす方法をトレーニングすることで、生活の質が向上することに繋がり、精神的な余裕が生まれます。