「僕らのキャリアデザイン論」番組収録後インタビュー:松本紹圭
2014年6月29日(日)0:00~01:00[6月28日(土)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「僕らのキャリアデザイン論」収録後、松本紹圭さんにインタビューを行いました。
松本 紹圭 (マツモト・ショウケイ)
1979年生まれ。浄土真宗本願寺派光明寺僧侶、一般社団法人お寺の未来代表理事。東京大学文学部哲学科卒業後、一般家庭から僧籍に入る。仏教に興味を持つ人たちが宗派を超えて自由に集えるWebサイト『彼岸寺(higan.net)』を設立。2011年、インド商科大学院にてMBA取得。2012年、一般社団法人お寺の未来を設立し、若手住職向けにお寺の経営を指南する「未来の住職塾」を開講。2013年、世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤング・グローバル・リーダーに選出される。仏教を親しみやすくし、その可能性を広げる活動を行う。
――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
松本 人生そのものが思い通りにならないものなのだから、キャリアデザインが思い通りにならなくても問題ないということを伝えたいと思っていました。キャリアデザインという言葉には、今、自分が立っている地点から見える範囲で構築し、自分で自分が歩む先のレールを引いていくというイメージがあります。確かに見通しを立てるということは大切ですが、未来は見えるはずがなくて、実際に行ってみなければ視界の霧はいつまで経っても晴れません。ある程度は見通しを立てつつも、ある程度はいい加減に歩んでいくしかありません。だからこそ、今見える範囲のいろんな縁を大事にすることが必要だと思います。
――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。
松本 印象的だったのは、「デザインなんかできないんだから、目の前のことを一生懸命やるしかない」という意見が意外と多かったことです。ただ、なかなか就職活動中の学生さんはそうは考えられませんよね。今日スタジオに集まった出演者の方々もいろんなチャレンジをした結果、点と点がつながって線になり、そのように思い至ったのだと思います。
あとは司会の古市憲寿さんが、ネガティブな感じがよかったですね(笑)。就職活動ってとにかくポジティブになって内定をいっぱい取るんだという風潮があるじゃないですか。もちろんデフォルトで快活な人もいるでしょうが、一方で内向的な人も世の中にはたくさんいます。今の就活シーンではそういう人に対するプレッシャーが強くかかり過ぎている。就職がすべてじゃない、就職しないという選択肢だってあるということを、もっと学生さんに知ってもらいたいです。
――縁を大事にすることが大切だとおっしゃっていましたが、縁とはどういうものでしょうか。
松本 仏教で大切にしている考え方に、「因果」というものがあります。すべての結果には必ず原因があるとするもので、ある意味では科学的、理性的な考え方だと言えるでしょう。そしてさらに、その原因には直接的な原因と間接的な原因の二種類を見て、前者を「因」、後者を「縁」と呼んでいます。
たとえば種を蒔いて芽が出たとすると、日光だったり水だったりが直接的原因と考えられますよね。しかし、同じように日光や水があったのに出なかった芽も当然ある。つまり直接的原因だけではない要因もあるわけです。人間の限られた認識力では把握できていないけれど確かに働いている要因があるからこそ、発芽にも違いが生まれます。
もしかしたら仏様の視点から見れば、直接も間接もなくてすべてが明らかな因果でつながって見えるのかもしれない。でも、それは私たち人間には分かりません。私たちは、人間の限られた認識では分からないような数え切れないほどの間接的な原因、すなわち縁というものに囲まれながら日常生活を生きています。
ですから人生は分からないことに満ちあふれているという認識から出発することが、とても大切です。一方、キャリアはデザインできるという認識のもと人生を歩んでしまうと、将来の役に立ちそうに見えない縁を切り捨ててしまう可能性がある。限られた自分の認識から導き出された狭いキャリアプランを基準に、目先の損得で判断を下すようになってしまう。それを超えたような、今まで想像もしなかったようなキャリアを開くためには、縁を大切にする必要があると思います。
――キャリアに迷っている視聴者へのアドバイスをお願いします。
松本 「出家しろ」と言いたいです。仏門に入れということではなく、世間の価値観と違うところに立ちながら、世間の価値観によい影響を与え続けることを、私は広い意味での「出家」だと思っています。人には人それぞれの世間がありますが、自分の持っている世間から時々は飛び出す体験をする必要がある。自分の住んでいる同質的な世間を出ることにより、今まで思っていたことだけが世間ではないことに気付けると思います。