「新世代の会社活用作戦」番組収録後インタビュー:岩佐琢磨
2014年6月01日(日)0:00~01:00[5月31日(土)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「新世代の会社活用作戦」収録後、岩佐琢磨さんにインタビューを行いました。
岩佐 琢磨 (イワサ・タクマ)
1978年生まれ。株式会社Cerevo(セレボ)代表取締役。2003年から松下電器産業(現パナソニック)株式会社にてネット接続型家電の商品企画に従事。2007年12月より、ネットと家電で生活をもっと便利に・豊かにする、という信念のもと、ネット接続型ハードウェアの開発・販売を行う株式会社Cerevoを立ち上げ、代表取締役に就任。既存のビデオカメラをライブ配信機能付きに変えてしまう配信機器「LiveShell」シリーズなどを開発し世界23カ国以上で販売を行なっている。
――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
岩佐 移民の受け入れも議論されていますが、これからは雇用がますます流動化していくでしょう。そんななか、ある特定の会社内でしか使えないノウハウやスキルの強みが、どんどん薄れていくだろうと思います。つまり、社内派閥に対してどう上手にポジショニングをしていくかだとか、XX部門の皆さんにどう気に入られるかみたいな処世術はあまり重要ではなくて、会社を辞めても有効性が残り続けるような財産をどれだけ蓄積するかが問われるようになっていくはずです。たとえば社外の同業者や、同業者ではないけど関連しそうな人たち、またはまったく関係ないNHKのアナウンサーとでもいいと思いますが、会社の外の人たちと飲みに行って交流を持つだけでも世界が広がるし、そこで得たネットワークや知見を会社の仕事に生かすこともできる。勿論ただの飲み友達ではだめで、一緒に仕事をして信頼を蓄積することでやっと“財産”と言えるようなレベルになるのですが。ようは普段からどこでも通用するような技術やネットワークを築いていくおくことこそが、仕事をするうえでとても大切なことだということを伝えたいと考えていました。
――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。
岩佐 印象に残ったのはシェルバさんが、「皆がやりたがらない作業に対して、その意味や意義、なぜそれをやらなければいけないか、それによってどんな結果があって、どういう人が幸せになるのかということを説明する必要がある」という主旨の発言をされていたことです。例えば、番組のなかで古市さんが自分の本に何百冊もサインしたというエピソードを紹介していましたが、その作業自体は名前を数百回書くという単純で退屈なものかもしれないけど、サイン付きの本を買ってファンになってくれる方がいるなら、たくさんのファンに支えられているという“財産”を作るためにとても意味のあることですよね。組織として仕事に取り組む際にもまったく同じことが言えます。スタッフに日々行われている作業についてきちんと説明をし、意味付けしていくことの重要性を改めて感じました。
――これからどういう仕事、どういう働き方をしていきたいと考えていますか。
岩佐 天職を見つけてしまったという感じなので、あんまりこの先は変わらないと思います。といっても家電を作ること自体が天職なのではありません。僕らの会社が取り組んでいるのは世界レベルで普遍的に存在するニッチなマーケットに対してユニークな商品を投入すること。ユニークな商品は1か国では100台しか売れないかもしれません。でも、100か国まで商圏を広げれば1万台売れるかもしれない。だったら、十分ビジネスとしては成り立ちます。そして、僕はその1万人の人には、「この商品があって本当によかった」と感動してもらえると信じて仕事をしています。そうした事業が僕にとっての「天職」なんです。
僕は会社を「一人でできないことをやるための器」だと思っています。だから、いま代表取締役についているものの、社員のなかで一番偉いとか、そういったことは思っていません。実際、僕は大学時代にSEを少しやっていたのですが、周りと比べてプログラマとしての才能が無いなと感じていた。一方、マネジメントとマーケティングに関しては得意な意識をもっていたので、新卒の時にもパナソニックに無理を言って商品企画の部署に配属してもらいました。いまの会社でも、いろいろなスタッフと力を合わせて、「一人ではできない仕事」を実現しています。
――20代、30代の悩める視聴者にむけてアドバイスをお願いします。
岩佐 現状に不満があったとしても、よく「3年は我慢するべき」と言う人がいますが、僕は違うと思う。もちろん、ある程度は我慢することも必要ですけど、最終的にはどこかに線を引いて環境を変えるしかない。ある一定の線を越えたら部署転換願いを出すなり、転職するなり、起業するなりすればいいのではないでしょうか。線を引く基準は人によって違うので、人の常識に振り回される必要はありません。でも、その線はポジティブな側に引くべきだと思います。プロジェクトが評価されなかったから辞めるとか、上司と反りが合わないから辞めるとかではなく、一緒に起業したいと思う仲間が3人集まったら辞めるとか、プロジェクトがこのレベルまで評価されたら思い切って会社を飛び出してみようなどと、ポジティブな条件設定をしなければいけない。一方、経営者としてはそういうポジティブな思考にフィットする職場や環境を整えていかなければ、と思います。アメリカのベンチャ―企業には、あらかじめストックオプションを与えておいて、勤続年数ごとに行使できる割合が増えていくという雇用システムを採用している会社があります。例えば6年働けば満額使えますよ、とか。これなら、2、3年で辞める人は少なくなるし、6年後には辞める人が増えるので人材の流動性も確保できる。日本でもこういったシステムを採る会社が増えてくるかもしれませんね。