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2015.04.24
2014.04.22

「“救国”の大学論2014」番組収録後インタビュー:中室牧子

2014年4月27日(日)0:00~01:00[26日(土)深夜]放送予定のニッポンのジレンマ「救国の大学論2014」収録後、中室牧子さんにインタビューを行いました。

中室 牧子 (ナカムロ・マキコ)

慶應義塾大学環境情報学部卒業。卒業後、日本銀行で、調査統計局や金融市場局において、実体経済や国際金融の調査・分析に携わっていたが、一念発起して留学。コロンビア大学の公共政策大学院で修士課程を修了。その後勤務した世界銀行では欧州・中央アジア局において教育セクターの分析を担当したことが契機となり、教育経済学に関心を持ち始める。再びコロンビア大の博士課程に戻り、教育経済学を学び、2010年に日本に帰国して以降、「エビデンスベーストの教育政策」の重要性を訴えつつ、大学にて教育・研究活動を行っている。

――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。

中室  私が言いたかったことは、「エビデンスベーストの大学教育改革」の重要性です。入試や人材育成、予算などの政策課題が、「べき論」を中心に議論されていることに危機感を持っています。もちろん、社会の要請も重要ですが、データに基づく検証を行い、ゴールを達成するために最も効果的な手段が何かということを明らかにし、改革の道筋を立てるということも同時に行って損はないでしょう、という考えです。
 例えば、入試制度については、海外では枚挙にいとまがないほど、様々な検証が行われ、科学的根拠が列挙され、政策に活かされています。これがエビデンスベーストの教育政策です。
 大学で収集されたデータは、我々教員やスタッフの経験や観察からはわからなかったような事実を教えてくれ、そのことは大学の将来設計にとって有用な情報となりえます。「大学教育改革に科学的根拠を」。これが、私が一番言いたかったことです。

――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。

中室  古市さんからは何度か、私と與那覇さんの考え方の違いを指摘されたのですが、私としては與那覇さんのお考えが大変印象に残りましたし、同時に共感も覚えました。
 私は経済学者の端くれですから、やはり大学は、競争的な環境の中で、社会のニーズに応えた人材を輩出していく必要があると思っています。しかし、その一方で、大学で学んだことの価値というのは、必ずしも賃金や生産性など労働市場の中で測られるものだけに表れてくるものでないことも理解しているつもりです。

 今は亡き江藤淳先生が慶應義塾の退官講演で「人が人を教育するのである」とおっしゃったことは、今私が大学で教育にあたるうえでの信念であり、礎でもあります。時間を経て、なお残る亡き師の言葉がある。その意味で、大学は市場や時代に流されず、頑固に提供し続けなければならないものもあるのだろうと思います。あくまで人が人を教育するというのが基本であるということを、與那覇さんもまたおっしゃっているのではないかと感じました。

――日本の大学が生き残るためにできることは?

中室  日本の大学自体がもっと競争に強い体質になるような改革が必要だと思います。例えば、給与。日本の大学教員の給与は、業績や教育への貢献とは無関係に、勤続年数や年齢で決まっていることが多いことが指摘されています。最近、京都大学が総長を海外の人材も含めて広く公募することを発表しましたが、優秀な人材の獲得のためには、固定化された給与システムは大きな足かせとなることが予想されます。日本の大学における予算執行の柔軟性は低いことは大きな問題点です。

 また、日本は、大学における教員スタッフの配置に対しては政府が強く関与する傾向がありますが、こうしたことが「バッファー人材」と呼ばれる研究資金の獲得などを行う専門官の育成を妨げてきた現状があります。 以上のことから、私は、グローバル時代に日本の大学が出来ることは、予算執行や人材配置について大学の裁量を高め、競争に強い体質にしていくことが必要ではないかと思います。

――今の大学生にアドバイスはありますか?

中室 いわゆる「自分探し」をしている人は多いかもしれません。よく「何がやりたいのかわからない」という相談を受けます。しかし本当にそうでしょうか。私が大学で学生と接し、それぞれの話にじっくりと耳を傾けると、本当にそれぞれ違っていると思います。
 好きな食べ物、好きな本、好きなタイプの芸能人。なぜそれが好きなのですか。なぜそのことに興味を持つのですか。自分の心に真摯に問いかけてみてください。そして、自分がちょっとでも好きなこと、興味を持ったことをまずは力いっぱい学んでください。
 そして、学ぶことがじわじわと楽しくなるのは、学ぶことが辛くなったその後だと私は思っています。学ぶことが楽しくなるまで手を抜かずにやってみてください。その繰り返しが必ず皆さんがやるべきことを、皆さんにしかできないことを教えてくれると思います。