「今読者はどこに? 2014編集者の挑戦」番組収録後インタビュー:佐渡島庸平
2014年2月23日(日)0:00~1:00〔土曜深夜〕放送予定のニッポンのジレンマ「今読者はどこに? 2014編集者の挑戦」収録後、佐渡島庸平さんにインタビューを行いました。
佐渡島 庸平 (サドシマ・ヨウヘイ)
1979年生まれ。(株)コルク代表。講談社のモーニング編集部で井上雄彦「バガボンド」安野モヨコ「さくらん」三田紀房「ドラゴン桜」小山宙哉『宇宙兄弟』などを担当。2012年10月に作家エージェント会社「コルク」を創業。
――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。
佐渡島 僕は、今の出版社の状態を、批判しようとは思っていません。「こういうところに問題がある」と言うと、批判だととられてしまいがちなんですけれど、そうではなくて、僕も答えがわからなくて、答えを探すためにがむしゃらになれる場所が欲しいと思って、ベンチャーをやり始めたという感じなんです。そこがよく誤解されるので、誤解を受けないように喋りたいですし、制作者には誤解を生まないよう編集作業をしてほしいと思っています。
――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。
佐渡島 丹所さんが、「東京ではなく、京都にいたから気付いたことがある」と言っていたのは、その通りだなと思いますね。やはりベンチャー企業だと、自動的にお金が入ってくる仕組みがないので、止まったら倒れちゃうということもあり、だから僕は日々、慌ただしくしています。速い流れも知りながら、時間的余裕を持って観察するほうが世の中が見えると思っていて、京都とかに行って仕事したいなあという願望はあります。やっぱり現実にはできないですけれど(笑)。
――外的要因に囚われずにコンテンツ作成をすることが大事だと仰っていましたが、ではコンテンツをつくる上で大切なことは何でしょうか。
佐渡島 逆説的なんですが、制限を与えることだと思っています。例えば、俳句は「五・七・五」だからこそいいものができるということがありますよね。そういうふうに、コンテンツは何か制限があったほうが、面白いものが思い浮かぶことがある。つまり、作者がわくわくするような制限を加えてあげることが大切です。 スポーツも何でもありだとつまらないんだけれど、野球では3球ストライクだとアウトが1つになったり、サッカーでは手を使ってはいけない、というのは面白い制限ですよね。そういうふうなものを、それぞれの作家に対して、それぞれの時期に思いつきたいですよね。その制約を与えることによって、作家が今まで考えたこともないような面白いものができると思っています。 「宇宙兄弟」は、宇宙と兄弟をお題に連載の1話目を考えてみませんか、という課題を小山さんにお願いして、生まれたんですけど、同じようにしていきたいです。毎回、僕もそんなにうまく思いつきませんが。
――コンテンツの作成とコンテンツを広める努力とでは、どのような配分で労力を割いておられるのでしょうか。
佐渡島 それは、タイミングによって変わってきますね。例えば連載の1話目をつくるときには、作家と一緒に全力でつくりますよね。10話目、20話目になると、作家がイメージを掴んで、だんだん一人でもできるようになるので作家に任せて、僕はプロモーションに時間を割くというような感じです。 作品ができてからでないと、最適なプロモーションはわからないんです。できあがった作品の性質によって、どの層に広げるかを考えます。「宇宙兄弟」だと、女性が手に取りにくいタイトルだけど、女性も十分楽しめるから、どうやって存在を知らせようか、ということを考えて、女性向けのプロモーションを積極的に実行していきました。 一番最初に作品をつくるときは、それこそ作家と編集者と10ずつの力を出し合って、20の力を注ぎこみます。そのあとは作家が10の力で作品をつくるので、僕は10の力をプロモーションに注ぐというのが理想的で綺麗なかたちかな、と思います。
――やりたいことと、組織の壁のはざまで悩んでいるビジネスパーソンにはどうアドバイスしますか。
佐渡島 組織の内部にいる人たちは、「組織を変えるのは困難だ」と感じていると思いますが、僕の実感では組織より世の中のほうが動かないですよね。世の中のほうが動きやすいということは全くないです。だから組織にいる人は、まず組織を動かすことを考えたほうがいいんじゃないですかね。 ただ、僕は組織の限界を感じて会社を立ち上げたんです。僕は年齢的にも若くて、内部で組織を変えられる地位にはなかったということです。それと、こんなに時代が変わろうとしているのに、上司が考えた戦略を実行するよりも、自分で戦略を立てて、実行したくなったのです。 僕は今、昔いた組織を動かすより、もっと難しいことに日々、直面しています。大企業がやったら成功するのに、認知度と信頼がまだないベンチャーだからという理由でうまくいかないこともあります。でも、困難にぶち当たったときの納得感があります。組織内のトラブルと違って、人間関係で詰まる訳ではなく、僕が頑張ればいいだけですからね。
――今、編集者として何をやりたいですか。
佐渡島 全世界的なヒットになる作品をつくりたい。日本だけじゃなくて、アメリカでも、ヨーロッパでも、できればアフリカでもヒットするような作品です。そのためには、本質的な作品をつくることが大切だと思います。それは子供が楽しめる見た目や動きがあり、大人が楽しめる、本質的な感情について語っていることがあり、社会について語っていることがある、といった作品になるでしょう。 例えば、「ハリーポッター」とか、「ドラゴンボール」なんかがそうですよね。「ドラゴンボール」ってみんな深い読み方をしないけれど、「元気玉」で「オラに元気をわけてくれ!」と言ったらみんなが力を貸してうまくいく、というのはクラウドファウンディングの仕組みみたいなもので、これは社会の縮図だと言えると思うんですよ。ドラゴンボールは、読む人によって、様々なメッセージを受け取れる奥深さがあります。 そういう作家と出会い、一緒に作品をつくり、世界に広めたいですね。