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2015.04.24
2013.10.23

「いま芸術は…?クリエイター原論2013」番組収録後インタビュー:高木正勝

2013年10月27日(日)0:30~1:30〔土曜深夜〕放送予定のニッポンのジレンマ「いま芸術は…?クリエイター原論2013」収録後、高木正勝さんにインタビューを行いました。

高木 正勝 (タカギ・マサカツ)

1979年、京都府生まれ。映像作家、音楽家。自ら撮影した映像の加工やアニメーションによる映像制作と、長く親しんでいるピアノを中心に用いた音楽制作の両方を手掛けるアーティスト。国内外のレーベルからのCDやDVDリリース、美術館での展覧会や世界各地でのコンサートなど、分野に限定されない多様な活動を展開している。2009年のNewsweek日本版で、「世界が尊敬する日本人100人」の1人に選ばれるなど、世界的な注目を集めるアーティスト。2012年公開の映画「おおかみこどもの雨と雪」(監督:細田守)の劇伴を手掛ける。

 

――今回の番組で“もっとも伝えたかったこと”は何でしょうか。

高木  今回はジャンルも表現方法もまったく異なる三人が集まるということで、とても楽しみにしていた反面、どんな番組になるんだろうという不安もありました。そもそも「芸術とは何か」という問題がつきまといますし、作家が自分の作品について語るだけでは面白くないからです。個々の作品を離れて広がりのある話になればいいなと思って参加しました。

――今回の番組で“興味を持った発言”や“印象に残った発言や話題”はありましたか。

高木  平野啓一郎さんが「これからは“じゃあどうすればいいのか”という声に向き合わなくちゃいけない」とおっしゃっていました。僕も同じことを感じていたので言葉にしてもらえて嬉しかったです。 人が何かをつくると、その人の暮らしに根ざす何かが滲み出ます。毎日の暮らしの中で何をつかみ取ったのか、何に憧れを抱いているのか、どういう風に生きたいのかが、相手に伝わる。

 「芸術って難しいね」と思われてしまうのは、作品から伝わってくる作家の暮らしぶりが見えてこなかったり、見えてきてもその暮らしが自分の暮らしに結びつかないということかもしれませんね。作品から得たものをどう活かしていいのか分からなかったり、活かせたところで先にみえる暮らしが味気ないものだと感じたら、面白くないです。

 芸術の為の芸術と言ったらいいんでしょうか、そういう作品が多く発表されている気もします。多くの人が「興味がない」となってしまったのかなとも思うんです。芸術作品には「固定観念を壊す」という側面もありますが、見る人に強いショックを与えればいいというだけではどうしようもないと思います。作品の先にある「世界の捉え方」、平たく言うと、「どうやって暮していけばいいのか」を受け取れるようなものが好きです。

――インターネットのおかげで、発表した作品への評価が見えやすくなっています。そうした受け手の反応が、芸術における表現方法や作品に与える影響はあるのでしょうか。

高木 ネットでの評価はわかりませんが、コンサートなどで直接、人と接するので、そういうときに学ぶものは大きいです。僕が作品をつくるのは、やっぱりなにか伝えたいことがあるから。そこに「高木の作品はわからない」という反応があると、「これじゃあかんねんな」と気がつくことができるし、次の作品づくりに活かそうと思う。いいほうのサイクルに働いています。

 伝えたくて発表してるんだから、伝わると嬉しいんですね。ある茅葺き職人の方が、僕の作品に触れて「なんかピアノ弾きたくなった」と言ったことがありました。弾いたことがなかったのに(笑)。それで彼が弾いてみたら、無茶苦茶だけど、素晴らしい。僕がピアノを弾いてきた中で「ここがいい」と伝えたかった部分を、そのまま彼の身体で表してくれた。そして、ピアノを弾いて感じたことを茅葺きの本職でも活かしてくれる。僕もその仕事ぶりを見て、また学ぶ。暮らしが豊かになっていく。そういう風にめぐりめぐって、誰かの何かのヒントになっていくような循環が、作品をつくっていて嬉しい瞬間の一つです。

――ジレンマ世代とそれ以前の世代で、芸術活動におけるもっとも顕著な差はどこに表れていると思いますか。

高木  孫の世代、子の世代、親の世代、祖父母の世代くらいの大まかさで考えると分かりやすいのかも。僕が「いいもの作るな」と普段から感心するのは、だいたいおじいちゃんやおばあちゃんです(笑)。

 祖父母と孫が愛おしい関係になるように、ひとつ間を挟んでいる方が相性がいい。親の世代には「こうしたらいいのに」とか「なんでそっちを向いてるんやろう」と反発してしまうものなのかもしれません。ひとつ上の世代が抱いている「憧れ」や「欲望」の反対を考えていくと、ふたつ前の世代の方々がやられてきたことに繋がっていくんです。自分からみて孫の世代に残すべきものは何かと考えてみるのも面白いのかもしれません。

 芸術に限ったことではありませんが、そういうサイクルがあるから技術や知恵が途絶えることなく伝わってきた。豊かさのリレーです。僕はそのことが嬉しいです。