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2015.04.24
2012.12.12

竹島領有権問題は、インテリジェンス戦である ――日韓ダブル選挙でどうなる? 日韓関係【第3回】:浅羽祐樹

衆議院選挙の3日後、12月19日に韓国大統領選挙が行われる。新しい政治リーダーの下、日韓関係はどうなるのか。そもそも、対日政策は大統領選挙の争点になっているのか。報道からだけでは見えてこない本当の「韓国の政治事情」を、韓国政治研究者の浅羽祐樹氏が4回にわたって解説する。プレーヤーの行動原理を政治システムから読み解く浅羽氏の論考は、混迷を極める日本政治の参照項としても有効なはずだ。

浅羽 祐樹 (アサバ・ユウキ)

1976年生まれ。新潟県立大学政策研究センター准教授。専門は比較政治学、韓国政治、国際関係論、日韓関係。著書に『したたかな韓国~朴槿恵時代の戦略を探る』(NHK出版新書)、木村幹・佐藤大介両氏との共著に『徹底検証 韓国論の通説・俗説』(中公新書ラクレ)。

 「発射はしばらく遠のいた」と報じられたわずか数時間後、北朝鮮が事実上の「ミサイル」を発射した。「ミサイル」発射そのものについて対策を講じるとともに、「なぜ、情勢分析に失敗したのか」「情報収集の態勢はどうだったのか」についても検証すべきだ。
 「情勢分析」や、その前提となる「情報収集」は、竹島領有権問題でも切実である。今回は韓国の「独島」対策に対照させて、日本の「インテリジェンス」を考えたい。

■韓国にとっての「独島」は日本にとっての「尖閣」か

 李明博大統領が「島根県の竹島」に上陸して4カ月が経った。この間、日本は、「国際社会の法と正義に照らして、国際司法裁判所の法廷で議論を戦わせ、決着をつけるのが王道であるはず」(野田総理「竹島問題について」)だとして、韓国に共同提訴を呼びかけたが、無碍(むげ)もなく拒否された。その後、日本は単独でも提訴すると世界に公言し、その準備をすでに終えたと伝えられている。

独島は、歴史的・地理的・国際法的に明らかに韓国固有の領土です。独島をめぐる領有権紛争は存在せず、独島は外交交渉および司法的解決の対象にはなり得ません。大韓民国政府は、独島に対し確固たる領土主権を行使しています。

 これは、「独島に対する大韓民国政府の基本的立場」である。韓国は、北方領土に対するロシアの立場とは異なって、日韓間に領有権紛争が存在するということ自体を認めていない。日本が、「現に」「有効に支配している」尖閣諸島について、「解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない」(外務省「日中関係(尖閣諸島をめぐる情勢)」)としているのと全く同じスタンスである。

■着々と準備を進める韓国

 表向きは「司法的解決」を否定しつつ、韓国は、万が一にも、「独島をめぐる領有権紛争」がオランダのハーグに位置する国際司法裁判所で争われることになった場合に備えて、着実に準備を積み重ねている。万が一に備えるのが外交の要である。

 『独島・イン・ザ・ハーグ』という国際司法裁判所での法廷論争を描いた小説がある。主要な法的論点が網羅されているだけでなく、国際司法裁判所の強制管轄権(当事者の同意と関係なく、裁判を行う権限)を受諾していない韓国に対して、提訴に応じさせるべく日本が繰り広げるインテリジェンスの攻防も書き込まれている。著者は1977年生まれの現職の判事、鄭載玟(ジョン・ジェミン)である。

 韓国・外交通商部(外務省にあたる)は鄭載玟をスカウトし、2011年8月から独島法律諮問官として勤務させている。着任する直前、中央日報とのインタビューでこう発言している。

韓国は訴訟の経験もなく、領土紛争の専門家もほとんどいない。国際公法専攻者は極めて少ない。国際公法を専攻したところでローファーム(引用註:法律事務所)にも就職できず、お金にもならないからだ。このため政府レベルで専門家を養成する必要がある。世界的に認められている教授の下で博士学位を受けてネットワークを構築し、海外の専門ローファームで実務経験を積まなければならない。こうした専門家が5、6人いれば話は変わる。今すぐ日本と訴訟をすることになれば、部長判事を経験した人と、ロースクールを卒業して間もない人が裁判でぶつかるような形だ。全く同じ根拠を持って裁判に臨んでも、どんな弁護士を使ってどう訴訟を導いていくかで勝敗が決まる。

■竹島、尖閣に「悪魔の代弁人」はいるか?

 このように韓国側は、世界的な権威である国際法学者や国際法廷の経験が豊富な弁護団とのネットワーキングや、自前の専門家のトレーニングに励むと率直かつ戦略的である。事実、鄭載玟は同年10月には「外交通商部独島法律諮問官として国際法の国際学会に参加した」とか、翌11月には「シンガポールを訪問した」とツイートしている。中央日報のインタビューも、このツイートも、誰でもアクセスできる公開情報である。丹念にフォローし、ピースを一つひとつつなげると、「一枚絵」を浮き彫りにすることができる。

 ハーグであれ国内法廷であれ、裁判はディベートだ。第三者のジャッジの前で、相手と直接反駁し合うことになり、その出来がジャッジメント(判断/判決)を左右する。「部長判事を経験した人」が弁護につくと、実際に法廷に立つ前に、反対尋問を全部済ませておく。あえて自らに厳しい姿勢で臨むことで、あらかじめ弱みを洗い出し、立論を鍛え上げる「悪魔の代弁人(devil’s advocate)」に徹するのだ。まだ若い判事だが、鄭載玟はまさに韓国にとって悪魔の代弁人である。

 本来、「独島・イン・ザ・ハーグ」より「竹島・イン・ザ・ハーグ」の方が切実なはずである。もっと言うと、日本としては、「現に」「有効に支配している」「尖閣・イン・ザ・ハーグ」に対する悪魔の代弁人を密かに、だが、しっかりと立てておきたい。

 小説『独島・イン・ザ・ハーグ』の改訂版にはintelligenceという副題が付いた。日韓ダブル選挙の結果がどうであれ、そもそも、竹島領有権問題とは、弱腰か強気かという「気迫」が重要なのではなく、日韓両国が「相手にも当代最高の悪魔の代弁人がついている」とみなして臨むインテリジェンスの戦いなのだ。

【第4回】に続く…

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