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2015.04.24
2015.03.23

「競争から共創へ@大阪」番組収録後インタビュー:阿部真大

2015年3月29日(日)0:00~[28日(土)深夜]放送予定の「競争から共創へ@大阪」収録後、阿部真大さんにインタビューを行いました。

阿部 真大 (アベ・マサヒロ)

1976年生まれ。社会学者。甲南大学准教授。専門は労働社会学、家族社会学、社会調査論。リベラリズムをベースに、それが不可避的にもたらす結果の不平等を人々がいかに「やり過ごしている」のか。そこで生まれる文化について調査、研究している。主な著書に『搾取される若者たち ―バイク便ライダーは見た!』(集英社)、『居場所の社会学 ―生きづらさを超えて』(日本経済新聞出版社)、『地方にこもる若者たち―都会と田舎の間に出現した新しい社会』、(朝日新聞出版)。『「破格」の人 ―半歩出る働き方』( 角川SSC新書) などがある。

――今回の番組で“最も伝えたかったこと”は何でしょうか。

阿部 地方を語るときは、どうしても東京とその他という枠組みでとらわれがちです。しかし、「地方」と言っても一括りにはできないということを伝えたいと思っていました。地方のなかでも格差があり、中心となる大都市と、それ以外ではまったく抱えている課題が違います。地方と一口で言っても、さまざまなグラデーションがあるのです。
 たとえば私が住んでいる兵庫県で言うと、神戸市などの都市部は産業も人口も集中し、人口減少もあまり進んでいません。ですから神戸に住んでいても地方が疲弊しているという感覚は、あまりありません。一方、中山間地域では人口が減り、過疎化が進んでいます。地方の問題を語るときに東京との対比だけではなく、こうした中枢都市と周辺の疲弊した小都市との格差を考える必要があると思っています。

――今回の番組で“興味を持った、あるいは、印象に残った発言や話題”はありましたか。

阿部 徐子雁さんが、「大阪は幸せの敷居が低い」とおっしゃっていたのが、印象に残りました。確かに、地方都市にはそういう側面があります。家族や地元の友人たちのネットワークに囲まれながら、それほど高い要求水準を達成しなくても幸せに暮らせるからです。実家暮らしで物価も安く、モータリゼーションが進んでいて何でも揃っているショッピングモールなどにすぐアクセスができるため、生活満足度が高い。そういったところが地方の一つの魅力であり、東京ではなく地方で暮らしたり、地方でなんらかの活動をしたりするうえでの優位性だと思います。一方で東京ほど職がなく、給料水準も低いなどのジレンマを抱えているのですが。

――地方活性化のためには、何が必要だと思いますか。

阿部 まずは、東京と地方の中枢都市と周辺の小都市という三層があるということを意識する必要があります。活性化が必要なのは、主に周辺の小都市です。ここを活性化するには、中央政府主導の開発主義的な発想では駄目だと思います。道路や箱物を作っても、もはや劇的に生活満足度が上がることはないでしょうし、だいいち、そんな財政的な余裕もありません。だからと言って地域の人だけに任せれば良いというわけではなく、「若者、バカ者、よそ者」がイノベーションを起こすと言われるように、その地域を相対的に見ることができる「外の目」が必要になります。そういう人たちの力を借りながら、地域の人たちがビジョンを持って自分たちの地域を変えていくという意識を持つことが大切です。
 「若者、バカ者、よそ者」は東京の人とは限りません。地方の中枢都市から呼んでもいい。むしろ、地方の中心都市がリーダーシップを取っていくべきではないでしょうか。地方を活性化させるブレーンの集積地として、中心都市が機能すればいいと思っています。その意味では、大阪は東京を意識するだけではなく、関西圏のリーダーだという自覚をもっともつべきだと思います。

――最後に視聴者へのメッセージをお願いします。

阿部 地方の活性化は、ローカルで「内向き」な問題だととらわれがちです。しかし、地域の資源を生かして産業を作ったり、高齢化が進んでいるなかで新しい福祉システムのあり方を考えたりすることは、グローバルな問題でもあります。日本は過疎化や高齢化が進む課題先進国であり、日本の地方で起こっている課題を解決することができれば、これから同じ問題に直面する世界の都市のモデルケースになり得るからです。ただし、そのためには、より「外向き」な発想で活動していく必要があると思います。番組でも、さまざまな事例が紹介されています。今回の放送が地方や地域について考えるきっかけになれば幸いです。