サイトの更新中断のお知らせ

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2015.04.24
2012.09.13

50,000人にフォローされてても価値の低い人 安藤美冬✕増田直紀 最終回

NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演後、独自のノマドワークスタイルが注目を浴びた安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で多数の著作を持つ増田直紀さん。安藤さんの「ノマドワークスタイル」は「ネットワーク科学」の専門家から見るとどう見えるのだろうか? そんな単純な疑問から対談はスタートしました。対談場所は「渋谷ヒカリエ」内に2012年4月にオープンしたコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(モヴ)」。おしゃれな家具に囲まれながらのお二人のおしゃべりは思わぬ展開に。

増田 直紀 (マスダ・ナオキ)

1976年生まれ。東京大学大学院・情報理工学系研究科准教授。ネットワーク科学、社会行動の数理モデリング、脳の理論を研究。著書に『私たちはどうつながっているのか』など。

安藤 美冬 (アンドウ・ミフユ)

1980年生まれ。㈱スプリー代表。多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイル実践者。『自分をつくる学校』学長、NOTTVの『テレビをほめるYESTV』レギュラーMC、『DRESS』の女の内閣 働き方担当相を務め、商品企画、講演など幅広く活動中。TBS系列『情熱大陸』、NHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』がある。

50,000人にフォローされててもネットワーク的価値が低くなる?

安藤  ツイッターを使ってて思うのですが、フォロワーの数が多いからって、必ずしもすごい人ってことにはならないですよね。50,000人フォロワーを集めたからすごいのではなく、フォローしてくれる人の重みが重要というか。

増田  そうだと思います。最近、知人から聞いておもしろかった話を思い出しました。IT業界などで起業している人でツイッターをかなりがんばって使っている人たちの話です。そういう人は、たとえば50,000人にフォローされていても、同じ数の50,000人をフォローしている場合があるそうです。そういう人たちは形式的にお互いをフォローし合って数を増やしたいだけで、別にツイートの内容はどうでもいいわけですよね。

安藤  ありますね。私は「見え方」が大事だと思います。要はネットというメディア上で自分をどう魅力的に見せるかという話じゃないでしょうか。たとえば、ツイッターで50,000人をフォローして50,000人にフォローされてるとイーブンです。でも、50,000人をフォローしてても30,000人にしかフォローされていない人は、フラれた数が多いことになり、価値が低いように見えてしまいますよね。

増田  あぁ、なるほど。見えますね。

安藤  それこそ500人フォローして50,000人フォローされていれば、49,500人は片思いなわけです。フォロ―数500人に対してその100倍のフォロワー数があるということは、この人をフォローすることは「価値がある」と他人からは思われやすいということ。そういう心理をついて、ソーシャルメディア上での自分の「見え方」の戦略を考えることはとても大事だと思います。

増田  なるほど。私も『なぜ3人いるとうわさが広まるのか』という本のなかで、検索エンジン「Google」がウェブページの重要度合いをどう判断しているかという話を紹介しました。受け取るリンク(他のウェブページから自分のウェブページにリンクされること)の数が効いてくると同時に、自分からリンクを出し過ぎると、そういうリンクを受け取るウェブページ側はあまり喜んでくれません。欲を言えば、重要度合いの高いウェブページからリンクを受け取ることも検索の上位にくるためのコツです。

安藤  おもしろい話ですね。

増田  ツイッターに同じことをあてはめれば、たくさんフォローされて、自分からのフォローは少なく、さらに”いい人”からフォローされると、その人のネットワーク的価値が高いと言えそうです。ここで言う”いい人”とは、自分からのフォローは少ないけどフォロワーがたくさんいるような人です。

安藤  私のツイッターでフォローしている人の数は、今のところ99人です。なぜ99人にしているかというと、私に興味を持ってくれた人がこのフォローしている99人を見て「安藤さんがフォローしているんなら、フォローしてみようかな」と思ってくれるといいなと考えたからです。

増田  なるほど。たしかに、ツイッターのフォローはフェイスブックと違って一方向なつながりなので、ある程度コントロールできますよね。99人だったら「誰をフォローしているんだろう」って見られますが、1000人だとなかなか見られません。

ネットワーク科学の視点から見えてきたこと

安藤  少し話が変わりますが、増田さんの本に病院内での感染症を防ぐためには、ハブとなる医師に対して優先的に予防接種をしなければいけないという話がありましたよね。それを読んで、すごい話だなと思いました。倫理的には人間の価値は等しいので予防接種も平等であるべきなのですが、ネットワーク科学の視点から”院内感染を防ぐ”というゴールへの最適解を考えるとハブとなる医師を優先しなければならないという。

増田  あえてそういう話を書いたのは、考え方を変えてほしいなぁというメッセージでもあるんです。日本人は人間に優先順位をつけるのが苦手で、ものごとに序列をつけると人の権利まで序列したかのようにいっしょに捉えてしまうことが多くて。

安藤  すぐに感情的な議論になりますからね。「フェアじゃない!」「不平等だ!」みたいな。

増田  そこで思考停止してしまうと、議論にすらならないですから。ネットワーク科学は論理的でちょっと数学的なのですが、少しでもその知見を認識してもらえれば、議論にのせられる社会的課題が色々あると思います。

安藤  今の話に続けて言うなら、ソーシャルネットワークでいろんな人がつながればつながるほど、ネットワーク的に強い人と弱い人が出てきますよね。それこそツイッターのフォロワーが多い一握りの人にフォローが集中するのと同じで、格差が出てくるというか。

増田  はい。テクノロジーが発達するほど、ネットワークの格差も見えてしまいますから。インターネット登場以前は誰がハブなのかが今ほどには見えませんでした。今では、フェイスブックやツイッターなどでソーシャルネットワークのつながりが具体的にで見えるようになってきています。

安藤  可視化されているからこそというか。

増田  テクノロジーが発達するほど不平等がどんどん広がっていくという状況は、それはそれで対策を考えなきゃいけない課題です。経済格差が広がっている理由の一つに、情報格差の広がりがある点も見過ごせません。可視化されるソーシャルネットワークを活かせる人はどんどん活かせるけれども、活かせない人はうまく活かせないですから。

安藤  増田さんとお話させていただきながら、自分の今までの活動を振り返ることができたのはとても貴重でした。今まで経験知として持っていたことをネットワーク科学の視点で見ることで、より深く理解できました。長時間の対談、本当にありがとうございました!

増田  私も安藤さんの実践的な部分を色々伺うことができて、とてもおもしろかったです。こちらこそ、ありがとうございました。

【終】

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