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2015.04.24
2012.08.22

ソーシャルメディア時代は“人脈”よりも“ネットワーク”で考える 安藤美冬✕増田直紀 第二回

NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演後、独自のノマドワークスタイルが注目を浴びた安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で多数の著作を持つ増田直紀さん。安藤さんの「ノマドワークスタイル」は「ネットワーク科学」の専門家から見るとどう見えるのだろうか? そんな単純な疑問から対談はスタートしました。対談場所は「渋谷ヒカリエ」内に2012年4月にオープンしたコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(モヴ)」。おしゃれな家具に囲まれながらのお二人のおしゃべりは思わぬ展開に。

増田 直紀 (マスダ・ナオキ)

1976年生まれ。東京大学大学院・情報理工学系研究科准教授。ネットワーク科学、社会行動の数理モデリング、脳の理論を研究。著書に『私たちはどうつながっているのか』など。

安藤 美冬 (アンドウ・ミフユ)

1980年生まれ。㈱スプリー代表。多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイル実践者。『自分をつくる学校』学長、NOTTVの『テレビをほめるYESTV』レギュラーMC、『DRESS』の女の内閣 働き方担当相を務め、商品企画、講演など幅広く活動中。TBS系列『情熱大陸』、NHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』がある。

ネットワークのハブになるための3つの要素

安藤  ネットワーク上でとても多くの人とつながっているハブ(中心)の話をもう少しお伺いしたいと思います。『私たちはどうつながっているのか』に、ハブになるための要素が3つありましたよね。1つ目が「個人の能力」、2つ目が「先住権」、つまり第一回の対談に出てきた「先んじてそのポジションを取ること」。そして3つ目にとても驚いたのですが、「運」でしたよね。この3つの要素について、特に3つ目の「運」についての理解が難しかったので、あらためて伺いたいです。

増田  ちょっと古いですけど、わかりやすい例として、「VHS」と「ベータ」というビデオの規格を巡る競争があります。必ずしもネットワークの話ではないですが、本質はとらえています。VHSとベータの2つに大きな技術的な差はなかったと言われていますが、結果的にVHSが市場を凌駕しました。そして、そうなった理由として「ある一つのものが増えると、もっと増えやすくなる」ということがあります。WindowsとMacの競争も似ています。今でこそMacがはやってきていますが、一時期はOS(Operating System:オペレーティングシステム)にWindowsを搭載したパソコンのシェアが今よりもさらに圧倒的でした。ネットワークの場合は「友人が一人増えると、もっと増えやすくなる」ということで、ネットワーク科学では「優先的選択(Preferential Attachment)」と呼びます。技術的にほとんど差がないときは、ほんのちょっとの出だしで決まるんですよね。その“ほんのちょっとの出だし”も能力といえば能力なのですが、運といえば運で、運に左右される部分は結構大きいです。

安藤  おもしろいですね。

増田  能力は互角だったのに差が開いてしまう点は、なかなかコントロールがききません。ですので、それは運なのかなぁと思う要素です。もちろん全部が運という意味ではなくて、運が悪くてもそれを凌駕する能力があれば逆転できます。

安藤  その「運」を上げるために、行動の「量」を増やすことは関係してきますか?

増田  うーん、難しいですよね。“行動力”も能力のうちかなって思うところもありますので。わかりにくいとは思うのですが、まったく同じところから出発して能力も行動力も同じでも、たまたまちょっとした差が生まれて、それがどんどん広がってしまうんです。

安藤  裏付けのある話なんですか?

増田  あります。VHS とベータの競争という比喩もそうですけれども、世の中のいろいろなところで見られることです。サンデル教授の「ハーバード白熱教室」で見ておもしろかった話ですが、彼が授業で「このなかで長男・長女だった人は手を挙げてください」と尋ねてみたところ、教室のなかにいる数百人のうち、8割近くの人が手を挙げたというんです。一人っ子だったら必ず長男・長女ですけど、兄弟がいる人も多いはずだから、8割というのは普通より多いですよね。この場合、長男や長女であるってことはある意味で運です。ハーバード大学に入れたのは自分の生まれつきの能力や努力のおかげだけだとは必ずしも言えない、というわけです。

安藤  たしかに。長男や長女だと両親が熱心に教育を施すということもあるかもしれませんね。私も長女で妹がいるのですが、教育の内容に相当な差があるような気がします(笑)。たぶん、長女だからということで、両親がすごく教育に力を入れてくれたんですよね。そういうことでしょうか。

増田  そういうことですね。今でこそソーシャルメディアがあるので、後から始めても逆転できたり、フェイスブックやツイッターでハブが乱立したりすることもあります。でも、現実世界のネットワークではひとたび差がついたら拡大していきやすいというのは、まず覚えておきたいことです。

地殻変動の近くにいるのも「運」

安藤  今、お話を伺いながら、ふと思ったのですが、「運」も地殻変動が起きている場所にいることが大事なのではと思いました。極端な言い方をすれば、ブレイクしたり成功しそうな人のそばにいるというか。会社員時代に知り合った友人が本を書いてベストセラーになり一躍有名人になるという経験をしたことがあるんです。そして振り返ってみると、自分がいちばん変わったのもこのときだったのかなと。もともと友人同士だったということもあって、いっしょに仕事をさせていただいたり、今でもすごく力になってくれているんですね。こうしたこともすごく「運」的なものを感じるんですけれども、これはどうでしょう?

増田  「運」的なもの感じますね。一つ何かが起こると次々と何かが起こって、いろんな人に紹介されながらつながっていくことは、同じ場所にいなければ起こりませんので。地殻変動が起こっている近くにいるところには、運という要素を強く感じますね。

安藤  そうですよね。行動力というと人に会う回数とか能力の話になるかもしれませんが、運ってほんとに何が影響するんでしょうね。運ってそもそも何なのでしょうか(笑)。

増田  うーん、本当に難しいですよね。もちろん能力という言葉に全部を帰着させることもできるかもしれないですが、みんながそれを予見できた上で行動しているわけではありません。やっぱり「運」と言っておきたい部分がありますね。

“人脈”ではなく“ネットワーク”で考える

安藤  ここまでハブになるための「個人の能力」「先住権」「運」という3つの要素について伺ってきたのですが、みんながみんなネットワークのハブになりたいわけではないでしょうし、実際にはなれないと思います。ハブではない人の戦略のようなものはあるのでしょうか?

増田  いくつかありますが、まずは良質なハブにつながることですね。

安藤  「良質」とわざわざおっしゃったのは、前回のお話にあったような、単にフェイスブックで3,000人の友達とつながっているだけではないということですね。「人脈」という言葉を聞くと、つい「顔は広ければ広い方がいい」と思ってしまいがちですから。

増田  おっしゃるように、単にハブというと「友達の数が多い」ということで、世の中には色々なハブがいます。とはいえ、質の話はおいといて、ハブにつながるとはどういうことなのかを考えてみましょう。たとえば、自分の友達は自分より有名なはずなんですよ。

安藤  と言いますと?

増田  つまり、友達として選ばれている時点で、その友達は自分より有名人である可能性が高いってことです。たとえば、自分の友達も自分と同じような50人程度の友達がいる人なのかといえば、そうではありません。そのなかにはきっと目立つ人、言い換えればハブがいるはずです。目立たない人もいるでしょうが、自分の友達は、平均して50人よりは多い友達をもっています。

安藤  増田さんが本のなかで書かれていた「スケールフリーネットワーク(Scale-free Network)」の話ですね。

増田  そのとおりです。「スケールフリー」はたいへんわかりにくい言葉ですが、ひとことで言うと世の中に存在するハブはほんの一握りで、ハブじゃない人が大半だということです。これはどの縮尺(スケール)でも同じだというのが、「スケールフリー」の意味なんです。たとえば1万人以上とつながっているハブの人たちを集めてきてその中だけで考えれば、さらに多い10万人や100万人以上の人とつながっている大ハブの人が一握りだけいて、残りは普通のハブだということです。現実としてそうなっているんです。

安藤  なるほど。ネットワークはスケールフリーだから、自分の友達のなかにもハブがいるはずだということになるわけですか。

増田  はい。ですから、ネットワーク科学で考えると、ハブではないほとんどの人にとっての処方箋は「まず安心してください」ということだと思います。今、あなたがつながっている友達のなかに、ハブの役割を果たしている人はきっといますので。

安藤  ハブとつながっていれば、あとは「6次の隔たり(Six Degrees of Separation)」で、自分の知らない赤の他人でもネットワークをつたって平均6歩でたどり着けるわけですね。

増田  そうなんです。自分とは無縁に見える他人でも、どこかでつながっているんです。だからハブになれなくても安心していいと思います。2011年5月に行われた調査では、フェイスブックでつながっている7.2億人が平均4.7歩でお互いに到達できるというデータもあるぐらいです。ネットワークとして見れば、世界はとても小さいものです。

安藤  すごく勉強になって、しかも役に立つお話を聞けた気がしました。

第三回へ続く…

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