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2015.04.24
2012.08.26

なぜ今コワーキングスペースなのか? 安藤美冬✕増田直紀 第三回

NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演後、独自のノマドワークスタイルが注目を浴びた安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で多数の著作を持つ増田直紀さん。安藤さんの「ノマドワークスタイル」は「ネットワーク科学」の専門家から見るとどう見えるのだろうか? そんな単純な疑問から対談はスタートしました。対談場所は「渋谷ヒカリエ」内に2012年4月にオープンしたコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(モヴ)」。おしゃれな家具に囲まれながらのお二人のおしゃべりは思わぬ展開に。

増田 直紀 (マスダ・ナオキ)

1976年生まれ。東京大学大学院・情報理工学系研究科准教授。ネットワーク科学、社会行動の数理モデリング、脳の理論を研究。著書に『私たちはどうつながっているのか』など。

安藤 美冬 (アンドウ・ミフユ)

1980年生まれ。㈱スプリー代表。多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイル実践者。『自分をつくる学校』学長、NOTTVの『テレビをほめるYESTV』レギュラーMC、『DRESS』の女の内閣 働き方担当相を務め、商品企画、講演など幅広く活動中。TBS系列『情熱大陸』、NHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』がある。

“つながり”は三角形で安定になる

安藤  よくクラスター(cluster:房=集団、コミュニティ)って言葉を聞きますけど、ネットワーク研究では三人の三角形を指してクラスターと呼ぶんですね。

増田  そうなんです。クラスターというとわかりにくいですので、私は“三角形”という言葉をよく使います。たとえば、東日本大震災以降、着実に周りの人とつながっていこうという動きがありますが、それは一人対一人のリンクの関係をつくるだけではなく、三角形の関係をつくっていくということだと思います。今、日本社会は震災や不況や高齢化などで不安感のある時期ですよね。こういうときに求められるのが安定する三角形の形なんだと思います。色んな理由で、三角形につながっていると人は安心します。

安藤  三角形だと安定して安心するというのは、とてもおもしろい話ですね。それこそハブ(中心)のように多人数の人とつながることができなくても、二人の人としっかりとした三角形をつくっていけば大丈夫だというのはすごく大事だなぁと思って。

増田  そうですよね。

安藤  三角形と聞いて私の経験で思い出すのは、会社員時代に会社を辞めようと思う直接のきっかけになった勉強会のことです。起業を目指す女性のための勉強コミュニティがありまして、その幹事が私ともう二人の合わせて三人でした。不思議なことに、三人とも勉強会を立ち上げてから一年以内に独立しているんです。今、思い返せば、三人の結びつきが三角形だったからよかったのかなぁと思います。一対一だと「あなたは独立するの?」「いや私はまだ」というきりのないやり取りになると思うのですが、三人だと互いの状況を報告し合いながら、いい具合に監視し合うことができます。きっと、互いのプレッシャーがあったからこそ、三人ともちゃんと独立できたんじゃないかなって思うのです。

増田  そういう面はありますね。二人でもお互いに助け合えるのですが、どこかで行き詰まってしまうこともあるでしょう。行き詰まったときに、三人目がいてくれて、何かアドバイスをしてくれたり、それこそ安藤さんがおっしゃられるように、いい意味でプレッシャーを与えたり。もちろんネガティブに働くときもあるわけですが、いい方向に働くことが多いですよね。

安藤  たしかにそうですね。

増田 人間関係は二人から始まるわけですが、三人だと、何かの拍子に切れてしまった一対一のリンクを三人目が再びつなげてくれることもありますから。何か始めようとか続けていこうとかいうときには、三人の三角形のパワーを考えた上でやるのがいいと思います。

安藤 増田さんの本を読んでハッとしたんです。私は超ハブ型人間でありつつ、もともとは一対一のリンクが得意なんですよ。親友とか仕事相手とか自分の人間関係を図に描いてみたことがあるんですが、三角形が意外となかったんですよね。でも、あらためて三角形について考えてみると、絶対そっちの方がいいですね。恋愛にも似てますね。

増田 ですね。

安藤 恋愛の人間関係ももちろん一対一なわけですが、そこにお互いの共通の友人がいて三角形になっているとリンクが切れにくいというか。一対一だとケンカしたらもう終わりですから(笑)。

増田 あと、一対一だとなかなか人に相談ができないですよね。お互いのことを知っている人に相談できると、また違った結果になるのかもしれません。

今コワーキングスペースが必要とされる理由とは?

安藤  仕事の話に戻ると、独立した当初、半年ぐらいはほとんど仕事がなくて自宅に引きこもっていたんです。かっこよく言うとSOHO(Small Office/Home Office:ソーホー)なのですが、誰かと仕事するのも、ウェブを立ち上げるのも、基本一対一で仕事をしてました。相談相手もいないので、一人ぼっちで仕事をしてたわけです。で、少しづつ仕事が入ってくるようになってから、コワーキングスペースを借りて使うようになりました。「なんでコワーキングスペースで仕事する必要あるの?」って聞かれたときに、今まではうまく説明できていなかったのですが、きっと私はこの三角形の関係をつくりたかったんだなぁっていうことに気が付きました。

増田  コワーキングスペースに入らなくても、一対一では人とつながっていられたわけですよね。一対一の関係でもそれなりにつながりができて、常に仕事が入ってきていたのに、安藤さんはそこであえてコワーキングスペースを借りられたと。それは何を必要としていたからだと思いますか?

安藤  つながりの数ではなく“広がり”だと思います。その頃の私は一対一の個人的な関係をつくることにはすごくエネルギーを使っていたので、深いつながりはたくさんあったんです。

増田  一対一のリンクがいくつもあったけど、リンクとリンクが混ざることはなく、それぞれで完結してたということでしょうか?

安藤  混ざりませんでしたね。みんなでごはんを食べるとか、混ざるようにすればよかったのかもしれないですが。それがコワーキングスペースだと否が応でもいろんな人がいて、自然に混ざっていくんですね。そう考えると、自分のリンクが混ざり合うことを求めたのかなぁと思います。

増田  コワーキングスペースがあることでリンクが混ざり合うというのはおもしろいですね。

飲み会や懇親会もネットワーク視点ではけっこう大事です

安藤  一つ伺いたいのですが、一対一のリンクの関係から三角形の関係にしていくにはどんな方法があるのでしょうか?

増田  大きく分けて二つです。一つは友だちに紹介してもらうこと。もう一つは「場」があってそこで何となくつながっていく場合です。今回、対談させていただいているこの場所(編集注:渋谷ヒカリエにあるコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(モヴ)」)なんかは後者で、安藤さんが先ほどおっしゃられたようにコワーキングしているうちに自然につながっていくのだと思います。それぞれの仕事のスペシャリティは違ったとしても、「共有しているもの=場」があればつながりはできやすい。大学のサークルとかも同じですね。何か目的があったり、価値観が似ているから、なんとなく集まっているうちに友だちになって、三角形の関係ができていきます。

安藤  飲み会や懇親会もその意味では三角形をつくる「場」になり得るのでしょうか?

増田  もちろんです。大学では学会という研究成果を発表する会があります。今の学生にはなかなか理解してもらえないのですが、そこで講演することはもちろん大事なのですが、それ以外にも懇親会などで発表した人と直に話したり、学生同士でつながっていくことがすごく大事なんです。

安藤  ネットワーク科学の専門家から見ても、懇親会が大事というのはすごくおもしろい話ですね。

増田  もちろん場のクオリティも大切で、イマイチな場だとただ単に飲んでるだけになってしまったり、早く帰っときゃよかったなということもあるわけで。その場にどんな人がいるのかや、自分の興味があるかどうかで見極めることも必要ですね。

安藤  そのとおりですね。

 

第四回へ続く…

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