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2015.04.24
2012.08.13

なぜフェイスブックで3,000人友達がいる人は成功できないのか? 安藤美冬✕増田直紀 第一回

NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演後、独自のノマドワークスタイルが注目を浴びた安藤美冬さんと、ネットワーク科学の分野で多数の著作を持つ増田直紀さん。安藤さんの「ノマドワークスタイル」は「ネットワーク科学」の専門家から見るとどう見えるのだろうか? そんな単純な疑問から対談はスタートしました。対談場所は「渋谷ヒカリエ」内に2012年4月にオープンしたコワーキングスペース「Creative Lounge MOV(モヴ)」。おしゃれな家具に囲まれながらのお二人のおしゃべりは思わぬ展開に。

増田 直紀 (マスダ・ナオキ)

1976年生まれ。東京大学大学院・情報理工学系研究科准教授。ネットワーク科学、社会行動の数理モデリング、脳の理論を研究。著書に『私たちはどうつながっているのか』など。

安藤 美冬 (アンドウ・ミフユ)

1980年生まれ。㈱スプリー代表。多種多様な仕事を手がける独自のノマドワーク&ライフスタイル実践者。『自分をつくる学校』学長、NOTTVの『テレビをほめるYESTV』レギュラーMC、『DRESS』の女の内閣 働き方担当相を務め、商品企画、講演など幅広く活動中。TBS系列『情熱大陸』、NHK Eテレ『ニッポンのジレンマ』などメディア出演多数。著書に『冒険に出よう』がある。

安藤  増田さん、はじめまして。今日は対談させていただきとても嬉しいです。早速ですが、増田さんの著書『私たちはどうつながっているのか』 『なぜ3人いると噂が広まるのか』を読みました。すごくおもしろかったです。

増田  ありがとうございます。

安藤  これらの本を読ませていただいて、「あ、これ、私が独立する前後に実践してきたことをすべて体系的に説明してくださってる」って思ったんです。

増田  そうなんですか。

安藤  はい、おかげさまでこれまでやってきたことに対して背中を押された思いがしました。私は出版社を退職して独立したものの、これといって特にやりたいことがなかったんです。かつては手当たり次第、名刺を配り歩いたこともありました。このままではいけないと一念発起して、仕事が向こうからやってくるネットワークづくりをしようと、twitterなどのソーシャルメディアを使って発信してきました。結果、時には学校の運営、時には企業へのコンサルティング、時には連載や講演など仕事の領域を定めずに複数の仕事をするワークスタイルにつながったのですが、根本的な思いとしてはそれこそいろんな業種や業態をつなぐ「ハブ」としてプロフェッショナルな素人でありたいと思っているんです。

安藤美冬さん(左)と増田直紀さん(右)。

増田  なるほど。

安藤  『私たちはどうつながっているのか』に「交渉やビジネスのチャンスをつかむためには、自分の業界にとって新しく、しかもまだ組織化されていないところへ飛び込む」とありますが、まさにこれなんですね、自分が狙っているのは。

■早い段階でネットワークに入るほどハブになりやすい

増田  それはやっぱり戦略だったんですか?と言うのも、ブログとかツイッターといったソーシャルメディアに乗っかって「自分がハブになろう」とどんどん名刺交換してがんばっていた人ってたくさんいたと思うんです。でも、名刺をいっぱい配っても自分の思い通りに成功する人はなかなかいないと思います。そのなかで安藤さんがなぜうまくいっているのか、対談に来る前から不思議に思っていたんです。

安藤  そうですね。「ブルーオーシャン」を見つけて、そのポジションをいち早く取ることで自分のキャラクタ―を確立させることだと思います。そのためには自分にとってのライバルや市場を分析することが大事だと思います。たとえば私がいくら「これからは一億総セルフブランディングの時代」と言っても、そこに市場がなければ勝てないわけです。ソーシャルメディアといっても、ソーシャルメディアはすでにもうライバルが多数いる市場になっていましたから、じゃあそこにどんな別のキーワードをくっつけてオンリーワンの領域をつくればいいのか、とかいろいろ考えてたんです。そうして実践していった結果、今年2012年4月に放送されたTBS系列『情熱大陸』にてノマドワーカーの女性として大きく取り上げられることになったのですが、これらのキーワードに加えて実際、放送の1年前から「ノマド」として積極的に発信していました。なぜかというと、ノマドワーカーとして世に知られている比較的若い女性は「がら空き(ブルーオーシャン)」だったからです。

増田  たしかに先に目を付けることは大事ですね。ネットワーク科学でも早い段階でネットワークに入るほどハブになりやすいと言われています。自分の後からネットワークに入ってくる人たちは最初からネットワークにいる人とつながろうとするので、最初からネットワークにいる人ほど有利なんです。あと「能力」ですね。ハブはたくさんの人とつながっているので、全部にコミットしようとすると時間が足りなくなります。能力にはいろんな種類がありますが、うまくマネージメントする力は、ハブになるために役立つ能力の一つと言えます。

安藤  なるほど。先ほど「名刺をいっぱい配っても自分の思い通りに成功する人はなかなかいない」っておっしゃっていましたけど、ネットワーク科学の専門家としての立場から見て敗因は何だと思いますか?

増田  つながり過ぎてしまうことだと思います。どんどんつながればつながりの数としてはハブになりますが、時間は有限です。つながりが多すぎると、自分の周りのネットワークの質をコントロールできなくなりますよね。あと、フェイスブックで友達が何人いるとか、異業種交流会に行くだけで盛り上がった気になってしまうとか、つながるだけで満足してしまうことが多いのではないでしょうか。

安藤  つながることで満足してしまう気持ちは、かつて私も会社員時代に数千枚の名刺を配っていたので、よくわかります(笑)。

増田  一方、上手いハブの人は、多くの相手とつながっているように見えても、全員と同じように付き合ってはいないと思います。たとえば、1000人と直接つながっていても、親しい人は30人くらい。で、30人以外の相手には深くコミットしない。その30人のコアメンバーはどういう人とつながっているのか、どの業界につながっているのか。自分と直接つながっている人の後ろにどんなネットワークが広がっているのかを意識して動ける人が、優れたハブなのだと思います。

■フェイスブックで3,000人友達がいる人は成功できない?

安藤  増田さんは著書の中で同じようなことをおっしゃってますよね。人に優先順位をつけるとか、得点をつけるとか、ネットワーク科学の考え方はすごく斬新でした。そうは言っても優先順位ってなかなかつけられないと思いますけど(笑)。

増田  そうですね。日本人は人に優先順位をつけるのが苦手ですよね。

安藤  ネットワーク的な考え方において、人に優先順位をつけることは必ずしも「優劣」をつけることではないと思うのですが、どうしても打算的な印象を与えがちかもしれません。でも、増田さんはどんな人とつながっているのだろうって思うのも、そもそもその人に興味を持つからなんですよね。どんな人と仲良くなるタイプなんだろうって。

増田  同感です。人と初めて会う前にブログとかツイッターとかウェブサイトでいろんなものを見て「どんな人なんだろう」って思うのもそうですが、見ているとその人の人間関係のつくり方とかも勝手に想像できたりします。「この人と友達になったら楽しそうだなぁ」とか、「そのさらに先にいる人たちとも友達になれたら楽しいかもしれない」とか、想像が膨らみますよね。

安藤  良質なネットワークを構築できる人とできない人の違いって、今、増田さんがおっしゃったことなんだと思います。「この人は何を求めてるんだろう」とか「この人はどんな人なんだろう」っていうことを先んじて想像できる力ってすごく大事だと思うんです。フェイスブックで友達が3,000人くらいいらっしゃる方がいますけど、じゃあその人が現実的にその3,000人をうまく活かせるかっていったら、必ずしもそうではありませんよね。

渋谷ヒカリエ内のコワーキングスペース「Creative Lounge MOV」にて。

増田  違いますね。

安藤  ちょっと刺激的な言い方を敢えてしちゃいますけど…、こうしたフェイスブック上で3,000人の「友達」がいる人にありがちな傾向があると思っていまして。例えば数百名単位でイベント案内を送ってきたり、突然知らない人も混ざっている一斉メッセージをしてきたり。

増田  あぁ、いますねぇ。

安藤  そういう使い方をひと度してしまうと、一人ひとりと丁寧につながりを構築していくことが難しくなると思うんです。クラスター(cluster:房=集団、コミュニティ)という言葉がここで使えるかわからないんですが、フェイスブックのなかにも親しい友達とか知人とかって分けられるじゃないですか。それと同じで、ネットワークを構築するのが上手い人は親友、知人、友人、会社の同僚というセグメントをうまく使い分けられていると思うんです。

増田  絶対分けてると思いますね。

■クラスターを使い分けると「つながり」はもっとよくなる

安藤  それぞれのクラスターで話すことや振る舞い方を使い分けることを、私は「複数のペルソナ(persona:人格)を使い分ける」と呼んでいるのですが、そうやって複数のペルソナを使い分けられるからこそ、いろいろなクラスターと長くお付き合いができるんだと思います。

増田  そうなんですよね。私のフェイスブックは300人ぐらいとしかつながっていませんが、私自身も大人数に何かを投げかけるときは絶対にセグメントを使い分けています。意識はしてなくて、体に染み付いている習慣ですよね。

安藤  そうですね。リアルな交流の場で言うと、高層マンションでのホームパーティやバーベキューを頻繁に企画している人たちっていますよね。

増田  いますねぇ(笑)。私も「クルーズしませんか」とかが来ます。そういう人はクルーズが好きなんですよ、なんか。

安藤  まあ、かつて私も好奇心からそういうのに参加したり、時には企画していたクチなんですけど(笑)。今思えばそうした場で得たつながりが実際に転職したり独立したり、何かそういうことに活きたかといえばそうなってはいないんです。

増田  そうならないことがほとんどですね。

安藤  でもクラスターできめ細やかに分けてネットワークから考えていけば、「人とのつながり」ってもっといいものになると思います。

増田  全然変わりますよね。


第二回へ続く…

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