サイトの更新中断のお知らせ

次世代の論客を応援するサイト「ジレンマ+」は、 この度、NHK出版Webサイトのリニューアルに伴い、 ひとまず、情報の更新を中断することになりました。 長いあいだご愛顧いただき、ありがとうございました。

2015.04.24
2013.11.11

5年後のメディアで生き残るには?:佐々木紀彦

『東洋経済オンライン』の編集長に就任後わずか4か月で同サイトをビジネス誌系ウェブサイトNo.1に導き、米国大学院の留学経験を基に書いた著書『米国製エリートは本当にすごいのか?』も5万部とベストセラーになるなど、メディア業界の注目を集める佐々木紀彦さん。いかにして老舗経済誌のウェブサイトのリニューアルを成功させたのか。また、これからのメディア業界に求められる人材について、ともに考えます。

佐々木 紀彦 (ササキ・ノリヒコ)

1979年生まれ。「News Picks」編集長。慶應義塾大学総合政策学部卒業。2009年にスタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。『週刊東洋経済』編集部、「東洋経済オンライン」編集長を経て、2014年7月より現職。著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』など。

神原 一光 (カンバラ・イッコウ)

1980年生まれ。NHK放送総局 大型企画開発センター ディレクター。主な担当番組に「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」「しあわせニュース」「おやすみ日本 眠いいね!」。著書に『ピアニスト辻井伸行 奇跡の音色 ~恩師・川上昌裕との12年間の物語~』(アスコム)、最新刊は『会社にいやがれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

就任4か月で結果を出す

神原  本日は『東洋経済オンライン』編集長の佐々木紀彦さんにお越しいただきました。佐々木さんは、2012年に編集長に就任後、リニューアルから4か月で5301万PVを記録し、同サイトをビジネス誌系サイトNo.1に導くなど、ウェブを中心としたメディア業界に新しい風を吹かせていらっしゃっています。本日はよろしくお願いいたします。

佐々木  こちらこそよろしくお願いします。まずはじめに自己紹介ですが、私は高校まで福岡の北九州で育ち、大学から慶応義塾大学のSFC(湘南藤沢キャンパス)に進みました。SFCというと当時からITで有名ですが、私自身はITリテラシーが高くなく、今でも「ガラケー」をずっと使っているぐらいITとは縁が遠い学生時代を送りました。

大学卒業後の2002年に東洋経済新報社に入社して、その後『週刊東洋経済』の記者として自動車・IT・ネット業界などを合計5年間担当した後、休職制度を利用して米国のスタンフォード大学大学院に2年間留学しました。ビジネスやジャーナリズムではなく、国際政治経済を専攻して修士号をとってきました。

神原  ジャーナリズムではなく、国際政治経済ですか。これは、興味深いですね。

佐々木  帰国後に復職し、ビジネス週刊誌の巻頭特集をいくつか担当しました。私の担当した特集はキャリアや英語など同誌のなかでもやわらかめのテーマが多く、自分の担当したなかでいちばん売れたものは『非ネイティブの英語術』でした。この特集は歴代でもトップ級の売上を記録しました。また、並行して『米国製エリートは本当にすごいのか?』という本も書きました。これはスタンフォード大学にいってみて感じたアメリカと日本のエリート教育の違いなど、自分が体験したことを分析してまとめた本です。この本は運がよく5万部ぐらい売れました。


佐々木  こうして雑誌の特集や本を書くなどいろいろとやってみるなかで、自分でいうのもおこがましいですが紙のメディアはやり尽くしたというか、飽きてきたなと思いまして、当時はあまりうまくいっていなかったウェブサイトのデジタル事業をやらせてほしいと上司に頼み込みました。おそらくウェブサイトがうまくいっておらず人気の部署ではなかったからだと思いますが、ありがたいことに編集長に抜擢してもらえたので、ウェブ全般のリニューアルに挑戦しました。最初の課題は、紙のネット版をつくるか、まったく新しいメディアをつくるかのどちらにするかです。新聞や出版社はそのままネットに転載するパターンが多いのですが、いろいろと研究してみるとそれではうまくいかないことがわかったので、紙とは切り離された新しいブランドでメディアをつくろうと後者のアプローチを取りました。

神原  雑誌と違うというのは、具体的にはどんなコンセプトだったのですか?

佐々木  この「NHKジセダイ勉強会」の「次世代」と似ていますが、「新世代リーダーのためのビジネスサイト」です。具体的には20代から40代前半をターゲットとしてウェブサイトをリニューアルしました。サイトでは、とにかく新しいロールモデルを示したいと考えています。やはり日本が過渡期のまっただ中で、企業、ビジネスパーソン、知識人、女性などあらゆるものの新しいロールモデルが求められています。しかしながら、まだはっきりとロールモデルが見えていないところがあると思い、できるだけ私たちのサイトでは、こういったロールモデルとなる人を他のメディアよりいち早く紹介することで、読者の思考など、いろんなものを変えていきたいなと思っています。それが一番大きいコンセプトの柱になりました。

神原  若手向けに「お手本」となるような事例・ニュース、人物などをバンバン紹介しようというわけですね。でも、どうして若手の新世代リーダーたちをターゲットにしたのですか。

佐々木  3つ理由があります。まず1つ目です。歴史を振り返ってみて3名の人物の名前を挙げたいと思います。1人目は福沢諭吉です。彼が自分の私塾に「慶應義塾」という名前をつけたのが33歳のときでした。2人目はソニー創業者の井深大。彼がソニーの前身の東京通信工業をつくったのが37歳でした。そして3人目は町田忠治という元大臣で、私が所属する東洋経済新報社の創業者です。彼が30歳のときにロンドンに行き、今でもありますが『The Economist(エコノミスト)』という雑誌を見て「こういう雑誌が日本にもあったらいい」と日本に帰ってきて、東洋経済をつくりました。それが32歳のときでした。何がいいたいかといいますと、こうして振り返ってみていくと、時代の変わり目では30代の人が新しいうねりを起こすということです。そうした30代ぐらいの人たちを応援するのは自分にとってもおもしろく、社会的な意義も大きいと思いました。これが1つ目の理由で、いちばん大きい理由でもあります。

神原  歴史を見ても、30代が新しい変化を作り出しているという訳ですね。

佐々木  2つ目は人口構成です。これまでのビジネス誌はおおよそ50代の意思決定者層をターゲットとしてきました。これは団塊の世代が若かったひと昔前は正しい戦略でした。しかしながら、人口の年齢別のピラミッド図を見てみると、団塊の世代が65歳を超えてきてビジネスシーンからどんどん退却していることがわかります。そして、その後にくる50代の人口比率はけっこう少ないんですね。かわってビジネスパーソンのなかで大きい割合を占めるのは30〜40代の、いわゆる団塊ジュニアと呼ばれる人たちです。ただ、この世代でビジネスメディアの定番といわれるものがまだありません。このマーケットはまだまだ開拓できるブルーオーシャンなのではないかと思いました。

3つ目はライバルとの差別化です。他のウェブのビジネスメディアをみると紙と同じ50代ぐらいが中心的なターゲットとなっており、差別化をしようと考えました。私たちの編集部自体が若いメンバーが多いというのもありますね。20・30代が中心です。

紙とネット、完全にブランドを分ける!

神原  歴史に習う・開拓しきれていない「団塊ジュニア」がターゲット・ライバルとの差別化…。これだけお聞きしただけでも、僕たちの番組制作にとって、ものすごいヒントです。

佐々木  ありがとうございます。やはり、社会的なムーブメントを起こすためには30代・40代が大事だということで、いろいろな戦略転換を進めています。全体のデザインを変えたり、新しく連載を50個はじめたり、今までは紙だけに書いていた企業記事をウェブオンリーにしたり。あと、スマートフォンへの最適化しましたし、ポータルサイト「Yahoo!」への記事配信本数を増やしたりするなど、とにかく、いろいろとやりました。また、細かい話ではありますが、基本的には速報は捨てて、事実関係だけではなく事実関係にストーリーを加えた「クオリティの高い第二報」に中心を置くという戦略をとっています。

神原  たしかに「速報」は消耗戦になりがちですよね。速報を見た後、人々の関心はすぐに「このニュースってどうして起きたの?」とか「そもそもどうしてこういうニュースが起こったの?」というところにいきますから「クオリティの高い第二報」というのは、鋭い視点だと思います。

佐々木  こうした結果、リニューアル前の月間500〜1000万ページビューから右肩上がりに伸びて、2013年の3月で月間5300万ページビューぐらいまで伸びました。その後は少し落ち着いて、今は4000万ページビュー程度で推移しています。

神原  『東洋経済』本誌との違いを全面に押し出した「独自色」が評価されているという証拠ですね。

佐々木  紙とネットのすみわけは完全にブランドを分けています。紙の方は上の世代の意思決定者が読者層で、40ページぐらいの特集を、文体を堅めにしてやっています。一方、オンラインは読者がもっと若く、短い記事が中心で文体も軟らかくしています。紙とネットの違い。これは私の思いでもありますが、衣服に例えると紙の文脈というのはネクタイをしっかりしめた正装なんですね。礼儀正しくしなければいけない。一方で今までの日本のウェブメディアは、ホリエモンじゃないですけどTシャツにGパンというラフなものでした。ラフすぎたがゆえに、ネットメディア全体の信頼感が損なわれて、日本は他の国と比べてもネットメディアが信用ならないというイメージがついてしまったのだと思います。今目指すべきはその中間ぐらいの、クールビズでスマートカジュアルな、ジャケットぐらいは着るけれどもネクタイをつけるほど堅苦しくないようなイメージをつくっていければウェブメディアの信頼性も上がり、広告収入も上がり、ウェブメディアのイメージが変わってくるのではないかと思っています。

神原  きょうの佐々木さんのファッションぐらいということですね。最近は、堀江貴文さんもネクタイをされていらっしゃるようですが(笑)

佐々木  はい(笑)。1年間ウェブメディアをやってみて、紙とネットは媒体特性自体がまったく違うのだと感じました。紙はデザインや写真、文字などいろいろなものの総合力勝負ですが、ネットはタイトルがほぼ8割〜9割です。タイトルでほぼ決まります。理性より感情、集団より個人ということでネットでははっきりと言わないといけない。たとえば、紙は私が何を書いても東洋経済の記者という会社名でしか見られないのですが、ネットは会社名よりもむしろ著者の名前、佐々木という名前が先に出てきます。個としてキャラが立っていないとネットではうまくいかないというのが活字メディアの場合ははっきりとしていますね。

神原  キャラ立ちですか…。タイトルでも、読み手にクリックしたいと思わせないといけないんですね。たしかに紙と違って、めくったりしてもらえませんものね。話は変わりますが、佐々木さんが最近出された『5年後、メディアは稼げるか』。どうして、5年後なのですか?

佐々木  一番聞かれる質問です。3年後でも10年後でもない、5年後にした理由は3つあります。

1つはスマートフォンが今後5年間で完全に普及していく点です。毎月売れている携帯電話のうちスマホの割合は最近7〜8割になりましたが、累積の契約数でみるとまだ半分以上はガラケーです。でもスマホの割合はこれからぐんぐんと伸びていって5年後の2018年には73%、7割以上がスマホになるということでデバイスが変わるだけではなくメディア行動自体が変わってくるのが今後5年間です。同じことがパソコンとタブレットPCにもいえて、5年後にはタブレットPCの販売台数がパソコンに並びます。この5年間で劇的な変化が起こり、私たちはその渦中にいるということです。

2つ目は人口構成の変化です。ホリエモンがニッポン放送買収を仕掛けたのがいつかを覚えていますか? 2005年2月です。あれから8年経ちます。早いですよね。何がいいたいかというと、ホリエモンの世代はインターネットに親しみのある最初の世代だと思うんですよ。5年後、今40歳前後の人たちが社会に中枢に立つようになります。2018年における年齢別人口分布を見てみると、22歳〜45歳のネット登場以後の世代が3544万人、以前の世代が3259万人となり、ネットに親しみのある世代が5年後は多数派になるんですね。こうした人口構成の変化は消費や経済のあらゆるところに影響を及ぼすと考えています。

3つ目はテクノロジーです。1つ目のスマホに重なりますが、iPhoneが初めて登場したのは2007年、今から6年前のことです。6年前に出たものがこれだけ世界にひろがって人々の行動を変えているという点において、テクノロジーの世界の5年というのはとても長いわけです。たとえば、私が注目している技術に紙のようにペラペラとしたディスプレイがありまして、これはもう5年後には実用化されるのではないかといわれています。タブレットPCを持ち歩くのは重いですし、さらに今はタブレットPCを持っていない高齢者世代も、こうしたペーパータブレットに親しむ可能性もあります。

こうした変化が5年間で起こり、メディアが劇的に変化していきますので、メディア側も変わらざるを得なく、人とお金の大移動が起こるのではないかと思っています。

米国のネットベンチャー企業が約100億円をかけてテレビドラマをつくった

神原  なるほど。佐々木さんがおっしゃる「大移動」は、テレビメディアにはどのように波及してくるとお考えですか?

佐々木  そうですね。まず、広告から考えていきたいと思います。



佐々木  日本の2005年から2012年の広告費推移を比較すると、ネットが9%から24%に伸びています。また、アメリカの今後の広告費推移もデジタルは20%から31%にこれからも伸びると予測されています。日本の過去の推移と、アメリカの未来の予測で共通していることがあります。紙メディアはこれからも減り続けるという点です。アメリカでは過去に新聞が25%から17%に、雑誌が12%から10%になりました。これがこれからさらに減って、新聞は13%、雑誌は7%になります。つまり、ネットは結局のところ紙メディアからシェアを奪っているのであって、テレビの地位は意外と安泰です。もちろん、広告費は全体として減っていますが、広告費に占める割合はこの7年間でほとんど変わっていません。また、アメリカでは今後も減るとは予測されていません。テレビは危機だといわれますが、広告収入という面を見る限りではそれほど危機ではなく、アジェンダ・セッティングができるメディアとして今後もマーケティングの側面からも強いのではないかなと思います。

ウェブメディアがさらに伸びて、テレビとウェブ、この2つが今も大事ですが今後さらに重要になります。テレビとウェブの融合が今も起きていますが、今後5年間でどんどん進んでいくのではないでしょうか。たとえばCMのデジタル入稿です。今まではアナログでしたが2017年に始まる予定です。TVのCMをウェブの動画で流すことがもっと簡単になります。「スマートテレビ」といわれますが、テレビでネットを見ることも簡単になり、テレビ広告自体がもっとターゲッティングできるようになります。私がテレビを見たときにはビールのCMが、奥さんが見ているときにはファッションのCMが流れるとか、人によって広告が変わる世界がすぐそこまで来ていますよね。

神原  ネットに接続して見る「スマートテレビ」。アメリカや中国などでは市場が急成長しているようですね。

佐々木  個人的に注目しているのは、ネット企業と既存マスメディアの関係性です。たとえば、YouTubeはテレビ局にとってライバルなのか、それとも相互補完的な関係になるのか。アメリカではYouTubeがすごく伸び、有料チャンネルも増えてきており、YouTube向けに番組を制作するようなベンチャーがたくさん出ています。YouTubeがテレビに匹敵するような地位を得つつあります。

日本とアメリカの違いは、ネット企業がどれだけ挑戦するか、お金をかけてオールドなマスメディアを揺さぶっているか、にあります。アメリカの「ネットフリックス(NETFLIX)」という会社をご存じでしょうか。かつてはDVDをネットで宅配レンタルするサービスを提供する会社だったのですが、今は動画のストリーミングサービスです。今もっとも注目されているベンチャーの一つで、先日の発表では有料会員数が4000万人を突破しました。ネットフリックスは今年2013年、1億ドル(約100億円)をかけて独自のドラマ番組をつくりました。「House of Cards(ハウス・オブ・カーズ)」は政治サスペンス・ドラマで、主役はケビン・スペイシー、監督はデビッド・フィンチャーです。このドラマがなんと、米国テレビ業界で最高の権威あるエミー賞をストリーミングサービスとして初めて受賞しました。これを作るときに彼らがしたことがとてもおもしろくて、どの監督が人気なのか、どの俳優が出ているときにいちばん長く視聴されているか、どういうジャンルのドラマが人気なのかなど、会員データを徹底的に分析したんですね。つまり、ビッグデータを使ってドラマ全26話を制作したわけです。このドラマは当然ながら会員にならないと見られないですが、会員になれば26話を一気に見られます。これが大ヒットして、ネットフリックスの会員数は急激に伸びています。こうやって、ネット起業がお金をかけてテレビ局を超えるクオリティのドラマを作ってみせたわけですね。ネット通販サイトのアマゾンも映像スタジオを持っていて、ドラマを制作しているといわれています。巨大なネット企業がどんどんエンターテイメント業界の映像制作に入ってきています。こうした動きがテレビ局にとって脅威となるのかがアメリカでは今いちばんおもしろいテーマです。

神原  ビッグデータというか、すごい世論調査というか、マーケティングというか、いやはや、番組の作り方が本当に変わりますね。アメリカは、もともと多チャンネルというかケーブルテレビが多く、映像制作と流通の分業がはっきりしているからこうした動きが出てくるのではないかと思います。日本の場合はネットとテレビの関係でいうと、テレビの話題でネットが盛り上がるという構図で、カウンターカルチャー的な存在が強いですよね。ツイッターなどソーシャルメディアで盛り上がるのも「あまちゃん」「半沢直樹」「バルス」となるわけで…。もちろん、その関係性も変わってくる可能性はありますが、現時点では、そんな印象が強いです。

佐々木  たしかに相互補完的ですよね。それを活かすならば、たとえばテレビ局も映像制作のベンチャー企業のようなものを作り、そこはネット動画の専門にして若手を送り込む。そこを若手のトライ・アンド・エラーしやすい場所として、テレビ局がうまく活用したらおもしろいと思うんですけどね。

これからのメディア企業に必要とされる人材とは?

神原  最後に、これからメディアではどういった人材が求められるのか。5年後のメディア人について佐々木さんの見立てをお聞かせください。

佐々木  これから価値が上がるのは「クロスボーダー記者」と呼ばれるいろんな媒体を使い分けられる人ではないか、と考えています。今までだと紙だけで書ければよかったのですが、紙とネットでは書き方がまったく違いますし、さらに動画まで自分をプロデュースできるなど、媒体を全部使い分けられる記者というのは意外と今はいないので、価値が上がるだろうなと思います。

神原  媒体を横断して書き分けられる記者ですね。編集者はいかがでしょうか?

佐々木  エディター(編集者)はこれからも必要とされますね。前提として、記者の存在価値が相対的に落ちてくることがあります。記者の競争相手は記者だけではなく、すでにコンサルタントやアナリストといった人たちで、彼らは自分なりの分析や意見をどんどん盛り込んでいきますから、今起きていることをパッと書いて流す事実を書くだけの記者は本当にこれから厳しいです。逆に情報があふれているので、その情報をどう整理するのか、エディターに価値が移っていて、実は優秀なエディターは少ないんですよ。以前、この「ジセダイ勉強会」で講演された元講談社で作家エージェントの会社「コルク」を起業された佐渡島庸平さんのような優秀な方はとても貴重なので、媒体をまたいで活躍されていくだろうなと思います。

活字メディアには、紙メディア族、ウェブメディア族、テクノロジー族、ビジネス族という4つの族が存在しますが、これから価値ある人材として存在していくには、この4つのうちどれか1つで超一流の人材になるか、この4つを組み合わせていくしかないと思います。私は紙メディア族からはじまり、今はウェブメディア族を勉強していて、同時に広告ビジネスにある程度たずさわるようになっているのでビジネス族にも属しています。テクノロジーは少し苦手なのでそこまではいけないかもしれないと思うのですが、こういう形で自分の軸を増やして、せめてこの3つはすべてある程度わかるようになり、付加価値をつけていこうと考えています。このように組み合わせを意識していくことが今後とても重要だと思います。

神原  いま日本でこれを実践しているような「ロールモデル」はいますか?

佐々木  よく聞かれるのですが、残念ながら日本ではあまりいないのが現状です。一方、海外ではかっこいいジャーナリストやメディア人がけっこう出てきています。たとえば元BBC(英国放送協会)のマーク・トンプソン。彼はもともとディレクターの出身ですが、BBCの会長になりデジタル分野の改革を大成功させて、今は米新聞大手ニューヨーク・タイムズに引き抜かれてCEOとしてデジタル改革をしています。メディア界の経営者としては彼が第一人者だと思います。

雑誌『WIRED(ワイアード)』US版の編集長を12年務めたクリス・アンダーソンもおもしろくて、彼はもともと理系の科学者なのでテクノロジーのバックグラウンドからキャリアをスタートして、経済誌『エコノミスト』のエディターから『WIRED』の編集長、そして今は3D Robotics(ロボティクス)というベンチャーを米国シリコンバレーで起業しました。

あとは『MONOCLE(モノクル)』誌を立ち上げたタイラー・ブリュレ。彼は元々BBCの記者だったのですが、ラジオのパーソナリティをやったり、動画を撮ったり、ファッションのコーディネートをしたり、ビジネス面でも広告で稼いだり、銀座にも「モノクル・カフェ」がありますね。こんな感じで4つの族を完備するような人が海外だと出始めていて、こういう人が日本でも出てくると日本のメディアは大きく変わるかもしれません。今は、時代の大きな変わり目ですので歴史に名を残すチャンスだという気がします。

日本でも過去を見るとけっこう面白い人がいます。たとえば、福沢諭吉は慶應義塾をつくった実績でよく知られていますが、「時事新報」というメディアをつくった人でもあります。広告ビジネスがあまりなかった時代に塾生に広告代理店をつくらせたりして、広告ビジネスを開拓しました。次男の福沢捨次郎はマサチューセッツ工科大学(MIT)に留学して土木を勉強したあと鉄道技師になるのですが、福沢諭吉が亡くなった後に28歳で「時事新報」を継いで、同じようにいろんなチャレンジをしました。たとえば美人コンテストやマラソン大会をしたり、天気予報を初めて載せたり、漫画家を使った記事を作る、一面広告を作ったのも「時事新報」です。その他にも当時はめずらしかった女性記者の登用やロイター記事の翻訳など、いろいろ試しました。チャレンジ精神がおう盛すぎたがゆえに後に潰れて産経新聞に吸収されてしまうのですが、当時は読者数を伸ばしてナンバーワンを目指すぐらいの新聞になったわけです。こういったイノベーターのチャレンジがあったからこそ、新聞ビジネスが発展しました。

神原  福沢諭吉がやっていたことって、いまのメディアがすべてやっていることじゃないですか。これ、僕が早稲田出身だから知らないだけですか?(会場笑)初耳です、驚きました。慶應、恐るべしです。

佐々木  そうなんですよ。こうやって20代、30代で後世に残る大事業を仕掛けた人たちがいるのだなと改めて思いました。20代、30代はチャンスなのでいろいろとがんばりましょう、という偉そうなメッセージで終わりたいと思います。きょうは「ジセダイ」のための勉強会ですので。

神原  佐々木さんの挑戦されていることをお聞きして「優れた記者や制作者は、優れたビジネスモデルを作ることができる」ということを感じました。僕らも日々の仕事に邁進しながらも、どこかで次を、まずは5年後ですね。それを見据えていかないといけないなとも思います。本日は、ありがとうございました!


(拍手)

20代・30代のための本気の仕事論。「ジセダイ勉強会」が本になりました。

『新世代トップランナーの戦いかた 僕たちはこうして仕事を面白くする』 (2013/11/23発売)

起業家・コラムニストの安藤美冬さん、ライフネット生命社長兼COOの岩瀬大輔さん、野村不動産の刈内一博さん、伊勢丹新宿店セールスマネージャーの額田純嗣さん、NPO法人「二枚目の名刺」代表の廣優樹さん、作家エージェント会社「コルク」を創業した佐渡島庸平さん、星海社新書初代編集長の柿内芳文さん、元プロ陸上選手でスプリント種目で日本人初のメダルを獲得した為末大さん。合計1800いいね!以上を獲得したWeb連載を大幅に増補した、次世代トップランナー8人による20代・30代のための本気の仕事論です。

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