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2015.04.24
2013.10.02

ソーシャル時代のテレビの行方――『リアル脱出ゲームTV』はどのように生まれたのか?:柳内啓司

TBSのデジタル戦略を担う「番組をデジタルで盛り上げよう会議」のメンバーとして、『リアル脱出ゲームTV』『ジンロリアン~人狼~』など、セカンドスクリーンを駆使した斬新な視聴者参加型番組に携わる柳内啓司さん。FacebookやTwitterなどソーシャルメディアの登場により「テレビメディアも変化しなければならない時期」にあります。ネット時代のテレビのつくり方と、それを支える社内横断コミュニティについて考えました。

柳内 啓司 (ヤナギウチ・ケイジ)

1980年生まれ。株式会社TBSテレビメディア戦略室技術戦略部。東京大学大学院工学系研究科卒業。大学院在学中にサイバーエージェントに勤務、ネットビジネスのクリエイティブ・マーケティング業務に従事。著書に『人生が変わる2枚目の名刺――パラレルキャリアという生き方』がある。

神原 一光 (カンバラ・イッコウ)

1980年生まれ。NHK放送総局 大型企画開発センター ディレクター。主な担当番組に「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」「しあわせニュース」「おやすみ日本 眠いいね!」。著書に『ピアニスト辻井伸行 奇跡の音色 ~恩師・川上昌裕との12年間の物語~』(アスコム)、最新刊は『会社にいやがれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

ネットにテレビはどう向き合うのか?

神原  本日の勉強会は、TBSにて『リアル脱出ゲームTV』『ジンロリアン~人狼~』などの新しいタイプの視聴者参加型番組に携わる柳内啓司さんにお越しいただきました。社屋が「赤坂」(TBS)と「代々木公園」(NHK)に近いという“千代田線つながり”ということで、今日はよろしくお願いいたします。

柳内  よろしくお願いします。同じテレビ業界ということで、私は番組の技術という面から、ソーシャルメディア時代のテレビ番組について、幅広くお話ができればと思っています。

私は大学院時代の2003年、ソフトウェア研究をするかたわら、サイバーエージェントにアルバイトという形で入り込んで、大学院を1年留年してしまうほど仕事にのめりこみました。当時はまだサイバーエージェントも社員がそれほど多くない時期だったので、その時にウェブデザインなどのクリエイティブや、データ分析、マーケティングなど、2年ほどで幅広くいろいろなことを経験できました。その後、TBSに技術職で入社して、3年間はドラマやバラエティ番組の照明・ビデオエンジニア(VE)を。その後にgoomo(グーモ)という社内ベンチャーに出向し、番組支援や演出としてネットやソーシャルメディアをどう使えばいいかをずっと考えてきました。最近ですと「番組をデジタルで盛り上げよう会議(通称:デジもり)」という会社にオーソライズされた社内会議を主催し、さまざまな企画やタイアップをバックアップしています。

神原  ネット企業でアルバイトされた経験をテレビ局で存分に生かしている、ということですね。

柳内  そうですね。まず、はじめに最近語られる「ソーシャルメディアの登場でテレビがどうなるか」という話から考えていきます。テレビ業界にいる立場や視点から、テレビにとって、ネットやソーシャルメディアはどのような関係にあるのか。よく前提として語られるのは「接触時間争奪戦のライバル」という話です。最近ですとPCやコンピュータ・ゲームからスマートフォンなどモバイル端末に時間のシェアが移っていて、テレビは視聴時間が減ってはいるものの、微減という印象です。一方で、テレビとネットを同時利用するスタイルが増えてきています。たとえば、スマホのFacebookで友だちの近況を見ながら、テレビが「ワッ」と盛り上がっているとそちらを見るといったような形態です。

そのような状況で、テレビがソーシャルをどう捉えるのかを考えた時、私たちは「リアルタイム視聴とソーシャルの絡み方」に注目しています。その一つの施策がセカンドスクリーンやマルチスクリーンサービスと呼ばれる、いわゆるモバイルを使って視聴者が参加できる企画を展開する手法です。細かく分けると制作/流通での活用や、オフエアー/オンエアーで何をするかなどがありますが、ここでは主にオンエアーでのリアルタイム視聴の促進策をご紹介したいと思います。たとえば、『オールスター感謝祭』に使った「TBSキクミミ」というアプリです。音声認識のスマートフォン・アプリです。この番組でCM前に有名なジングル(番組の節目に挿入される短い音楽)がありまして、CM前にカメラが芸能人に寄っていくときに流れる音楽なんですが、あの音楽をこのアプリでキャッチすると、サイコロが振れて進めるスゴロクのゲームになっているアプリです。

神原  なるほど。CMごとに音楽が流れる決まりの音楽をキャッチしてもらうことで、ゲームが進める。つまり、「番組を見続ける仕組み」と、「参加した人を最後まで逃さない」という仕組みをあわせた取り組みですね。

柳内  その通りです。「TBSキクミミ」の総ダウンロード数は1万7,000件で、スゴロクにつけたプレゼント応募総数は1万2,000件でした。つまり、約7割の人が最後まで参加したということで、離脱率は非常に低いものでした。視聴者にアプリをダウンロードしてもらうのは、まだまだ障壁が高いと感じますが、このチャレンジは非常に大きな収穫があったと思います。

神原  多くの視聴者は、CMを機にザッピング(テレビのチャンネルをパッパと切り替える)して他のテレビ番組を見ようとしますが、それをさせない、視聴者を番組から逃さない方法にもなったということですね。

『リアル脱出ゲームTV』は、どのようにして生まれたのか?

柳内  次にご紹介するのは『大炎上生テレビ オレにも言わせろ!』という深夜番組です。こちらは主にスマートフォンからの参加で、登録ユーザー数が7万3,000人、オンエアー中の関連ツイートが4万5,000件ほどでした。番組で用意した”スタンプ”と”つぶやき”で参加してもらうのですが、スタンプはチェックなしで即時にテレビ画面上にどんどん出しました。テレビ業界で古くからいわれるような「画面を汚すな」ということの真逆を積極的にやってみたチャレンジングな企画でした。

神原  拝見しました。面白いと思いました。あらかじめ用意したスタンプで視聴者に参加してもらうというのは、実は番組側にとっても“安心材料”があるんですね。というのは、生放送でメッセージやツイッターを募集すると、事前に放送していいものかどうか文言をチェックする必要があるんですね。放送できない卑猥な言葉や表現がないかチェックするということです。でも、あらかじめスタンプが用意されていれば、その心配はない。「大炎上」とは言うものの、生放送のリスクという面については、しっかり考えられた演出だと思います。

柳内  次ライトな参加感とリスクが少ないというメリットはありました。この番組については、同じ時間帯にネットでニコニコ生放送をするなど、かなりいろいろなことをやりました。そして、次が今、TBSのイチオシのコンテンツになりつつあるのですが『リアル脱出ゲームTV』です。初回が2013年の1月の元旦、二回目が4月、三回目が8月の放送となっています。

これはもともとSCRAPというクリエイティブ集団が仕掛ける「リアル脱出ゲーム」というイベントがあり、それの面白さに可能性を見出した弊社入社5年目の中島啓介という若手プロデューサーが企画した番組です。「リアル脱出ゲーム」はある場所に集まり、制限時間内にナゾを解いて脱出できるかということを競うイベントですが、「リアル脱出ゲームTV」はドラマを見ながら、その中で出される謎を視聴者が解いて、ケータイでその答えを入力する形になっています。バカリズムさんが演じる謎の男が東京のテレビ局電波をジャックして、今から放送時間内に問題が解けないと、爆弾が仕掛けられた東京のある場所が爆発する、というものです。謎についてはネタバレしてしまうので詳しくいえませんが、テレビというメディアをうまく使ったギミック(仕掛け)がよく考えられています。ネットでも「やられた!」と反応する人が非常に多くて、やはり謎をつくったクリエーターたちがさすが優秀だったのだと思います。

2013年8月に放送した三回目の参加者数は172万5,000人で正解率は1.97%でした。この非常に低い正解率で設定するのが定番で、なかなか正解できない悔しさというか、やきもきする感じが視聴者をひきつけているのだと思っています。ネットやソーシャルメディアでの反応も大きく、TwitterやYahoo!のトレンドワード・急上昇キーワードになるなどの反響がありました。

神原  この番組も話題になりましたよね。理由は何だと分析していますか?

柳内  「リアル脱出ゲームTV」がこれだけ評判になったのは、ドラマ単体としてのクオリティが高い上に、さらにスマートフォンを“演出ツール”として活用することで、視聴者が強く没入させることに成功したからだと考えています。ダラ見ではなく、前のめりに観てもらう番組になって、一部の熱狂的なファンたちが番組のことをネットや口コミで広げてくれる形になりました。

「リアル脱出ゲームTV」は、この2013年夏に赤坂サカスでもリアルな連動イベントが行われるなど、いろいろな展開が生まれ出しています。あるスマートフォンのメーカーとコラボCMなどの取り組みなどがいい例です。やはり番組自体が視聴者に深く刺さる(心を動かす)ことが大切だと思いました。熱心なファンがいるからこそ、それが別なコンテンツの形で発展していき、ビジネスになっていくのだなあと感じています。

神原  テレビに「前のめり」になってもらう、というのがいいですね。普段、テレビを見るときって、寝転がってみるとか、何かに寄りかかってみるという感じだと思いますが、面白い番組だと、画面にかぶりつくようになりますよね。それだけ視聴者の熱量があがるということなんですが、ソーシャルをうまく駆使すると、積極的に番組に参加してもらえるのだなぁと改めて感じます。素晴らしい試みだと思います。

柳内  最後にご紹介するのが『ジンロリアン~人狼~』です。成り立ちは、「リアル脱出ゲームTV」と似ているところがあるのですが、これももともとは「人狼ゲーム」というゲームが巷で流行していて、どんなゲームかというと、6、7人ぐらいでテーブルを囲んで、人狼2人、騎士1人、占い師1人、他が市民というように役割を持ち、人狼と市民のどちらが勝つかを競うゲームです。もっとかんたんにいえば、「誰が人狼か」を当てるゲームです。

ここでもスマートフォンなどのモバイルで、誰が人狼かを回答させるという企画をやりまして、セカンドスクリーンならではの演出にチャレンジしたのですが、このモバイルの特設サイトで答えのチョイ出しをやりました。視聴者が怪しいと思った人をワンタップで市民か人狼かがわかります。視聴者が一人だけでも人狼か市民かがわかることによって、それぞれの見方や推理で番組のシナリオを楽しむことができます。たとえば、二人で見ていて、一人一人が別々のものを見ていたら、それで会話がはずむかもしれないということを想像しながらつくっていきました。

以下は、希望的観測を含めた話ですが、こうした番組は番組後半になっても視聴率が下がりにくいという特徴が見られました。いろいろな変数がありますので、絶対にそうだとは言い切れない部分がありますが、一連のソーシャル・セカンドスクリーン施策も大きく貢献しているのではないかと思います。『リアル脱出ゲームTV』『ジンロリアン~人狼~』を仕掛けた中島プロデューサーは「エキサイト・シェア」というコンセプトでそうした施策を概念化しています。これは番組のフォーマットが面白いとおもったときにスマホやタブレットが目の前にあれば、「これはおもしろい!」とその興奮をソーシャルメディア上などでシェアしたくなるのではないかというコンセプトです。実際にこれらの番組ではシェアやツイートがたくさんありました。特徴的だったのは、実名でシェアしてくれた人が多いという点です。ここにはビジネスのチャンスがあるのではないかという議論を社内でしていたりします。

神原  社内で議論ですか。何か専門の部署やプロジェクトチームがTBSにはあるんですか?

柳内  はい。TBSのいい面だと思っているのは、こうしたデジタルの施策を番組クリエーターと技術がいっしょに企画を練り上げている点です。番組のクリエーターが「こういうのをやりたいんだけど」と提案してきて、それに対して技術が「じゃあ、こうしよう」と考えて企画にしていくパターンが非常に多いと思います。制作するクリエーターが情熱を持ってデジタルに取り組もうとのってきてくれていることはとても大きいことです。少し自社の宣伝のようになってしまうのですが、「番組をデジタルで盛り上げよう会議(通称:デジもり)」という組織の存在が大きいのではないかと考えています。今回呼んでいただいた、NHK「ジセダイ勉強会」もそうですが、組織横断がうまく機能することが大事だと思っていて、「デジもり」も編成、制作、スポーツ、営業、宣伝、技術など20名強のメンバーがいて、自由に議論ができる雰囲気があります。また、会社がオーソライズしているのも非常に大きいと思います。部局を超えた若手が週1回集まり、アイデア出しをしています。非常にいい雰囲気のなかで、新しいクリエイティブな企画が生まれてきていると思っています。

神原  いいですね。ソーシャルメディアを駆使したテレビ番組を語るとき、必ず「セカンドスクリーン」という言葉が出てくるんですよね。僕は、これちょっと気になっているんです。どうして「セカンド」なんだろう?と。これは、あくまでテレビが「ファースト」で、スマホやPCは「セカンド」という位置づけである、という意味合いからそう呼ばれているそうなのですが、これはテレビ局側の論理だと思っています。視聴者の気持ちに立ったら、もしかしたら、スクリーンという意味では、本当は「ダブル」という次元にまで来ているのではないかと思っています。これから、スマホを通じたソーシャルメディアの利用が加速すれば、テレビ番組もますます意識しなければいけなくなると。そうなってきたときに、「セカンドスクリーン」という考えから「ダブルスクリーン」という考えに移行していくことで、もっとチャレンジングな演出が浮かんでくると思いますし、テレビを面白くできるのではないかもと思っています。がんばらないと、テレビが「セカンド」になってしまいますから。今日は、そのための貴重なヒントをありがとうございました。
(拍手)

Q&A

神原  では、ここで参加者からの質問を受けたいと思います。

Q:番組をつくっている者です。制作側のクリエーターと技術側のデジタルがうまくいっているという話でしたが、どのくらいの段階からいっしょに企画に入るのでしょうか?

柳内  いろいろなケースがあると思いますが、たとえば今回の『リアル脱出ゲームTV』『ジンロリアン~人狼~』といった企画は、スマホサイトの利用が前提なので、企画書の段階から、技術と制作が話をしています。制作プロデューサーもデジタルネイティブ世代だったので、「これくらいはできて、これは結構大変」という、デジタルに関する勘どころがわかっているので、割とコミュニケーションはスムーズにいったのではないでしょうか。

神原  やはり先ほどの「デジもり」などの取り組みが大きいのでしょうか?

柳内  そうですね。きっかけとしては非常に大きかったと思います。やはり新しいことやおもしろいチャレンジを後押ししてくれる部長クラスの人、部署を超えて素早く情報共有できる場所があるのはこういうチャレンジングなことをやる時重要だと思います。とはいえ、結局は数字(視聴率)をとれるかどうかを常に突きつけられるわけですが。いちばん大きかったのは、やはり『リアル脱出ゲームTV』の成功でした。あの番組は番組の視聴率もよく、ネットのアクセス数もすごいといわれ、社内でも話題になりましたので。そうした柱というかアイコン的番組が一つあり、徐々に流れができてきたという印象はあります。

神原  若手で集まるだけではなく、成功事例を共有することで大きな流れをつくる。本当にそのとおりだと思いました。「ジセダイ勉強会」も、ただ勉強するだけでは物足りないということで、この「ジセダイ+」のサイトにダイジェストを記事として掲載して頂いたり、新しいチャレンジやおもしろい企画を生み出そうということで、ジセダイ勉強会発の番組も誕生しました!以前お越しいただいた映画プロデューサーの川村元気さんとドラマ部のディレクターが企画した小説『世界から猫が消えたなら』のラジオドラマです。(主演・妻夫木聡 NHK-FM 7月20日放送)今年の本屋大賞にノミネートされた川村さんの作品が初めて番組化されることや、主演をつとめられた妻夫木聡さんが、ラジオドラマに初挑戦されたことから話題になりました。TBSもNHKも、お互い若手がもっともっと奮闘して、「テレビは面白い」と視聴者の方に思ってもらえるよう、刺激しあっていけたらいいですね。本日は、長時間にわたりお話いただき、本当にありがとうございました!

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