サイトの更新中断のお知らせ

次世代の論客を応援するサイト「ジレンマ+」は、 この度、NHK出版Webサイトのリニューアルに伴い、 ひとまず、情報の更新を中断することになりました。 長いあいだご愛顧いただき、ありがとうございました。

2015.04.24
2013.08.27

売上日本一の百貨店で働く私が大切にしてきたこと:額田純嗣

2013年3月に改装グランドオープン(リモデル)した「三越伊勢丹ホールディングス」の基幹店・伊勢丹新宿本店。フロアを増やさない改装にもかかわらず、ひとつの店舗で日本最高の売上高を記録。絶好調を続けている。その中で、最大の売り上げを誇るのが、本館2~4階の婦人服部門。その婦人服部門の中で、本館2階の中の売場のセールスマネージャーを務める額田さんから「伝統あるものを変えていくためにするべきこと」をお聞きし、「勝ち続ける」方法について考えます。

額田 純嗣 (ヌカタ・ジュンジ)

三越伊勢丹ホールディングス伊勢丹新宿店・婦人服セールスマネージャー。1979年大阪生まれ。早稲田大学人間科学部スポーツ科学科卒業。2002年に(株)伊勢丹に入社。2009年4月より現職。

神原 一光 (カンバラ・イッコウ)

1980年生まれ。NHK放送総局 大型企画開発センター ディレクター。主な担当番組に「NHKスペシャル」「週刊ニュース深読み」「しあわせニュース」「おやすみ日本 眠いいね!」。著書に『ピアニスト辻井伸行 奇跡の音色 ~恩師・川上昌裕との12年間の物語~』(アスコム)、最新刊は『会社にいやがれ!』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。

百貨店のいま

神原  本日の勉強会は、日本一の売上を誇る伊勢丹新宿店で、婦人服部門のセールスマネージャーを担当される額田純嗣さんにお越しいただきました。よろしくお願いいたします。

お話を伺う前に、まず「セールスマネージャー」とはどういう仕事なのかをお伝えします。端的に言うと、店頭の環境・販売戦略を考え、実行する現場責任者です。商品をどう並べるか、どう飾るかといったことから、販売員の育成やマネージメント、販売プロモーションの企画・運営に至るまで行うんですよね。商品を国内外から調達してくる「バイヤー」とタッグを組んで、ありとあらゆる方法で店頭を盛り上げていく、非常に大事な役割なんですよね。

額田  ご紹介ありがとうございます。私は入社以来ずっと新宿店で仕事をしております。ずっと現場の担当をやらせていただいておりまして、販売員、セールスマネージャーやバイヤーのアシスタント、など多種多様な職種を経験しました。また、2013年3月に新宿店が“世界最高のファッションミュージアム”を目指してグランドオープンしましたが、このプロジェクトにも2年ほど関わらせていただき、お店づくりに参画してきました。

今の新宿店の考え方は、まさに今回私がこの場にお招きいただいた気持ちと同じで、「経験を”シェア”していかないとダメだ、より多くの人に店づくりに参画してもらい、いろいろなアイデアをもらっていかないと世界一の店はつくれない」と考えています。どんどん門戸を広げて、新宿伊勢丹の良きパートナーになっていただき、世界一のデパートメントストアをいっしょに作っていきたいというのが伊勢丹の”思い”です。

まずは、百貨店業界、小売業界の状況について情報としてお伝えできればと思い、ここ十数年の変化をまとめてみました。百貨店が不況であるということは皆さんもご存じかもしれませんが、1991年が売上のピークで、そのときの売上が約9兆7000億円であったと言われています。そして今が6兆1000億円強程度ですので、この20年で約3分の2に縮小しました。ここ10年間をみても売上が下がりつづけているのが百貨店です。一方で、小売業全体では、130兆円前後でずっと横ばいです。

では、なぜ百貨店だけがどんどん売上が下がりつづけているのでしょうか。伸びているのが通信販売・専門店といった他業態の小売です。特にネット・電話などを含む通販は今、5兆900億円まで伸びまして、もうすぐ百貨店を抜くだろうといわれています。その他にも、コンビニはとっくに百貨店を抜き去っています。

こうしたなかで、百貨店はどうすればいいのかと、かなりいろいろと考えました。実は三越伊勢丹は6兆1000億円ある百貨店業界全体のうちの1兆3000億円ぐらいを年間で売っており、シェアとしては約20%になります。もちろん、これは百貨店業界では一位です。三越伊勢丹が新しい発想でどんどん百貨店を変えていけば、日本全体の小売も変えられるんじゃないか。そんな意気込みで、2006年からグランドオープンのリモデルを企画していました。

神原  え、今年は2013年だから、7年も前からですか!?

額田  はい、ずっとやっていました。そのあいだにはリーマン・ショックがあり、「(リモデルを)来年やるぞ、来年やるぞ」とずっと考えつづけながらも、延び延びになっていました。7年前のリモデルの企画書と今回できあがったものを見比べると、どんどんブラッシュアップされてきて、ほとんど80%ぐらいは当初の企画書とは違うものになりました。今だって、きっと5年後、10年後の世界はぜんぜん想像とは違うものになるかもしれません。そのなかであえて「10年後の東京、20年後の世界をイメージして売場をつくろう」というスローガンに掲げたのが今回の伊勢丹新宿店のリモデルです。

神原  なるほど…。改装というのは、てっきり3年とか5年というスパンで考えるものだと思っていました。ファッションの世界というのは、テレビ番組と同じ、あるいはそれ以上に流行のスピードが激しい世界でしょうから、変化に対応する意味でも、スパンは短いものだと思っていました。

額田  たしかにそう考える方もいるかもしれません。今回のリモデルにあたっては、もしかしたら、今は「ちょっとこの店、買いづらいな」と思われるお客様もいるかもしれない、でも、そういうお客様がいても5年後・10年後はこのイメージのようになるのだから、思い切って発信しようという考えで挑戦しました。私たち百貨店の役割が変化してきていて、今までのようにモノを売っているだけのイメージを覆さないと、未来はつくれないんじゃないかと思ったからです。そんな覚悟で企画したんです。その一つが「グローバル百貨事店(ひゃっかじてん)」になろうというコンセプトです。

「世界最高のファッションミュージアム」をつくる

神原  え、これ何ですか? 百貨店ですか?

額田  まさに「何だ、これ?」ですよね。そもそも、百貨店の定義とは、衣食住がそれぞれ10〜70%以内のシェアを持っている業態で、従業員が常に50人以上いる店舗、かつ対面販売を50%以上している、ということを言いますが、今回コンセプトとした「百貨事店」は、「100のモノ」だけじゃなく「100のコト」も入れましょうというものです。お客様が百貨店に来るときに、感じるコト、うれしいコト、楽しいコト、ワクワクするコト、ドキドキするコトがある店にしようと考えたんです。

そして、今回さらに目指したのは、“世界最高のファッションミュージアム”です。百貨店に行こうではなく、ミュージアムに行こうとか、ディズニーランドに行こうとか、「休みにどこへ行こう?」というとき「伊勢丹の新宿店に行こう」といってもらえるかどうか。これが”ファッションミュージアム”です。約90億円をかけて2万5,000平米の売り場をリモデルしました。また、ハード面だけではなくソフト面も再開発し、接客のあり方など、販売サービスの根本的なところに修正を加えました。

神原  単なる店舗の改装ではなく、業態をも変えていこうというかなり大きな「モデルチェンジ」ですね。

額田  今回のリモデルには、いくつかのキーワードがあります。

最初のキーワードは「グローバル化」です。”グローバル”の意味するところは、お客様も、従業員も、品揃えも、“世界中から”ということです。今や伊勢丹新宿店も、年間60億円は外国からいらっしゃるお客様からの売上です。約3%を占めております。伊勢丹は店頭、ウェブ、また小型店舗にもチャレンジしており、羽田空港への「イセタン羽田ストア」の出店や、東名高速の海老名サービスエリアに期間限定で出店をしてチャネル(販売経路)を広げています。商圏は世界にあるという発想ですべてを行うことです。

次のキーワードは「モード化」です。「モード化」は、日本の固有の感性を世界に伝えることです。日本を代表する文化施設になろうと考えました。具体的には、言語対応、従業員の多国籍化、マーチャンダイジング(MD)のモード化、海外向け情報サイトの新設などを実行中です。私たちは何かと「モード」という言葉を使いますが、「モード」というのは、つくり上げている作品というイメージです。つまり、自らモードを発信して、お客様に受け入れてもらえないと新しいものは生み出せないというのが私たちの合言葉です。どの百貨店を見ても、同じようなブランドが並んでいる状態では、モードとはいえません。ですので、自分たちがどんどんと提案する”自主編集”といわれる売り場を広げています。

「パブリック化」は、世界中の人びとに参加してもらうことにより、伊勢丹新宿店を進化させるということです。年間2,500億円という売上は世界一です。しかし、「世界一のデパートメントストアってどこだと思います?」という問いに対し、”新宿伊勢丹”の名前が、いちばんに上がってこないことが多いです。世界中のさまざまな人に参加してもらわない限り、世界中の人たちに支持される店にはならないと考えています。”みんなでつくり上げる百貨店”という発想です。

「ソフト化」は、私たちがいちばん意識していることです。顧客・従業員・取組先・社会とのかかわり方・商売のやり方など、すべてを根本的に見直して個々人の裁量範囲を拡大することに取り組んでいます。その一つの例として、制服や身だしなみのルールは最小限・最低限にしています。また、商売の中で力を入れているのは”ソフトMD”の拡大です。ソフトMDとは“形のない商品”という意味で、たとえばリペア(修理)、コンサルティング、トラベル(旅行)などです。このように百貨事店の「事(コト)」に取り組んでいるというのが伊勢丹の強みです。そのほかの伊勢丹の強みとしては、それぞれの個性を活かしつつ全体の調和をはかる”不均一の調和”を意識していることが挙げられます。個人的にはいちばんここが好きなのですが、”外し”のテクニックというか、これが人を気持ちよくさせる何かなのだと思うので、こだわっています。

「パーソナル化」は店内のあらゆる仕組みを、マスからパーソナルを対象にしたものへ転換していきましょうという取り組みです。店舗が大きくなればなるほど、ものの見かたが属性など大きなくくりになりがちだと思いますが、それではお客様の喜びや感動をつくれないと思っています。接客は一対一でとことんご要望をお伺いすることや、商品づくりや品揃えについては現場の一線の従業員にどんどん権限移譲して新しい提案を常にできるような仕組みをつくるなどが挙げられます。

百貨店はネットにどう向き合うのか?

神原  伊勢丹新宿店が今回のリモデルにかけた思いが伝わってきました。その中で、額田さんご自身が考えてきたこと、思ってきたことはありますか?

額田  そうですね。では、私が伊勢丹の売り場をつくるときに、個人的にメモに書いてきたことをお伝えします。

まず、ネットにはないリアル店舗の強みは何だろうと考えてきました。まず挙げられる強みは、お直し・接客サービスです。そして、商品を俯瞰しやすい。ウェブだと”トップス”を探す場合は”トップス”が出てきます。そうであると、パンツやスカートなどのボトムスなど他の商品と合わせてみるのがむずかしくて、最近はそのようなことができる仕組みも出てきてはいますが、一体感のある雰囲気を感じ取ることはできないですよね。伊勢丹新宿店は限られた面積で最大効率を図るために、ブランドごとの垣根を取り払う取り組みを進めています。次に挙げられるリアル店舗の強みとしては、その場ですぐに手に入ることです。ネットも注文した場合でも翌日に届くなど、かなりスピードは上がってはいますが、今すぐ手に入れて「わーっ」っという満足を感じられることは、リアル店舗でモノを買うとき特有の喜びだと思います。また、”相談できる”というのも店舗ならではの強みです。ネットショップを見ながら家族や友だちとワイワイ・ガヤガヤすることはあまりないですよね。買い物という行為自体を”コト”にできるという意味でもあります。「デートしよう」といってネットショップをいっしょに見るってことはないですよね。「伊勢丹いこう」という”コト”で、お客様の楽しいこと、ワクワクすること、ドキドキすることにお役立てできるんです。最後に、新しい出会い。意外性を体験できるのもリアル店舗の良さだと思います。

では、逆に店舗の弱みは何かと考えたときに出てきたのは、まず、在庫・サイズ・色が見ただけではわからない点です。ネットならば色・サイズ違いや在庫の有る無しがすぐにわかります。店舗は「この商品の在庫があるか聞かないとわからない。でも聞けそうな店員さんが見当たらないな、混んでいるな」なんてことが、けっこうあると思うんですね。あと、どこに何があるかがわかりづらくて、欲しいものがピンポイントで決まっているときに、リアル店舗であるとその売場にたどり着くまでに時間がかかります。ネットだと一発で便利ですよね。最後に、みなさんの使える時間のなかで、営業時間内に来ていただかないといけない。可処分時間と伊勢丹の営業時間が一致していなければいけないというのは、むずかしい点です。わざわざ店舗に行くという点を、「来てよかった」という強みに変えるための仕掛けをしていかないといけないと思っています。

売上日本一の百貨店で働く私が大切にしてきたこと

額田  話の最後に、ご参考になればと思いまして、私が個人的に大切にしてきたことをご紹介します。

まず、ご紹介したいのは購買前満足、購買時満足、購買後満足という3つのキーワードです。この3つがきちんとサイクルとしてまわっているかどうかをいつも意識しています。百貨店でよくいわれるのは購買時満足で、買ったときの満足感がお客様にあるかどうかは重要です。たとえば、家のティッシュ・ペーパーがなくなったとき、ドラッグストアでティッシュ・ペーパーを買っても満足感はありませんよね。むしろ必需品を買わなければという義務感であり、買った後は安心感です。それに対し、私たち百貨店での消費は「必欲品」とよくいわれるのですが、欲を満たさないといけなく、買った後に満足感を持ってもらわないといけないのです。そして、購買後満足は、要するに「買ってもらえばいい」という発想を捨てることです。買ったモノを見て、買ったときのことを思い出しただけでワクワク、ドキドキするとか、「良かった〜!」と思ってもらえること。これをどれだけ増やせるかが大きなポイントだと思います。最後にくる購買前満足は、「あした買い物に行こう」という動機になるものです。たとえば、冬に「温泉旅行に行こう」というと、寒空の下で露天風呂に入ったときのあたたかくて気持ち良い感じはすぐにイメージできますよね。それと同じで、一回の買い物の後には、次の買い物に行く前の「気持ちいいイメージ」がないといけないわけです。

神原  満足度を向上させるのにも、3つのフェーズがあるということですね。いいものを並べれば売れるということではないんですね。番組でも、視聴前・視聴時・視聴後という風に切り分けて、どうしたらもっと満足度を挙げられるか応用できるかも知れません。

額田  なるほど。次に「現場は生モノだ」という感覚です。ショッピングで「ああ、いいな」と思ったモノを、次の休みに買おうと思って来店することがよくあると思います。でも、数日経つと同じモノを見ても「あれ、私、これをほんとに買おうと思ったのかな」ってなるときがありませんでしょうか。人はモノを買おうとするとき、いろんな気持ちが喚起されて「買おう!」と決めます。見た瞬間の空気感というか、やはり現場は生モノです。

よくたとえ話をするのですが、1月2日の初売りのときに福袋を売り出すとたくさんの方に並んでいただけます。大晦日の12月31日から並んでいる人もいるぐらいです。そのお客様を私たちは朝から待ち構えて、店を開けるのですが、開店と同時にエスカレーターを昇る地響きがするくらいです。我先にと「3点、買えないの?」「10点、買えないの?」と聞かれ、「お一人様1点までです。申し訳ございません」と私が答えると「なんでよ!」と怒られるわけです。そんな福袋でも、一部が売れ残ることもあり、そんな場合は夕方になると普通の商品といっしょに並んでいます。開店前から並んでいただいたお客様と、夕方のお客様は少なくとも同じモノを見ていますので、買っていただく可能性はいっしょのはずです。でも、誰も福袋には目を向けない。これが「現場は生モノだ」というわけです。では、どうしたらよいか。これは仕掛けなどに手を入れ続けるしかなく、空気感をつくっていかなくてはダメだということです。開店前の迎え方にしても、お客様への紹介の仕方にしても、すべては空気感としてお客様に伝わりますので、そこにこだわっていこうということを大切にしています。

神原  現場は生モノ。現場に、手を入れ続ける。空気感を作る。いやぁ、いい言葉です……。

額田  最後に、やはり一番大切なのが「挑戦すること」だと思います。私たちのなかでは“55%攻撃論”という言葉がありまして、その言葉をいにしえから伊勢丹という会社は大切にしています。100%の成功率があったうち、55%成功すると確信するのであれば、もうやれということです。”コト”を提案するということは、本当にむずかしいことで論理ではなかなかいろいろな方々に協力していただけませんし、ある程度は伝統を守らないといけないところもあります。でも、新しいことに挑戦し続けなくては、ならないのです。

(拍手)

Q&A

神原  ありがとうございました。では、ここで参加者からの質問を受けたいと思います。

Q:「新宿伊勢丹」というと「セールスマネージャー」より、”カリスマ・バイヤー”のイメージが強いように思っていました。その流れは、変わって来たのですか?

額田  おっしゃるとおり、”カリスマ・バイヤー”は一時代を築いたと思いますが、それは少し前の時代で90年代ぐらいのときだったと思います。昔は”モノ発信”だったんです。プロダクト・アウトともいいますが、モノに付加価値をつけることよって「いいかも」と思われる時代でした。でも、今はモノが飽和している状態なので、お客様はモノだけに関心を持たれません。マーケット・インともいいますが、逆に伊勢丹にいる私たちがお客様のトレンドを感じながら提案しています。テレビ番組でいえば、脚本家や役者はともかく、プロデューサーの名前でドラマを見るというのは、関係者はともかく、ごくごく一般の視聴者では、あまり感じないようにも思うんですね、それと似ているように思います。

Q:百貨店は売り場によってお客さんの年代区分を分けていると思うのですが、その区分は今後変わるのでしょうか? 私たちも番組をつくる際に視聴率の年代別データを見ながら「この年代に向けよう」などと話していたりします。ぜひ教えてください。

額田  新宿伊勢丹は「百貨事店」を標榜して”コト”を重視する中、ある程度年代は意識しますが、年齢という括りだけではなく、男性・女性、大学生・会社員、といった属性を意識して売場をゾーンとしてつくっています。また、最近は40代でも20代のような若々しいファッションを好む方もいるなど、年代問わずおしゃれな方が増えてきていますので、そのような気持ちのお客さまのニーズにお応えできるよう、年代ではなくお客さまの感性で分類するように心がけており、そのような売場を増やしています。ただ単にヤング、ミセス、キャリアという括りでは、もはやありません。

神原  年齢ではなく、属性ですか。なるほど……。 ひとつお聞きしたいのが、以前、今回のリモデルに際して、三越伊勢丹の大西社長を取材された雑誌のインタビュー記事の中で「2階の現場から、かなりドラスティックなアイデアを直訴された」という記述を目にしました。これは、普通の会社では滅多にないこと思うのですが……。

額田  読まれましたか…(笑)ただ「直訴」といっても、もちろん、きちんと社長室にはアポをとって行きましたよ(笑)。店舗の店頭に立つ販売員(当社では“スタイリスト”と呼んでいます)スタイリストさんたちといっしょに「2階のフロアをブランド名にしてくれませんか」といいました。実は、伊勢丹が一つのブランド名を持ってブランディングしていくのは、かなりリスキーなことです。成功してうまく売れればいいのですが、売れなかったらイメージに傷がつくからです。それでも「自主編集の自分たちの売り場をつくらせてくれ」と直談判しにいったのです。それまでなかなか進まなかったことが「皆さんの想いがそこまで強いならお客さまに伝わるね」と社長が言ってくれたことで、一気に雰囲気が変わりました。あまりいいやり方と思いませんが、ここは本当に勝負のかけどころだろうと思ったときは、それを信じてやることが大切なのだと知りました。

神原  すごいことですね。現場を最も大切にされる社長だからこそ、耳を傾けてくれた、ということもあるのでしょうね。ただ、直属の上司との関係は悪くはならなかったのですか?「上司をすっ飛ばして、社長に直談判なんてスタンドプレーだ」と言われかねないケースですよね。

額田  日ごろから、そういうことをするヤツだと思われているんじゃないでしょうか(笑)。社長や常務など、会社の上の人とコミュニケーションがとれるというのはサラリーマンとして非常に大事なことだと思います。日ごろから意識してやらないと、できないと思いますので。あとは地道な活動を積み重ねることです。何かあったときに「見ていてくれる人はいるのだな」と実感します。あとは帳尻合わせで「たまたま、そこで社長に会って」とか言えばいいんではないでしょうか(笑)。

(会場爆笑)

Q:このお話は、非常に印象的ですし、現場は盛り上がりますね。もちろん社長に直談判という話もあると思うのですが、日ごろから若手のプロジェクトがあるなど、若い人たちの声を拾うような仕組みはあるのでしょうか?

額田  どこまでを”若手”と表現するかは別として、若い・若くないという分類はあまりしていません。むしろ、お客様とじかに接している人の声を、会社のトップをはじめ全員と共有する仕組みがあるかどうかが大切だと考えております。お客様の声は、私が伝えるよりも、現場の人が伝えた方が、空気感が伝わると思います。

ポイントは、会社として「現場からお客様の声を聞きたい、ウェルカムだ」ということが、きちんとアナウンスされているかどうかです。そうした風土をつくっていくことが重要だと思います。

神原  「現場の空気感を最も大事にする」。会社全体の哲学がそこに向かっているからこそ、直訴も受け入れられるし、意識も共有されるということですね。「55%攻撃論」や“10年後の東京を意識する“という「中長期的視野」…。勝者に与えられた「挑戦権」というか「開拓する義務・使命」みたいなものが、伊勢丹にはあるのだなと思いました。もちろん、それをビジネスとして成立させないといけないのは、当然のことかもしれませんが、勝っているときにこそ、甘んじるのではなく、先手を打ち、攻め続けるのだ、ということを教わったように思います。本日は、長時間にわたりお話いただき、本当にありがとうございました!

額田  こちらこそ、ありがとうございました。

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