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2015.04.24
2014.04.19

国の予算を家計にたとえたら「月収30万なのに毎月53万円使う人」!?――30代のための財政入門【5】

みなさん、消費税8%にはもう慣れましたか? 「喉元過ぎれば…」にならないよう、上がった分の税金は何に使われるのかきっちり見届けるべく、予算の「内容」をみていきましょう。

小黒 一正 (オグロ・カズマサ)

1974年生まれ。法政大学経済学部准教授。専門は公共経済学。京都大学理学部卒業後、一橋大学経済学研究科博士課程修了。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て2013年より現職。財政、社会保障、世代間格差問題に関する研究と政策提言を続ける。著書に『アベノミクスでも消費税は25%を超える』(PHPビジネス新書)など。

――前回は、予算のつくられかたを教えていただきましたね。
いったん成立しちゃうとニュースでも報じられなくなりますけど、日々感じる税負担。予算の中身が気になります。

小黒 イメージしやすいように、本年度の一般会計予算95兆円を、月収30万円の世帯の家計にたとえてみてみましょう。
まず収入の部。国の収入は、私たちが払う税金50兆円(うち4.5兆円は消費税アップ分)と税外収入4.6兆円(たばこ専売納付金、国有林などの官業収入、政府資産整理収入、日本銀行納付金、日本中央競馬会納付金など)や日本中央競馬会納付金,国有財産利用収入で54.6兆円です。
 支出の「一般歳出等」は、56.5兆円。社会保障関係費や文教及び科学振興費など、国の基本的な事業にかかるお金です。家計にたとえると、生活費一般、子どもの養育費といったところですね。家計にたとえると31万円です。

―― ちょ、ちょっと待ってください。30万円の月収で家計費が31万円って、すでに赤字じゃないですか。

小黒 そうですよ。

―― そうですよ、って先生……。

■月収30万円で23万借金!?

小黒 さらに地方自治体にいくお金が16.1兆円。これは家計でいえば田舎への仕送りみたいなもので、これは9万円相当です。
残りの23.3兆円は国債費、つまり国債の元利払いです。家計にたとえると、ローンの元利払いのようなもので、額にすると13万円くらいになりますか。 

―― えっと、一般会計予算は95.9兆円でしたよね? 税金などで入ってくるのが54.6兆円ですから……

小黒 残りの41兆円超は借金ですね。月収30万円の家計でいうと、23万円を毎月借金して回している勘定です。

―― いや、普通、月収30万円の人に23万円は貸してくれないでしょう?

小黒 まず無理ですよね。 しかも、26年度末での国債残高は780兆円となることが見込まれていて、これに借入金、政府短期証券などを加えた国の債務残高は、1144兆円に上る見通しです。
これを家計に喩えると、7543万円のローン残高を背負っている試算となります。これは、年収360万円の人が、身の丈に合わないローン残高を抱えているようなものなんです。
以上のことを表に整理してみると以下のようになります。

日本財政を家計にたとえたら

図表1 予算を家計にたとえたら

(出所)財務省「平成26年度予算のポイント」から作成
(注)厳密には「国債及び借入金現在高」をいい、財投債、借入金、政府短期証券を合わせた国の債務残高

■個人でなく国だからより長期にできる「自転車操業」

―― 個人では無理な話が、どうして国だとできちゃうんですか?

小黒 国はその信用力と将来の課税権を担保に借金ができますからね。 例えば、個人で住宅ローンを組む場合、40年くらいが限界ですよね。それは、返済の原資である収入を稼ぐ労働期間が通常は40年くらいだからです。 ですが、国の借金の場合は、国が40年で消滅することは通常考えられないので、もっと長い期間に渡って、将来の税収を返済の原資にあてることができます。

―― でも、その借金はいつか払わないといけないんじゃ?

小黒 もちろんです。 国の予算はフロー(家計でいうと月収や支出)ですから、どこかからお金を借り続けられている限りは、一応回っています。この動きのみを見ていると、その裏側には膨大な債務があることになかなか気がつきません。
国債残高などの国の債務は、家計でいうと住宅や教育などのローンに相当するストックです。いまや国の財政は借金まみれですから、明らかに借金で借金を賄う「自転車操業」で、ツケは将来の納税者に先送りしているんですね。でも、もうそんなやり方はそろそろ限界に近づいていると思いますよ。

■本当は95兆円ではない国の予算

―― 8兆円程度、消費税で収入が増えるといっても、その何十倍もの借金があったんですね……。
家計だったら、少しくらい給料が上がっても、借金が減らないのであれば家計を切り詰めようと思いますが、報道では「今年の予算は95兆円超で過去最大」などと出てますね。 どうしてここまで膨らんでしまったんですか?

小黒 一言でいうならば、急速な高齢化で、社会保障(年金・医療・介護)の予算が急増しているからですが、それはまだ序の口です。
というのは、2025年には団塊の世代のすべてが75歳以上になるからです。その結果、2000年時には900万人に過ぎなかった後期高齢者(75歳以上)が2025年には2000万人に達し、医療・介護ニーズが急増します。医療・介護のコストは前期高齢者(60~74歳)よりも後期高齢者の方がずっと高いですから。
その点で、これまでは、ずっと一般会計の話をしていますけど、じつは国の予算は95兆円じゃないんですよ。

―― えっ!?

小黒国の予算には、「一般会計予算」だけでなく、「特別会計予算」があります。特別会計では、年金特別会計や労働保険特別会計などが有名ですね。さらに、国の予算ではありませんが「政府関係機関予算」といって、日本政策金融公庫など資本金が全額政府出資で設立された4つの法人(注1)の関連予算は、国会の議決が必要です。 今年度予算でいうと、95兆円というのは「一般会計予算」の額で、「特別会計予算」は約400兆円、政府関連予算は約2兆円です。

―― え! じゃあ足して500兆円くらいですか?

小黒 それがそうじゃないんです。 3種類の予算は互いに独立しているわけではなくて、相互に様々な財源の繰り入れが行われているんです。したがって、3種類の予算を単純に合計したものが国の予算規模というわけではないんですよ。実質的な国の予算規模は、ここ数年でいうとだいたい220~240兆円くらいです。

―― 先生、いま私、宇宙の言葉をきいているようなんですけど…。 その謎の「特別会計」というものについて、次回じっくり教えてください。 きょうは、ローン残高のあまりの大きさにショックを受けてもう頭が回りません……

(注1)「政府関係機関予算」に相当する4法人は、株式会社日本政策金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、株式会社国際協力銀行、独立行政法人国際協力機構有償資金協力部門。

――――次回に続く
●本連載では、税金、年金、社会保障、財政にまつわる質問を募集しています。当サイト公式ツイッターアカウント @dilemmaplus あてに #zaiseiQ のハッシュタグをつけてツイートしてください。

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