サイトの更新中断のお知らせ

次世代の論客を応援するサイト「ジレンマ+」は、 この度、NHK出版Webサイトのリニューアルに伴い、 ひとまず、情報の更新を中断することになりました。 長いあいだご愛顧いただき、ありがとうございました。

2015.04.24
2013.06.19

私が今、ぜひとも採用したい人:伊賀泰代×大竹智也【第1回】

 著書『採用基準』が10万部を超え、ジレンマ世代を中心に注目を集めている、キャリア形成コンサルタントの伊賀泰代さん。「就職活動の厳しさなどをことさらに取り上げ、“今の若い人は大変”と、時代にネガティブなレッテル貼りをすることに違和感があるんです」という伊賀さんと対談するのは、高校卒業後にフリーターを経て、現在はベンチャー企業の代表を務める大竹智也さんです。
 「元気ー?」「まさか、こういう場でお会いすることになるなんて(笑)」と、にぎやかに始まった2人のお話は、既存のしくみや価値観がジレンマ世代に与える影響から、未来の働き方のヒントまで、痛快きわまりなく展開していきます。

伊賀 泰代 (イガ・ヤスヨ)

1963年、兵庫県生まれ。キャリア形成コンサルタント。日興證券引受本部(当時)での勤務、米国へのMBA留学を経て、McKinsey and Company, Japanに入社。コンサルタント、採用・育成マネージャーとして17年間勤務した後、2011年に独立。キャリアインタビューサイト「MY CHOICE」(http://igayasuyo.com/)を運営。著書に『採用基準』(ダイヤモンド社)。

大竹 智也 (オオタケ・トモヤ)

1983年、兵庫県生まれ。株式会社ラングリッチ代表。兵庫県立明石高等学校卒業後、フリーターとして働きながら、自身のブログを通じてさまざまな人にWebの技術を教わり、フリーのWeb制作者として活動を開始。2010年に2名の友人とフィリピンへ渡り、オンライン英会話サービスの事業を立ち上げ、今に至る。著書に『Emacs実践入門』(技術評論社)。

「今の若者はかわいそう」という、ヘンな風潮

伊賀 ここ何年か「若者ってかわいそう」という報道が多くて気になっています。高齢者に優先的に福祉がまわっているとか、企業の雇用年齢が延長されたせいで若い人が採用されにくくなっているとか、そういう論調が多いでしょ。
 たしかにしわ寄せが若者に行ってるところもありますけど、じゃあ私が若かったころと比べてどうかというと、いいところもあるし、悪いところもある、という程度の違いだと思うんです。
 あの頃はバブル景気だったから、何も考えずに就職できましたが、でもそれって事実上、ブラックボックスから目をつぶって会社を選ぶような感じでした。インターンもないし、そもそもインターネットすらない。内定をくれた会社で、具体的に何をすることになるのか、全然わからない。携帯さえないから、企業から面接呼び出しの電話がかかってくるのを、ひたすら自宅で待たなくちゃいけないみたいな非効率な状況の中で、景気がいいから就職できただけ。別にあのころの若者が、就職活動において、自分らしいチョイスができていたわけではまったくありません。
 むしろ今は、インターネットやSNSでリアルな情報も容易に手に入るし、若い人は当時よりずっと主体的な選択ができてるはず。だから「今の若者はかわいそうだから助けてあげましょう」という風潮は、あまりにも変だなと。 私もいろんな若い人に会いますけれども、みんながんばっていて、すごくかっこいい。私が20代のときより、よっぽどしっかりしてる。大竹さんもそのひとりです。
 大竹さんは高卒で、色覚障害もあって、そういう点だけをみれば“かわいそうな若者”に分類してしまう人もいるかもしれません。でも実際には海外で起業したり、本を出せるだけの専門性を身につけていたりと、すごく前向き。マッキンゼーの若手コンサルタントと比べてもなんら遜色ない、未来のリーダーだと思います。

大竹 恐縮ですが、光栄です。ありがとうございます。いわゆる社会的弱者にメディアがスポットを当てて、そういう人たちを国全体で何とかしようとしているんだな、ということはわかるんですけれども。

伊賀 ちょっと極端な部分にばかりフォーカスしすぎですよね。

大竹 それを見た一般の人たちが、こうはなりたくないなって不安に思って、行動できなくなったら、それはちょっと本末転倒な気がしますね。

フィリピンへ行って、20万円で起業するぞ、と(笑)。

大竹 2010年に、大学三浪の友人と大学を中退したそのまた友人、それにフリーターの僕というビジネスの経験がほとんどない3人で、周囲から「絶対無理!!!」と猛反対を受けながらも(笑)、オンライン英会話の事業を始めました。
 日本の英語のマンツーマンスクールは授業料がすごく高いですが、アジアでもっとも英語が得意と言われているフィリピン人を講師として採用し、インターネットを使って授業を行えば、驚くくらい安価でマンツーマンレッスンを提供することができます。サービスの立ち上げに必要なのはフィリピン人講師とインターネットだけなので、物価の安いフィリピンであれば、お金のない僕らでも若さと勢いでできるだろうと考えたわけです。ただ、それにはフィリピンで実際に講師を集めなければならないですよね。だから会社の立ち上げと同時に3人ですぐにフィリピンに行って、結局、半年間現地で生活しました。
 海外旅行すらしたことがない状態での海外生活だったから、おもしろそうと思う反面、不安もかなりありました。でも、フィリピン人は基本的にみんなフレンドリーで、困っていたら助けてくれるし、わからないことを聞けば親身に教えてくれる。生活を始めて1週間で不安はなくなりましたね。あとはネットがあれば仕事はできるので、オフィスがととのうまでは自宅やカフェで開発作業をする、という感じで。その半年間って、経験としてすごく大きかったです。日本のいいところも悪いところも、すごくよく見えた期間でした。

伊賀 日本のどういうところがよくて、どういうところが悪い?

大竹 日本のいいところはインフラ。もう、すべてにおいてパーフェクトですね。

伊賀 電気、水道、交通機関、治安、衛生状態とか。

大竹 フィリピンでは、例えば電気なんかは1か月に1回は停電して、そんなの当たり前という感覚。僕らが立ち上げたのはインターネット事業だったから、オフィスを選ぶときはジェネレーター(発電機)が付いていることが必須でしたね。停電しても発電できるオフィスにしないといけなかった。

伊賀 大変なことですね。

大竹 道路の舗装なんかもそうですよね。日本だったら道路のブロックがちょっと崩れている程度でも、「ああ、危ないな。これ、直したほうがいいだろうな」となると思いますが、フィリピンだったら、「ほかがきれいなんだから、こんなの修理しなくて全然いいじゃん」ってなる。

伊賀 日本は細かい点まで完璧を求めますよね。

大竹 それはほんとに、すばらしいことだと思うんです。そういう意識があるかないかで、国のレベルや発展度が変わると思いますしね。ただ、フィリピンと比べると日本って、何ていうのかな、閉塞感があるというと、ちょっとニュアンスが異なるのかもしれないんですけれども……例えばフィリピンのような途上国には、ストリートチルドレンもいっぱいいて、それがすごく悲惨な状況だと思っていたけれど、現地に行ってからはそうは感じなくなったというか。

伊賀 なぜ? そういう人の数が多いから?

大竹 多いからというわけじゃなく、そこまで悲壮感溢れるような表情をしていないんですよ。むしろ笑顔ですね。

伊賀 そうなんだ。

大竹 日本でストリートチルドレンっていうと、ぐったりしていて、生死の境をさまよっているような表情をしている子どもたちの映像を目にしたりしますけど、実際は意外とそうではなかったりもする。

伊賀 メディアは意図的にそういう映像ばかり報道してる気もしますね。日本の場合は、お金も保険もなくても病院は患者を見捨てないし、最終的には生活保護もある。そんな国で失敗したってたいしたリスクじゃない。だから、好きなことをやればいいじゃないかと言うと、「それじゃあ食べていけなくなります」と言われる。
 私も世界のあちこちを旅行して、貧しい人たちをたくさん見てきたけれど、それに比べて、日本人が言う「食べていける・いけない」というイメージは、あまりにも現実離れしてる気がするんですよね。

大竹 たしかにそうですね。

伊賀 世界には洋服がボロボロで学校にも行けないけれど、食べていけてる人ってたくさんいるわけじゃないですか。なのに、こんな恵まれた日本に暮らす私たちが、好きな仕事を選ぶだけで、食べていけなくなる状況を心配しなくちゃいけないと、本当に思っているのかなって。

大竹 たしかに。起業したときも「すごいですね」とか、「いろいろ準備されたんですね」って言われましたけど、実際はフィリピンへ行く1か月前までパスポートも持っていませんでしたし、当時の貯金はたぶん20~30万円ぐらいだったと思うんですよ(笑)。

伊賀 たった?(笑)

大竹とりあえず半年間、生活しながら起業するぞ、と(笑)。それぐらいの感覚でしたね。

伊賀 もしその20万円をフィリピンに着いた直後にすられたりとか、もしくは20万円でビジネスを始めたけどお客さんが誰も来なくて、すぐ一文無しになってしまっても、食べていけないとは思わないでしょ?

大竹 うん、思わないですね。

伊賀 私も思わないんですよ。だって、そしたら日本に戻ってきてアルバイトすればいいだけだから。

大竹 そうですよね。

伊賀 全財産の20万円を持っていきなりフィリピンに行って、起業して。それじゃあ、たしかに失敗する可能性のほうがかなり高いけど。

大竹 うん、高い(笑)。

伊賀 でも、失敗する=食べていけない、とはならない。私も会社をクビになったら食べていけないかもなんて、全く思いませんでした。こう言うと、だって伊賀さんはいい大学を出ているからだと言われるんだけど、別に大学を出ていようといまいと、コンビニとかファミレスのパートとか、私だって雇ってもらえそうと思うんですよね。ファミレスの、注文をとるときのあの入力機械はちょっと複雑そうだけど、頑張れば覚えられるんじゃないかと。みんな、いったい何がそんなに不安なのか、ホントに不思議。

大竹 本当に食べていけない状況を目の当たりにしたり、そういう悲惨な経験をしている人を身近で見たことあるんですかね

伊賀 むしろ、ないから不安なんだと思いますよ。実際そういうのを見てきた人のほうが、不安は少ないんじゃないかな。

大竹 そうかもしれないですね。僕、例えば親が借金を背負って、自己破産したとかいう人が身近にわりといたんですよ(笑)。

伊賀 それは大変・・・(笑)。

大竹 でも、みんな普通に元気で生活してますし、ちゃんと就職したりもして、今、幸せって言っているわけで。失敗が人生の終わりに直結しているのかといったら、全然、そうじゃないと思う。

伊賀 そうですよね。たしかに80歳になって、病気で身のまわりのこともできなくなったら、その時点で社会のサポートとか、税金のサポートが必要だというのはわかります。だけど20代でリスクを取るのが不安だ、失敗したら食べていけなくなるかもって、どうしてすぐそういう発想になるのか、理解できないです。

大竹 失敗することは当然ありますよね。僕の場合も、今はいい感じに進んでるかもしれないですけど、1年後どうなっているかはわからないわけで。でもひとつ確信していることは、もしこのまま失敗したとしても、その失敗はいい経験になるな、ということです。

伊賀 スゴく次に生きますよね。

大竹 次はもっとうまくできる、失敗してもやって良かったなと、思えると思います。

 シリコンバレー流、失敗のススメ 

伊賀 失敗についての考え方も、全然ちがいますね。日本では、とにかく失敗しないように生きることが大事と考えるじゃないですか。目指すべきは一度も失敗しない人生だ、みたいな。

大竹 大学に落ちるとか、失業するとかは、完全に失敗扱いですよね。離婚するとバツがひとつつくのも、失敗、ということなのかな。

伊賀 そうそう。だけど、ほとんどの重要な学びは、成功より失敗から得られるものなんですよ。もしくは、恵まれた立場ではなく、恵まれていない立場にいることによって学べることのほうが、圧倒的に大きい。
 私が就職したころは雇用均等法施行前で、女性はお断りっていう会社がいっぱいありました。でも、だからこそ男性より賢いチョイスができたと思ってるんです。 今でも、例えば学歴にコンプレックスがあったりとか、コミュニケーションが不得意だとか、そういう人のほうがどこでも就職できる人より、学びが大きいんですよ。逆に恵まれている人は学べる機会が少ないので、あえて自分でチャレンジを求めていかないと、つまり、敢えて失敗の可能性が高い道を選ばないと、学びが得られないんです。
 シリコンバレーの教育なんて、その点が非常に明確ですよね。できるだけ若い年齢で、できるだけ速いサイクルで失敗しろと勧める。

大竹 そうですよね。

伊賀 これからトレンドになるのは、「できるだけ早めに、できるだけたくさん失敗する人生を目指そう」という考え方だと思います。できるだけ失敗をしないようにという考えとは、コンセプトが真逆。やりたいことがあればやってみて、失敗して、そこで学んで、また次にやりたいことをやればいい。「失敗したことない人」なんて、いざという時に慌ててしまいそうで頼りないでしょ(笑)。

大竹 そうですね。はい。失敗したという経験がほかの人よりもプラスされている。それだけ得しているというふうに考えたらいいと思うんですよ。

伊賀 財産だよね。失敗ってほんとに人生の財産です。

グローバル化を逆行させる? “新卒就活チケット”

大竹 僕、大学には進学しませんでしたし、高校を出てからはフリーターをして、そのあとは起業したので、大学生の新卒での就活の実態ってよくわからない。だから完全に僕の中でのイメージでしかないんですけれども、大学生の就活って、まず大学へ行くことによって“新卒就活チケット”を得るところから始まる、というイメージなんです。大学へ行ったらそのチケットがもらえて、そのチケットには有効期限があって、そのあいだに消費しないと大学へ行ったこと自体の価値がなくなっちゃう、みたいな。

伊賀 たしかに。

大竹 だから期限内に使い切らないといけない。そこが焦りの元凶になって、判断を狂わすのかなと、ちょっと思います。

伊賀 なるほど。

大竹 例えば、ほんとは買いたいのかどうかわかんない商品なのに、「きょうだったら半額なんですけどね」って言われて、うーんって悩んで、結局買って、全然使わない、みたいな。

伊賀 バーゲンやセールはよく失敗しますね(笑)。焦って選んだ結果、まったく似合わないワンピースを買ってしまうとか、そういうことが就活で起こってるってことですね。

大竹 自分の人生ですし、悠長に構えろって言っているわけじゃないですけども、やっぱりそれこそ慎重に選ばないと。
 学生時代ってたしかに、何をどうやったら就職できるの?みたいな不安はありますよね。例えば大学へ行って、就職活動して、会社の採用試験を受けて入社する、という流れを、まずは想像すると思う。でも入り口って、意外とそれだけじゃないというか。アルバイトから正社員になることも当然ありますし、逆にバイトしてみたら、自分の思っていた仕事と違ったということも当然あるわけで。だから、大学、就活、入社、という流れがないと働けないという先入観を、一度捨ててみたらいいんじゃないでしょうか。

伊賀 今、大竹さんが話されたことと、このあと話したいと思っていた世界と日本の乖離の話がつながってます。なぜかというと、そんなふうに思い込んでるのって、日本の大学生だけだという気がしませんか?

大竹 たしかに。うん、します。

伊賀 日本では大学に入ると、6か月だけ有効の“新卒就活チケット”を授業料の500万円と引き換えに買えるって感じでしょ。でもそういうチケットを使わないと、社会に出て働く方法が見えないなんていうのは、たぶんフィリピンではまずないと思うし。

大竹 ないですね。はい。

伊賀 中国や台湾、シンガポールとかタイの人とかも、そう思ってないでしょ。アメリカだって働いた後で大学院に戻ったり、起業と就職を繰り返したりするから、いろんな道があるということはわかってる。ドイツなんかも大学にやたら長くいて、その間、半分は働いていたりもするし。

大竹 フィリピンには新卒採用っていう概念がそもそもなかったんですよ。フィリピンで英会話の講師を雇おうというときに、新卒採用というのは日本ならではのやり方だったんだとわかった。フィリピンでは、求人サイトに応募条件を載せて、それを見た求職者が、大学卒業したてであろうが、既職者であろうが、関係なく応募して、それを平等に面接して、採用するという、それだけのことなんですよね。
 あとユニークだったのは、自分の足で町中のオフィスをたずねて、履歴書を配ってまわる就職活動者がいたこと。”Walk-in applicant”と呼ばれているんですが、飛び込み営業のような感じで就活をしているんですよ。それもフィリピンでは別段おかしなことではなくて、目に留まれば面接して採用するって感じでした。

伊賀 なるほどね。アメリカのビジネススクールでも、この時期に就職活動してくださいねっていう時期は、一応、決まってはいるんです。でも、その時期しか社会への入り口がないとは誰も思っていないわけで。そこじゃなくてもいいと。

大竹 そうですね。

伊賀 転職にしても、日本人って、辞める前に次の会社が決まってないといけない、そう思ってるんですよ。企業側も職歴のインターバルを気にするからでしょうけど。だから、仕事で忙しいから転職活動ができない、という話になる。
 欧米だと、会社を辞めてから仕事を探す人もたくさんいます。何年か働いていれば、3か月くらい食べていけるわけですよ。ならば1か月はゆっくり休んで、あとの2か月で就職活動をして決めればいい、という感じ。日本って、グローバル人材がどうのとか言いながら、完全に日本ローカルな仕組みで人を雇おうとする。

大竹 完全に日本の常識の中だけで人を育てていますよね。

伊賀 本当にそう。最近やっと通年採用する会社が増えてきてますけど、世界から見れば「通年採用」って言葉が存在すること自体が不思議。
 最近やたらと使われる「グローバル人材」という言葉もほんとによくわからなくて。あれって、英語で何て言うんでしょうね? グローバルスタッフ? そう言っちゃうと、まったく魅力的な言葉ではないんですね。そんな言葉では、海外でいい人は雇えない。
 英語にもできないような言葉を使って、世界でほとんど行われていないような就活システムで人を雇って、グローバル人材が必要だとか言われても、グローバルになりたいのか、日本オリジナルでいきたいのか、よくわかんないです。そもそも、大企業が足並みをそろえて、今日から面接解禁とかって変でしょ? 大企業が決めたルールに粛々と従う人を採用したいってことなんでしょうけど、そういう人が、グローバルに活躍できるとは思えない。

大竹 いや、本当にそのとおりだと思いますね。


【第2回】へ続く

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