サイトの更新中断のお知らせ

次世代の論客を応援するサイト「ジレンマ+」は、 この度、NHK出版Webサイトのリニューアルに伴い、 ひとまず、情報の更新を中断することになりました。 長いあいだご愛顧いただき、ありがとうございました。

2015.04.24
2014.02.18

「今読者はどこに? 2014編集者の挑戦」番組収録後インタビュー:武田俊

2014年2月23日(日)0:00~01:00放送予定のニッポンのジレンマ「今読者はどこに? 2014編集者の挑戦」収録後、武田俊さんにインタビューを行いました。

武田 俊 (タケダ・シュン)

1986年 愛知県名古屋市生まれ。 KAI-YOU, LLC. ファウンダー/ディレクター。2011年、「すべてのメディアをコミュニケーション+コンテンツの場」に編集・構築するメディアプロダクション、KAI-YOU, LLC.(合同会社カイユウ)を設立。編集者、エンジニア、UI/UX/3DCGデザイナー、Webディレクター、イベントプランナー、イラストレーター、シナリオライターなど様々なスタッフを擁し、新しいメディアとコンテンツ、ユーザーの関係を「編集」すべく多くのプロジェクトを展開中。

――番組出演にあたって、いちばん伝えたかったことは何ですか。

武田 収録では、「編集者」のなかでも出版業界の話がメインとなりましたが、個人がメディア化している現在のWeb状況を見据えると、これまで出版業界のなかで培われてきた「編集」というスキルが、業界内に伝わる秘術としてではなく誰もが身につけられるスキルになっていけばいいな、ということです。
 収録でも話したのですが、今はソーシャルメディア経由で情報を入手することが当然になっています。しかし、そこで得られる情報とは、あくまで自分が恣意的に切り取った、世界の断片でしかないことを忘れてしまいがちです。
 何かを選び取ることと選び取らないことは同義であり、選び取らなかったところに何があるのか、という想像力を働かせて情報を「編集」できるようになれば、世の中がもっとおもしろくなるのではないでしょうか。
 人の変化に合わせてメディアも変化・進化していきます。私たちの運営しているKAI-YOU.netのようなポータルメディアが、そういう人を増やす役割を担っていくことができればいいな、ということをずっと思ってきました。

――きょうの番組収録のなかで、気になった話題や発言はありましたか。

武田 佐渡島さんが、「昔は本を読むことがかっこよかった。今はそうではなくなっている」とおっしゃっていたのが印象的でした。まさにその通りだと思います。
 その意味では、いまかっこいいのは圧倒的にインターネット。かつての編集者的な仕事を目指していたような優秀な若者がWeb業界に集まっています。僕らも「新しいかっこよさ」みたいなものは常に提案していきたい。
 趣味嗜好が細分化されている今、いくらメディア側が「このアーティストがかっこいい」「このグラフィックがイケてる」と発信しても、はっきり言って意味がない。イケてる人は勝手に出てくるし、周辺の人が自然とフックアップして1つのカルチャーすらできあがります。けれど、どれだけ熱量のあるカルチャーも、特定のコミュニティに根ざしすぎてて、すごく狭いところに集まっているだけなんですね。そこでKAI-YOU.netでは、そういった個別のカルチャーやコンテンツを編集によって繋げる。ジャンル間の壁を取り払って、よい意味で相互干渉をさせ、大げさに言うと一つのムーブメントとして見せるような編集方針をとっています。それが僕らの言う“ポップ”なカルチャー、“ポップ”なコンテンツです。
 そのためにも、KAI-YOU.netでは情報の前提を共有していない人でもわかるような導入を記事内に設けたり、文脈を越えて届きうる表現を持っていながらも、まだ多くの人に知られていないコンテンツや作家さんを意識的に紹介しています。
 Web媒体はユーザーとの距離が近く、また反応も早く得られるので、消費状況やユーザーの思考のあり方を変えていくことができるのではないかなと思います。

—今後、KAI-YOU.netはどんなメディアになっていくのでしょうか。

武田 しきりに言われる「雑誌が売れなくなった」要因の1つとして、昔は特定の雑誌好きが一定数いたのに、今は雑誌のブランドではなく特集次第で雑誌を選ぶ人が増えたからということが言えるのではないでしょうか。
 現在のKAI-YOU.netは、幅広いジャンルから新しく、ポップなものをピックアップしてまとめる、という方針で編集していますが、今後は特集のような企画をもっと設け、毎回新しい読者を呼び込むことを考えています。その上で、「好きなクリエイターのインタビューが載ってるから、初めてKAI-YOU.netというサイトを見てみた」という新規ユーザーが、サイト内を回遊して他の記事に興味を持てるように、コンテンツ制作と技術的な工夫を試行錯誤しているところです。
 「編集者」には、作家さんと密に向き合って一つの作品を作っていくタイプと、雑誌などのメディア作りが得意なタイプの2パターンに分かれるという話が出ました。これからの新しいメディア編集者に求められるのは、それに加えてテクノロジー・デザイン・PRの知識とノウハウでしょう。
 KAI-YOU.netで私たちが挑戦したいことは、インターネットの情報空間を更新するという点で一貫しています。今後もぶれずに、より多くの人にいい情報を届けていきたいです。世界はまだまだおもしろくなる、ということを提示できるメディアを目指しています。

—編集者としてのご自身の「強み」って何だと思いますか?

武田 VTRで内田樹さんが「現代の活字メディアは読者のレベルを低く見積もって、小手先でごまかす本作りが多くみられる」といったことをコメントされていました。いっぽう、同じくVTRで紹介されたように、本が売れない現状を打開するため、新しい販売戦略に挑戦しているディスカヴァー・トゥエンティワンさんのような会社が生まれていることも事実です。
 従来の出版社の編集者は、著者とじっくりお付き合いしていい本を作れば、売れなくてもまあ仕方ないという雰囲気のなか、このような現状を見ずに済んでいた側面もあると聞いています。ですが、同時にそれじゃまずいという危機感も生まれつつある。
 その両方の事情を理解しながら、ベンチャー企業の利点を活かしてある程度自由に動けるという立場が、自分たちの強みかもしれません。
 本に育てられたという気持ちは僕も非常に強いです。本への愛情があるからこそ、そこからいただいたものをより今の時代に合ったものに変換して届けるために、KAI-YOU.netを運用していきたいと思っています。また、将来的には本やそれ以外にも自社プロダクトを制作し、適切な方法で販売していきたい。
 世代的にも、メディアの変革に対応していかなくてはいけない立場でもあります。メディア業界のなかで、KAI-YOUならではの役割を担って期待に応えていきたいです。