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2015.04.24
2014.02.18

「今読者はどこに? 2014編集者の挑戦」番組収録後インタビュー:丹所千佳

2014年2月23日(日)0:00~01:00放送予定のニッポンのジレンマ「今読者はどこに? 2014編集者の挑戦」収録後、丹所千佳さんにインタビューを行いました。

丹所 千佳 (タンジョ・チカ)

1983年京都府京都市生まれ。編集者。京都府立嵯峨野高校京都こすもす科人文芸術系統を卒業後、東京大学文学部卒業。専攻は美術史学。2006年、株式会社PHP研究所入社。東京の新書出版部を経て、2009年より京都のPHPスペシャル編集部で月刊誌の編集に携わる。2013年11月に、文藝ビジュアル誌『mille』(PHPスペシャル12月増刊号)を新たに発刊。編集および広報宣伝をほぼ一人で担当。販売・営業にも関わった。

—番組出演にあたって、いちばん伝えたかったことは何ですか。

丹所 「出版不況」をどうするのか、編集者にできることは何か、「読者」はどこにいるのか。このテーマは私自身考えたいことであり、考えなくてはいけないと思っていたことでした。他の出演者の、活躍されている方々の話を直接聞いてみたいという好奇心もありましたので、いいきっかけをいただけました。
 今の出版業界が抱えている危機の一つに、現場の疲弊や閉塞感があります。一人ひとりの編集者が、目の前の「仕事」というより「業務」に追われてしまい、何をやりたいかとか将来への展望を語るどころか、考えてみることすらできにくくなっていると感じています。
 そもそもは、これは読者に伝えたい!とか、この書き手をぜひ世の中に出したい! という気持ちがあっての出版のはずが、いろいろすっ飛ばして、「売り上げのため」が先に立っている現状があるのは否めません。
 もちろん、商いや営みとして続けていくためにも、書き手の方をはじめ制作にかかわるすべての方に適切な報酬が行き届くためにも、売り上げは重要なのですが、もうちょっと夢や希望を語ってもいいのではと。

—きょうの番組収録のなかで、気になった話題や発言はありましたか。

丹所 4名のうち私以外のお三方は主にウェブ(従来の出版とは異なるコンテンツ)をフィールドとされているので、お話を伺うだけでも刺激になりましたし、発見が多々ありました。
 トークの過程で、私は自然と「紙の本」側の人間という立ち位置になりましたが、紙かウェブか、という二項対立では必ずしもないと思うんですね。今回みなさんのお話を聞いて、紙もウェブもある広がりのなかで、もっともっとできることの可能性があると感じましたし、編集者としての役割も多様化していくはずです。その上で「紙かウェブか」という聞き方をされるのであれば、私自身は紙のほうでがんばりたいなと思っています。紙の本でできることを模索していきたいです。

—編集者として今後やりたいことはどのようなことですか?

丹所 単純に私自身がまず一人の読者として「本」が好きで、たくさんの喜びを本からもらっているので、たまたま今こうして本を送り出す側にいるかぎりは、大げさかもしれませんが、何か恩返しをしたいという気持ちです。
 「ビジネスモデル」とか「マネタイズ」とか、何か大きな仕組みそれ自体を変える、新しく構築するといったことは、たぶん自分の性には合っていないんです。そうしたことよりは、ある意味愚直に、一つひとつの企画や本を掘り下げて作っていくことを、私はやっていきたいです。

—雑誌を作るとき、何が最も大きなモチベーションになりますか?

丹所 まずは「好き」「これをやりたい」という思い、そしてその情熱を、いかに潰えることなく燃やし続けていくかに尽きますね。
 もう一つは、「協力してくれた人たちに報いたい」という気持ちでしょうか。
 『mille』を作り始めて、「こういう本を作ろうとしています。力を貸していただけませんか」とお願いに行くと、たくさんの書き手や書店の方々が「いいですね」「ぜひ協力させてください」とおっしゃって、想像していた以上に応援してくださいました。それにとても感激して、この本を出すことでその方たちに報いたいと、「報われたい」ではなく、彼らに「報いたい」と思いました。
 まだ見ぬ読者に対してもそういう気持ちがあって、だから編集後記に書いた「すべての方へ、お礼もうしあげます」という言葉は、本当にそれしかなかったんです。

—そもそも、どのような経緯で一人で雑誌を刊行することになったのでしょうか?

丹所 5年ほど月刊誌の編集に携わる中で、「もし自分で一から雑誌を作るとしたら、どんなものにするだろう」と何となく考えてはいました。
 そうしたら、2013年のはじめごろ、通常の月刊誌とは別に何か増刊号を出そうという話が社内で持ち上がったので、「私、こういうのやりたいです!」と手を挙げて、具体的な企画案を出しました。それですんなり通ったわけではなくて、正直、内容は会社の上の人たちにはまったくわからなかったみたいです。でも、わからないだけに「こんなのダメだよ、売れないよ」とも言い切れなかったようで、「そんなに言うなら、やってみたら?」となりました。
 そして『mille』を出すことが決まって、営業の人間と20軒くらい書店を回ったところ、老若男女幅広い方々に共感や賛同をいただき、背中を押されました。
 特に雑誌の編集者が書店さんとお話する機会はあまりなかったので、貴重な経験でした。当たり前のことかもしれませんが、「書店員さんは本が好きな人たちなんだ」というのを肌で感じられたのは、『mille』のことを抜きにしても非常に心強かったですし、大事なこととしてあらためて認識しました。

—編集者としてのご自身の「強み」って何だと思いますか?

丹所 仕事をした方に、「好きなものに貪欲で、ブレがなく、変なこだわりがない」と言われたことがあります。たしかに、「好き」になるとすごく好きになる。人が自分の好きなものについて語るのを聞くのも好きで、それは一つ強みと言えるかもしれません。
 「好き」というと、独りよがりとか自分勝手とか思われがちな場合もありがちなようですが、そうではなくて、自分の好きなものも人の好きなものも、もっと知りたいし大事にできたらいいと思うんです。
 「すごい」とか「面白い」と感じる、心を動かされる、知りたいと思う、「これだ!」というもの。自発的で、主体的であること。すごく切実で、それがないと生きていかれない。
 きっと他の3人の方もそうだと思ったのですが、そういう気持ちがすべての始まりで、それがあるからこそがんばれるんじゃないでしょうか。 自分が感じる「面白さ」を信じられるし、読者のことも信じたい。その気持ちが編集の原点になっています。