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2015.04.24
2012.12.07

コモディティを量産する学校教育はまずい:瀧本哲史×藤川大祐

「藤川さんでなければ対談は引き受けなかった」とは、NHKEテレ「ニッポンのジレンマ」に出演し、現在はNHK「NEWS WEB 24」の火曜日ネットナビゲーターも務める京都大学客員准教授の瀧本哲史さんの言葉です。千葉大学教育学部教授の藤川大祐先生と瀧本さんは、ともに「ディベート甲子園」を運営する仲間。17年来の付き合いになる二人の対談は、いつしか若者への強烈なメッセージに……。

瀧本 哲史 (タキモト・テツフミ)

京都大学客員准教授。大学では「意思決定論」「起業論」などを担当。NPO法人全日本ディベート連盟代表理事。エンジェル投資家。著書に『武器としての決断思考』『武器としての交渉思考』(ともに星海社新書)。

議論するための素材を提供するのが「NEWS WEB 24」

藤川 瀧本さんはNHKの「NEWS WEB 24」という番組に週1回(火曜日)出演していますね。

瀧本 そうそう。でも僕、NHKとか、TVに出るのとかも嫌いです。

藤川 えっ、そうなんですか?

瀧本 ええ、「ニッポンのジレンマ」も(出演依頼が)何度も来たからやむをえず出た、という話で……。「NEWS WEB 24」のほうも、(番組担当者が)「私、この本(瀧本さんの著書)がキッカケで考えたのです。NHKの中を変えなきゃいけない、NHKにゲリラが必要なんです」と言って、「NHKのニュースを変えていきたいと思ったんで、瀧本さんにぜひ来てほしいんですけど」って言うから。しかも、「この企画が上に通るかは、正直まだわかりません」という段階だったので、“リスク大好き~!”って感じで受けてしまったわけです(笑)。そしたら、企画がたまたま通ったんですよね。

藤川 そうだったんですか。まぁ瀧本さんらしいというか(笑)。

瀧本 あの番組は、NHKの中で、今のNHKのニュースの文法が時代の変化に追いついていないのではないか、何か変えなきゃと思った人たちが、それぞれ違う部署から集まって、パートタイムで回しているんです。実はNHKって、外部のレギュラーコメンテーターはまず使わないじゃないですか。でも、「NEWS WEB 24」のネットナビゲーターはネットのほうから来ました、ってことにして、その文法を若干変えたわけですよ。で、そうなると橋本さん(「NEWS WEB 24」の橋本奈穂子アナウンサー)は一転して、「彼女がいなければこの番組はできなかった」っていう評価に変わるわけ。

藤川 それは、どういうことですか?

瀧本 原稿を読むときに、まだまだとちりがある橋本さんは、僕から言わせればアナウンサーとしては1.5流くらいです。でも、彼女は全然違うところで差別化されています。彼女はアドリブ的なものにものすごく強い。学生のころ橋本さんはジャズをやっていたらしいので、それも関係あるのかもしれませんが、即興性のあるやり取りがすごく得意です。NHKは段取りを求める番組が多いので、そういうことを求める番組は、少なかったんですけど、「NEWS WEB 24」だからできた。だから彼女はあの番組でブレイクしていると思う。

藤川 なるほど、おもしろいですね。

瀧本 才能の組み合わせっていうのは、偶然のファクターが必ずあるんですよ。NHKが変革期にきたので、彼女のような人材を求めたと。報道に移ったとき「なんで自分なの?」って悩んだらしいですけど、結果的には、ああいう新しいタイプのNHKのニュースは彼女しかできないと思う。人の才能ってそういうものなんですよ。

藤川 採用のとき、その橋本さんの可能性を見抜いた人がいるとすればすごいですね。

瀧本 で、これは別のところでも言っている話なんだけど、メディアっていうのは元々新聞のことなんですよ。新聞は元々どういうものかというと、カフェ文化と繋がっているわけ。ここでいうカフェは社交場のことで、カフェ文化は政治とすごく繋がっていた。そこには実際に政治的に何らかの影響力がある人たちが集まって、政治的な論争をするわけです。初期の民主主義ですね、制限選挙の世界です。そのときに、政治の議論をする材料を提供するのが新聞でした。つまり影響力のあるコミュニティが存在して、彼らの議論の素材を提供する、それが初期のメディアだったんです。

藤川 なるほど、おもしろい話ですね。

瀧本 そういう意味で「NEWS WEB 24」という番組は初期のメディアに戻ったんです。ソーシャルメディアがそれなりに世の中に影響を与える可能性が出てきたわけです。そのパワーを持った人たちのコミュニティが議論をするために素材を提供している。だから僕はこの試みがすごくおもしろいと思うんです。

藤川 ソーシャルメディアが出てきて、民主主義をどうするのかが、私もかなり重要な課題だと思うんですね。当然、そこでマスメディアの役割も違ってくるはずですし。選挙制度とか代議員制度も今のままでいいのかって話になりますよね。いろいろと考えなきゃいけないと思っています。その意味で、今の話はとてもおもしろいです。

瀧本 僕は、今の代議員制度、間接民主制にそんなに問題ないとは思っているんだけど、もっとロビー活動がしやすくなってるといいですよね。だから「ニッポンのジレンマ」でも、もっとちゃんとロビー活動やればいいって言ったんですけど。

藤川 国会議員に働きかけて何かが変わるっていう感じは、私はあんまりしないですけどね。やっぱりそれは官僚がまず仕切っているんだろうし。何か政策を実現させたいと思ったら、官僚とつながるとか、審議会か何かのメンバーになるとか、そういうところから始めないと無理かなという気はしているんですが。

瀧本 ソーシャルメディアでいえば、僕はTwitterがすごくいいと思っていて、これにしか興味ないんです。なぜかというと、Twitterは関心によってつながっているから。で、結構ちゃんとした人がやっているんですよ。まだ若いけどすごく才能のある学者とか、霞が関の中の人とか、各分野のたくさんの人と出会えたというのが、僕にとってアリだったんです。実は「NEWS WEB 24」も霞が関の人たちが結構見てるんです。放送時間帯もちょうどいいみたいなので。さらに言えば、昔、私は、ある人が命をかけて、実際に大臣に陳情して、政策を変えた例を間近に見たことがあるので、意外に世の中は動くと思っています。


批判するだけの人、ガスが抜けて満足する人

藤川 お上がやってくれないって不満を言う人って昔から多いですけど、そうは言ったって民主主義なんだから、どうやって自分たちが望む政策を実現させるのか、もっと今の時代に合った方法を確立しなきゃいけないと思うんですよね。

瀧本 文句言っているのはラクなんです。他人のせいにすればラクなので。じゃあ全権与えるからやってみろって言っても、どうせできない。

藤川 これね、教育の業界はそういうのがとっても強いんですよ。伝統的に、文部省(文科省)がダメでしょって言ってれば済むようなところが多かったので。

瀧本 昔、あるタクシー会社を再建したときの話なんですが、規制緩和でタクシーの数を増やすことが簡単になって、質の高い乗務員の採用が勝負すべきところになりました。すると他の部門からは「ちゃんと採用をやっていないから、うちの部にはろくな人材が来ない」とかブーブー文句を言ってくる。そんなに言うならってことで、「ぽーんと予算倍増して君たちにあげるから、必ず、結果出せよ」って言ったんですね。で、ほとんどの人は引いてしまったんだけど、一部の人たちは「やります!」って言って、彼らで部署横断のチームを作ったら、結果を出しました。

藤川 先日、ある教育系の学会に行ったときの話です。最近、教員養成のカリキュラムの中で、大学4年生の終わりの演習(「教職実践演習」)を新たに必修にしなきゃいけないことになったんです。すると、必修にすると教員側がやりづらいし、大学が統制して無理やり学生を縛るみたいな感じがしてよくないんじゃないかって、ある研究者が言うんです。私はその人に「では、制度はないほうがいいと思うのですか」と質問してみました。「いや、そういうわけじゃない」と答えるので、「どうしたらよくなるのか理想を教えてください」と言ったら、「今はこうなんだからしようがない、その中でどうするかを考えなくちゃいけない」と言う。これでは、制度設計や政策を自分で考えているわけではなく、国が行ったものをただ批判するだけが仕事になっている。この研究者が特別ではなく、こういう人が教育業界には多いと思います。

瀧本 TVで見る若手の論客とかにも、そういう人多いじゃないですか。つまりガス抜きが仕事なんですよ。

藤川 それに共感して、ガス抜きで満足する人たちもいるんですよね。

瀧本 僕もメディアに出ていますけど、それは手段であって、僕の真の目的はメディアの人を変えるっていうことなんです。

藤川 人、なんですね。

瀧本 一人で頑張るのには限界があるし。だから僕、「NEWS WEB 24」の仕事の半分は、この番組をどうするかってことを考えることにあります。最初は番組を作る人たちもTwitterの扱いがよくわかってなかったのですが、これはラジオの「はがき職人」の再定義だから、どういうものが採用されやすいか、どういう発言が意味ないのかを番組が明示すればいいんじゃないかと思い、(番組サイト内の) “NEWS WEB 24の歩き方”のようなことを提案しました。これ、原稿つくって置いておけばって担当者に言ったのは僕なんですよ。

藤川 へえ、そうなんですか。

瀧本 最初のころ、番組のあとは毎回反省会やってたんです。何度も言いますけど、僕は結果が出ないのが大嫌いなんですよ。茶番だったら、僕は降板するのも全然平気。痛くもかゆくもないし。

藤川 こういうふうに「痛くもかゆくもない」的な人は大事ですよね。自分の身や立場を守るためにと頑張る人は、間違ったことをときどき言っちゃったりするから。

瀧本 僕はね、2020年くらいまでいろいろやってみて、ダメなら日本をあきらめようと思ってて。もう期限を切ってやってます。だから最終的に日本を変えるとしたらどこを動かすかって合理的に考えると、メディアの中の人から変えるのが効率いいじゃないかってことなんです。


学校の先生が“考えない仕事”になっている

藤川 このへんで、ちょっと教育の話に戻したいのですが、さっき話が出た「ダメな大人」(第2回参照)もそうなんですけど、チームの中では役割をもって力を発揮できる人が大半だと思うんですよ。一つ得意なことがあれば、コミュニティに一定の貢献ができるってことはある。それは、いわゆるテストなどでわかる才能とは違うものです。だから多様な人と関わって多様なチームに所属して、どういうところで力を発揮できるのかを本人とか周りの人が見つけるってことがたぶん大事です。私たちが企業の方といっしょに授業をしに行くと(第1回参照)、経験的に1~2パーセントくらいなんですけど、ものすごく大きなきっかけをつかむ人たちがいるんですよ。

瀧本 へぇ~。

藤川 つまり学校って人間関係が固定されちゃってますから、お前はダメだっていうレッテルを貼られると、その役割で生きていかないといけなくなります。でも外から企業の人が来て、いつもとは全然違う論理で授業が進むと、思わぬ活躍をしちゃう子どもがいる。その経験で目の色を変えて活躍していける子がいます。つまり、そういう潜在的な可能性を引き出していくことが大事だろうし、能力が高くなくても周りの条件を変えることで活躍できるようになるとか、その人なりの役割が担えるようになるとか、そういうふうにしていかなきゃいけないと思います。「ダメ人間」と言われて、ダメなままだとつらいじゃないですか。それって学校が果たす役割が大きいですよね。

瀧本 ですね。学校は今、教育より福祉に近いって話だと思います。

藤川 瀧本さんも前に言ってましたけど、学校はつまり教員が何か教える場というよりは、一人ひとり世話をして何とか社会の中で一定の役割を担えるようにしてあげる場ってことですね。今は学校が何をしなきゃいけないのかがはっきりしなくなってきていて、ひたすら退屈な時間を提供する場になっちゃってます。教員にも、いったい社会はどんな感じなのかなって感覚があまりないんですよね。

瀧本 そうそう。教員がマニュアル労働者の典型になってて要は古いです。書店の教育書コーナーを見ればわかりますよ。「だれでもできる総合的学習の時間マニュアル」みたいな本が置いてあって、どう授業していいかわからなくて困った先生がその本を買っていくわけです。

藤川 なんか、いつの間にか「先生」が考えない仕事になっちゃってますよね。元々学校がとても好き、あんまり考えなくてもいいような学校の雰囲気も好きっていう人が、教育系の大学行ってマニュアル覚えて教員になって。で、文科省は、その流れを強固にする方向で教員養成制度を変えようとしていますからね。

瀧本 徴兵制モデルがまだ残っているんですよ。近代国家は元々常備軍をもってなくて、近代化の過程で、「国民」を形成して、徴兵してたんですけど、それはつまり“あまりやる気のないやつらも徴兵して無理やり働かせる”ってことだったわけです。現代の軍隊は志願制も多くて、もっとプロフェッショナルだし専門家がすごく訓練している。志願制のほうが徴兵制より圧倒的にパフォーマンスはいいわけですよ。やりたくないことでも、皆同じ方向に突撃!みたいなことをやる軍隊では現代の戦争は勝てない。今は志願した人たちが訓練された軍隊が勝つ時代です。

藤川 それはたぶん、例えばマニュアルどおりの作業をこなす作業員とかテレアポがんがんに入れて弾丸的に営業する人とか、そういう人たちのことだろうと思うんですけど。実はあまり要らなくなってきてますよね。そういう人たちも、これからは違う役割を担っていかないといけない。そう考えると、今までの学校教育のままではかなりまずい。

瀧本 今までの学校教育では、コモディティ(第2回参照)を量産してきたにすぎないって思います。

藤川 (NPO(「企業教育研究会」の活動も)どうやって学校教育を緩やかに変えていけるかってことでやってるんです。国の制度を変えても、たぶんどうしようもないので。もう、「総合的な学習の時間」の大失敗で痛い思いをしてますから(苦笑)。

瀧本 国の制度を変えようと考える人は、僕から言わせれば戦略性がない。国を動かせば文科省の態度が変わるっていう考え方は、それは“正規軍”自体が機能不全に陥っていて、それなりに賢い人たちがたくさんいるのに身動きとれなくなっているという現実があるんだから。うまくいかないってわかってることをやり続ける人は頭悪い、ダメなんですよ。だから“ゲリラ”で戦おうと。

藤川 優秀な若者をたくさん学校現場に送り込むシステムとかね、いろいろと考えなきゃいけないと思います。

瀧本 そう。だから僕は「Teach For Japan」を実は応援しているわけですよ。今、優秀な学生がめちゃくちゃ欲しいそうですよ。

藤川 私も、「Teach For America」が成功したのを見て、ああこの手があったかと思いましたね。優秀な学生を学校に送る活動を、ちゃんと経済的なバックグラウンドをつくってやってるわけですからね、うまい仕組みです。まぁ、アメリカの場合は格差が大きいので、特に恵まれていない条件のところに行かせるっていう大義がありますので。

瀧本 日本もそうですよ。生活保護受給率が高いところは、お約束のように教育困難だとか貧困だとか問題があるわけですけど、そういうところであえてやっているんです。すごいと思いませんか?

藤川 貧困は、やっぱり子どもたちに大きな影響を及ぼしますから。学校だけで何とかできないことが多いですよね。そこに優秀な学生たちが入って、社会システム全体を見直しながら、この子たちに何ができるかって考えて……。

瀧本 「瀧本さんって再分配問題に興味なさそうな感じなのに、なんでやるんですか」ってたまに聞かれるんですけど、それは彼らと関わる中で沸き起こった僕自身の意思ですから。

藤川 かっこいいね。瀧本さんは人情味が基本にあるんですよね。人情で動けるように、自分が動きやすい立場をつくっておいてね。

瀧本 結局いろんな面で自由じゃないとダメ。やりたいことはできなくなってしまうので。

藤川 すごく人情にあついんですよね。でもそれ、あまり伝わってないと思いますけど(笑)。

瀧本 今日はいろいろな話で盛り上がりましたが……。まぁ、この対談の組み合わせはある意味凡庸というか、当たり前すぎてだれも考えなかったというか(笑)。

藤川 本当にそうですね(笑)。でも楽しかったです。今日はありがとうございました。

瀧本 こちらこそ、ありがとうございました。


【了】

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